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第3章:歯車は動き出す
112話
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過去の記憶から現実世界に戻ってくれば、一番最初に龍司の視界に映ったのは大粒の涙を流す湊の姿だった。
「――…また、泣いているのか?そんなに泣かないでくれ、湊…」
――お前の泣く姿は見たくないんだ
大きな手を伸ばし、そっと湊の涙を指で掬うと、その華奢な体を抱きしめた。
抱きしめたことで、湊は更に肩を震わせながら嗚咽をあげて泣いてしまった。
龍司は、湊を落ち着かせようと優しく背中を撫でる。
「っぅ、…ぅひっく…やっぱりっ…あれは、龍司だったんだ…ふっ…ぅ」
「湊…お前――」
真っ赤になった目元を、手の甲で拭いながら湊が顔をあげれば、驚いたような表情を浮かべる龍司と目が合った。
湊は大きな瞳を細めると微笑みながら頷く。
「龍司と…はじめて会ったのは10年前なんかじゃなかったんだ…。龍司の話で思い出した訳じゃないけど…ここで目が覚める前に夢の中で見たんだ。―――龍司かなって思ってはいたけど、やっぱりあれは龍司だった。今の龍司の話でようやく…ようやく分かった」
「…湊…。」
湊は両手を龍司の頬に添えると、静かにその唇へとキスをした。
「―――っ!!」
龍司の瞳が大きく開かれる。
「なんで俺が、龍司をこんなにも大切だって思うのか…なんで龍司を想うだけで、心臓が締め付けられるように痛いのか…込上げてくるこの暖かくて、心地の良い気持ちは何だろうって、ずっと思っていた。龍司も俺も男だし、気のせいだってずっと自分に言い聞かせてきた。」
「……。」
龍司は黙ったままじっと湊の言葉を待つ。
龍司に対する湊の気持ちを聞くことが出来る。
彼の口からどんな言葉が発せられるのか、龍司は湊をまっすぐに見つめていた。
「…でも今、やっとその理由がわかった…っ!俺、龍司のことが好きなんだって!どうしようもないくらいに龍司が好きなんだって分かった…ッ!」
「――ッ!!」
「…み、なと…お前――…」
龍司の言葉を遮るように、今度は湊が龍司を抱きしめる。
「龍司は、俺が産まれた時からずっと俺と母さんを大切にしてくれた――。…1人ぼっちになった俺をずっと…辛いことがあっても、今までずっと―…ずっと俺だけを想っていてくれた。成長する俺を優しく見守ってくれた。…それは、1人になった俺の心を救ってくれたんだよ?龍司が俺に救ってもらったって言うように…
俺だって龍司に救われたんだよ?」
「ッ…!!み、なと…」
「――だから、龍司…。今まで辛い思いをしてきた龍司は、幸せにならなきゃいけないんだよ。幸せになる権利があるんだ…」
――その言葉は……ッ
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