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夕陽に隠れた笑顔
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その後もいくつか店を回る事一時間。
帰り道時、ミエガさんは大量の荷物を台車に入れて引っ張っていた。
台車には長い柄とその先に手を引っ掛けられる楕円がついていて、それを持つと引っ張れるようになっている仕組みだ。
大型犬の散歩をしているように見えなくもない。
「それにしても、久しぶりに外に出てみましたけど、楽しいものですね」
「そうでございますか」
「はい。店員さん達も皆さん優しかったですし」
ちょこちょこと気になる態度があったけれども、それはそれとしてって感じでもある。
「そういえば皆さん、ミエガさんはいい人だからって言ってましたね」
「そうでございますか」
「ええ。でもそれは身をもってわかってますからね」
たまに思い込みが激しい所もあるにはあるが、それは彼女の個性だし、俺は別に不快な思いをしてはいない。
それに俺は彼女にとても助けられている。
むしろちょっとくらい俺を頼ってくれてもいいのになとさえ思っている。
「……ユズル様」
「なんですか?」
「ネミエルさんと随分仲がよろしくなりましたね」
「そうですか? あーでも確かにそうですね。彼は店員、俺は客。そういう意味では媚びたり謙る必要もないし、逆にこっちが高圧的になる必要もないですから」
「そうでございますか」
まあネミエル達の場合、全員最初から好意的な態度だったしな。
そういえば不思議な話だよな。
いくらミエガさんが常連とは言っても、初対面の見た事がない人種の男が来たら、多少は警戒心を持ってもおかしくはない。
にもかかわらず彼ら彼女らは最初から普通だった。
「ミエガさん。ちょっと聞きた」
「ユズル様」
「いんで……はい? なんですか?」
「ネミエルさんやガリャーさんやズーティーさんやセーニスさんやオーラさんやピエナさんやその他皆様とは初対面なのに随分仲良くしていらっしゃいましたね」
「ですからそれは……ミエガさん?」
どこか様子がおかしい雰囲気を察しで足を止めて彼女を見る。
そこにはいつものように微笑むミエガさんの横顔。
はなく、無言で無表情で俺を見つめ返す顔があった。
「ミ、ミエガさん?」
「私とはもう一ヶ月以上も共に暮らしているというのに、敬称が取れませんね」
「ああそれは」
「未だに、未だに敬語ですね」
「いやですからそれは」
「ユズル様。私はよくわかりました」
「何がですか?」
「まだ私に対しては不信感を抱いているのでしょう」
「不信感……ですか? いえそんな事」
「良いのです。これは私の献身が足りなかったという事でございますから」
「いえそうではなくて」
「でしたら、せっかくですし」
「ミエガさん!」
暴走気味になってきたミエガさんの肩を掴む。
「ミエガさん? 落ち着いてください」
「何をおっしゃっておられるのですか? 私はただ」
「落ち着け!」
「ひゃひ!」
やば。またつい……。
ミエガさんは目をまん丸にしてしまったが、ま一旦置いておこう。
「良いですか? よく聞いてくださいね?」
「は、はひ」
俺は光が戻った翠眼をよーく見つめて話始めた。
「ミエガさんには申し訳無いけど、私はネミエル達のようにミエガさんと話したりはできません」
「ひっ」
「でもそれは決してミエガさんと仲良くなりたくないわけじゃ無いんです」
「…………ほへ?」
ほへとはまた間抜けな声を。
「良いですか? 私にとってミエガさんは生命線です。物凄く頼りにしますし、より打算風に言えばあなたは私にとって必要不可欠な存在なんです」
「ひ、必要?」
「そうです。そしてそうなると機嫌を損ね無いよう下手に出るしか無いんです」
「ですがネミエルさん達とは」
「確かに俺はミエガさんとはネミエル達のように接してはいないですけど、でもそれは相手が店員だからです。商売という壁があるからこそ、あまり気負わずに話すことができるってだけです」
「……では私わたくしは嫌われては……」
「いないです。いや嫌うわけないでしょ」
「そ、うで……ございますか?」
「ええ」
むしろ、見ず知らずの人にここまで出来るとか天使じゃん。
あ、そういえば俺は神がミエガさんに与えたきっかけだとか言っていたし、俺からしてみればあながち間違ってはいない解釈かもしれないな。
「とにかく。ミエガさんは俺にとっての特別です。なのでネミエル達との事は気にしないでください。彼らはあくまでも他人ですから」
「ネミエルさん達は他人。私は特別」
「そうです」
ミエガさんはその二言を何度も何度も繰り返し、その度に顔がとろけていく。
やがて……。
「私はユズル様の特別になれているのでございますね!」
「そうですよ。ミエガさんは私にとって大事な人なんです。ネミエル達とは比べられませんよ」
「そうでございますかっ! そうでございますかっ!」
その時、丁度ミエガさんの真後ろに夕陽が重なり、逆光で彼女の顔が見えなくなった。
けれどきっと、彼女はとても素敵で綺麗な表情に戻ってくれている事だろう。
