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第4章:ふたりの想い、消えゆく笑顔
172話
しおりを挟む「…いや、なんでもない。それよりも七瀬。家にはあとどのくらいで着くんだ?」
七瀬の感じから、恐らく呉橋の気持ちには気づいてなさそうだ。
俺のことになるとどんな些細なことでも勘づくくせに、自分の事になるとここまで鈍感だとは…。
「あと5分程で着きますわ。今日は龍司様としたい事がたくさんあるんです!だから今からすごく楽しみで…」
「そうか」
嬉しそうに話す七瀬を横目に、龍司は車の窓から晴天の空を見上げる。
雲一つない青空と眩しい太陽の光に目を細めた。
なるで、湊のような空と太陽だ。
(今頃湊はなにをしているのだろうか…)
湊の事を考えれば、考える程会いたくなって抱きしめたくなる。
想えば想う程、恋焦がれてしまう。
龍司は気持ちを切り替えるように深呼吸をすると、再び車内の七瀬へと視線を向ける。
本当の龍司の気持ちなど知る由もない七瀬は、龍司と目が合うと嬉しそうに声を弾ませながらこれからの予定を話し出した。
「龍司様!今日の予定ですが、まず自宅に戻ったら龍司様には私が作った朝ご飯を食べてもらいます。その後シアタールームで一緒に映画を見るんです!今日はどこにも外出せずに、誰にも邪魔されないように二人きりの新婚生活を楽しみたいですわ!そしてその後は―…ふふっ」
「七瀬のご飯は初めてだから楽しみだよ」
最後の一言が引っかかったが、気にしない事にした。
笑顔を張り付けて当たり障りない返事を返す。
七瀬の様子はというと、龍司の言葉に顔を赤らめていた。
そんな七瀬に様子を冷めた表情で一瞥し、龍司は再び外を眺める。
偽りの結婚だというのに、こいつは何故そこまで喜ぶことができるんだろうか。
龍司の中で疑問が浮かぶ。
仮に自分が七瀬の立場だったら、偽りの結婚など嬉しくもなんともない。
一緒にいるときは幸せだろう。
だがそのあとはどうだ?
一人になった時、きっと虚しさが込みあげてくる。
切なくて、悲しくて、辛くなってくるはずだ。
それなのに、何故にそんなに幸せそうな顔が出来る?
俺には全く理解できない。
「七瀬様、到着いたしました」
呉橋に声をかけられたと同時に、大きな白い洋館の門の前で車が停車する。
どうやらここが今日一日七瀬と“結婚ごっこ”をする七瀬の家の様だ。
月嶋財閥の屋敷ではない。恐らく七瀬専用の別宅という所だろう。
エンジンを止めた呉橋が車を降りると、七瀬が座っている後部座席の扉を開ける。
「どうぞ。足元にお気をつけて降りてください」
「えぇ。ありがとうクレハ」
「七瀬様、予定は変わらずという事でよろしいでしょうか?」
「そうね、問題ないわ。何かあったら連絡をするから、19時のディナーまで決してこの屋敷には入らないで。誰にも邪魔されずに龍司様との二人っきりの時間を楽しみたいの」
「承知いたしました。七瀬様」
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