騎士物語〜聖銀の槍〜

ミイ

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聖銀の槍(4)

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「聖銀の騎士」アウグスト。近衛騎士団に次ぐ格式をもつ聖銀の槍の団・団長にして、王国北部に広大な領地を持つワーレン辺境伯家の後継。そして何より、王国の危機に際して赤竜の逆鱗に聖銀の槍を突きいれた英雄。

アーベル男爵の先程まで真っ赤になっていた顔は、すでに血の気が失せている。

この男爵は貴族として決しては馬鹿ではない。その為アウグストがこの村に自分を訪ねて来た意味を、この数瞬でほぼ正確に把握していた。上司の伯爵と王国に隠れて行った自分の数々の罪が、貴族院にばれたのだ。その為、貴族院から命令を受けたアウグストが捕縛をしに訪れたのだろう。なぜわざわざ聖銀の騎士が訪れたかは分からないが、今そんな事に気を取られている場合ではない。

館まで逃げなければ…。

アーベル男爵の館は、元は大戦以前に作られた砦で、四方を水堀と塀に囲まれていた。また、古に組まれた守りの加護により、攻め手の魔法も、加護も効果を発揮しづらくなっていた。さらに違法に集めた私財を投じて、数十人の私兵を集めている。

館に逃げ込めば何とかなる。

騎士団を相手に籠城し、勝てるとは決して思わないが、時間は稼げる。その間に館の大陸共通大金貨を持って、隠し通路から脱出すればいい。隣の公国まで逃れれば、大戦後間もないこの時期に、まさか追っては来れないだろう。

アーベル男爵は慎重に間合いを図る。彼の護衛は、年嵩の騎士の剣技を見ても戦意を失ってはおらず、それぞれの獲物に手を掛けている。実力差を見せつけられても、冷静な判断が出来る様な連中では無いのだ。

取り巻きの一人が、持っていた酒瓶を倒した瞬間、アーベル男爵が入り口とは逆の窓に向かって肉だまが弾むように走り出す。年嵩の騎士がそれを見て僅かに動いた様だが、それぞれに剣を握った取り巻き6人が間に入る。

後ろを気にしながら粗末な窓枠に足を掛け、転がりでる。ヘルナの家の裏には、アーベル男爵達の馬がつなぎ止められていて、アーベル男爵は汗を滝のように流しながら自分の馬に乗り、走り出す。騎士たちは取り巻き6人に足止めされているのか、まだ追って来ない。

アーベル男爵を乗せた馬が、息を切らせながら走り続ける。村から館までは、ほんの1マイリ程で、馬ならあっという間に着く。追手の騎士はまだ見えない、これは運よくどちらかに、手傷を負わせる事でも出来たかと考えていると、水堀に囲まれた館が見えた。

「開門!!開門!!跳ね橋を下せ!!」

アーベル男爵は用心深く、常は跳ね橋を上げていた。その跳ね橋が館の主の声に応じて下ろされる。1セクンデが1ウーアにも感じる。

後ろから騎士はまだ来ない。跳ね橋が地面に着く。勝った!!

「ありがとう、跳ね橋を下ろしてくれて。外から攻めるのは少々手間だからね。」

息がかかる程の距離から聞こえた声。

アーベル男爵は、33騎の騎士たちが、下ろされた跳ね橋を渡り領主の館に駆け込む姿を見る事なく、意識を失った。









ヘルナの家の取り巻き達は、年嵩の騎士にアッと言う間に意識を刈り取られた。取り巻き達を含めて誰一人、手傷のおったものさえいない事が、絶対的な技量の差を示してる。

それから僅か半ウーアの間に、アーベル男爵の館は騎士団の手に落ち、取り巻き六人も騎士団の騎士に引き取られて行った。

今は、別行動をしていた赤毛の騎士から、アウグストと年嵩の騎士・オイゲンが報告を受けている。

アウグストはヘルナとヘルナの母の方を見ようとしない。アウグストは確かにヘルナと母に用があると言っていたし、聖銀の騎士が訪ねて来ている以上、決して忘れて良いような物でもない。

ヘルナはうすうす感づいていた。アウグストは何か自分に伝えるべき事があるのだろうと。そしてそれは良い知らせではないに違いない。

「騎士アウグスト様。」

ヘルナは沈黙に耐えかね、声を出した。

「騎士アウグスト様、今回は助けて頂いて誠にありがとうございます。それで私と母には何の御用でございましょう?」

ヘルナの声に救国の英雄は柔らかい肉をえぐられたように顔をしかめた。

アウグストがオイゲンと赤毛の騎士から押し出される様に、前に出る。そして食卓に腰かけるヘルナと、母の前に進み、膝を折った。

「ヘルナ嬢、そして母君。」

心の奥から絞り出す様なアウグストの声、ヘルナの母は初めてアウグストが年相応の傷ついた若者に見えた。

「赤竜討伐の任にあたり、隊付きの薬草師の策を用いました。そのものは古来の薬草学に明るく、宮廷の薬草師とは異なる知識を持っており…。」

アウグストの後ろからオイゲンが、ワーゲン辺境伯家の家紋が入った布に包まれた何かを差し出す。

「その者は赤竜討伐の時、抜群の働きを示しました。しかし、あと一歩の時、赤竜が振り回した尾が谷の岩を崩し、その岩をわが身の代わりに受け…。今回われらと故郷に凱旋する事はかなわず…。彼は私の命の恩人です。そして掛け替えのない友人でもある、この髪飾りは赤竜との戦いの前、彼のものより預かったものです…。」

赤毛の騎士が見るのを堪えないというように視線を外す。

アウグストが包みを広げ中から取りだしたのは、一通の手紙とメーヴェの髪飾り。
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