そんなことを想像して、俺はなんだかとても嬉しくなった。
帰り道時、ミエガさんは大量の荷物を台車に入れて引っ張っていた。
台車には長い柄とその先に手を引っ掛けられる楕円がついていて、それを持つと引っ張れるようになっている仕組みだ。
大型犬の散歩をしているように見えなくもない。
「それにしても、久しぶりに外に出てみましたけど、楽しいものですね」
「そうでございますか」
「はい。店員さん達も皆さん優しかったですし」
ちょこちょこと気になる態度があったけれども、それはそれとしてって感じでもある。
「そういえば皆さん、ミエガさんはいい人だからって言ってましたね」
「そうでございますか」
「ええ。でもそれは身をもってわかってますからね」
たまに思い込みが激しい所もあるにはあるが、それは彼女の個性だし、俺は別に不快な思いをしてはいない。
それに俺は彼女にとても助けられている。
むしろちょっとくらい俺を頼ってくれてもいいのになとさえ思っている。
「……ユズル様」
「なんですか?」
「ネミエルさんと随分仲がよろしくなりましたね」
「そうですか? あーでも確かにそうですね。彼は店員、俺は客。そういう意味では媚びたり謙る必要もないし、逆にこっちが高圧的になる必要もないですから」
「そうでございますか」
まあネミエル達の場合、全員最初から好意的な態度だったしな。
そういえば不思議な話だよな。
いくらミエガさんが常連とは言っても、初対面の見た事がない人種の男が来たら、多少は警戒心を持ってもおかしくはない。
にもかかわらず彼ら彼女らは最初から普通だった。
「ミエガさん。ちょっと聞きた」
「ユズル様」
「いんで……はい? なんですか?」
「ネミエルさんやガリャーさんやズーティーさんやセーニスさんやオーラさんやピエナさんやその他皆様とは初対面なのに随分仲良くしていらっしゃいましたね」
「ですからそれは……ミエガさん?」
どこか様子がおかしい雰囲気を察しで足を止めて彼女を見る。
そこにはいつものように微笑むミエガさんの横顔。
はなく、無言で無表情で俺を見つめ返す顔があった。
「ミ、ミエガさん?」
「私とはもう一ヶ月以上も共に暮らしているというのに、敬称が取れませんね」
「ああそれは」
「未だに、未だに敬語ですね」
「いやですからそれは」
「ユズル様。私はよくわかりました」
「何がですか?」
「まだ私に対しては不信感を抱いているのでしょう」
「不信感……ですか? いえそんな事」
「良いのです。これは私の献身が足りなかったという事でございますから」
「いえそうではなくて」
「でしたら、せっかくですし」
「ミエガさん!」
暴走気味になってきたミエガさんの肩を掴む。
「ミエガさん? 落ち着いてください」
「何をおっしゃっておられるのですか? 私はただ」
「落ち着け!」
「ひゃひ!」
やば。またつい……。
ミエガさんは目をまん丸にしてしまったが、ま一旦置いておこう。
「良いですか? よく聞いてくださいね?」
「は、はひ」
俺は光が戻った翠眼をよーく見つめて話始めた。
「ミエガさんには申し訳無いけど、私はネミエル達のようにミエガさんと話したりはできません」
「ひっ」
「でもそれは決してミエガさんと仲良くなりたくないわけじゃ無いんです」
「…………ほへ?」
ほへとはまた間抜けな声を。
「良いですか? 私にとってミエガさんは生命線です。物凄く頼りにしますし、より打算風に言えばあなたは私にとって必要不可欠な存在なんです」
「ひ、必要?」
「そうです。そしてそうなると機嫌を損ね無いよう下手に出るしか無いんです」
「ですがネミエルさん達とは」
「確かに俺はミエガさんとはネミエル達のように接してはいないですけど、でもそれは相手が店員だからです。商売という壁があるからこそ、あまり気負わずに話すことができるってだけです」
「……では私わたくしは嫌われては……」
「いないです。いや嫌うわけないでしょ」
「そ、うで……ございますか?」
「ええ」
むしろ、見ず知らずの人にここまで出来るとか天使じゃん。
あ、そういえば俺は神がミエガさんに与えたきっかけだとか言っていたし、俺からしてみればあながち間違ってはいない解釈かもしれないな。
「とにかく。ミエガさんは俺にとっての特別です。なのでネミエル達との事は気にしないでください。彼らはあくまでも他人ですから」
「ネミエルさん達は他人。私は特別」
「そうです」
ミエガさんはその二言を何度も何度も繰り返し、その度に顔がとろけていく。
やがて……。
「私はユズル様の特別になれているのでございますね!」
「そうですよ。ミエガさんは私にとって大事な人なんです。ネミエル達とは比べられませんよ」
「そうでございますかっ! そうでございますかっ!」
その時、丁度ミエガさんの真後ろに夕陽が重なり、逆光で彼女の顔が見えなくなった。
けれどきっと、彼女はとても素敵で綺麗な表情に戻ってくれている事だろう。
そんなことを想像して、俺はなんだかとても嬉しくなった。
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