36 / 65
不器用な嫉妬
3
しおりを挟む
「本当に言っていましたよ?」
「皇室に義弟ならいる。でも兄貴はいない。お前の聞き間違いじゃないのか」
「いいえ。絶対に『兄貴』とか『帰る』とか、『おんぶ』がどうとか言っていました」
「……なんだ、それ」
碧は頭をがしがしと掻いた。自分の夢の内容を、必死に思い出そうとしているようだ。しかし、首を傾げるに留まった。
「昔の記憶が、一部戻りかけていたのかもしれないな……」
「……思い出したいですか?」
「当然だ。自分が自分じゃないみたいで、何者かも分からない。ずっと気持ち悪いままだからな」
碧は盛大に溜め息をついて、ハンモックから降りた。風呂に入ってくるという。波音もそれに合わせて立ち上がると、碧に寝る前の挨拶をした。
「それじゃあ、私は先に寝ますね。明日は早起きして、家のこともお手伝いしますので。おやすみなさい」
「……ちょっと待て」
「はい?」
碧に腕を掴まれ、引き留められた。「人を起こしておいて、自分は先に寝るのか」と嫌味でも言われるかと身構えていると、碧の口から出てきたのは、また意外な言葉だった。
「渚は、お前をここまで送ってきたのか?」
「え……はい。碧さんが眠っていたので、声は掛けずに帰っていきました」
「ふーん……。あいつ、昨日からお前のことをかなり気に入ってたけど。まさか、食事にまで誘うとは思ってなかった」
「ど、どういうことですか?」
碧の言っている意味が分からない。渚は以前から恋の相談ができる女性の友達がほしくて、偶然、波音のことを気に入ってくれただけだ。この世界に来て間もない波音の不安を気遣ってくれるし、波音も彼を信頼している。もう友達だ。
「ああいう性格だが、あいつも男だからな? あんまり隙を見せていると食われるぞ」
「食わっ……渚さんはそんなことしません!」
「そういうのが油断だって言ってるんだ。昨日だって、自分の家でお前の面倒を見ようとしていただろ?」
「いいえ。それは単なる親切心です。だって、渚さんは……っ」
渚は碧が好き。そう言いそうになって、波音は口を噤んだ。彼の想いを、波音が勝手に伝えてはいけない。碧はとっくに知っているだろうが、こういう大切なことは、当事者同士で話さなくてはならないものだ。
(いや……碧さん、もしかして、渚さんの気持ちに気付いてない?)
渚の好意のアピールがあからさま過ぎて、碧はそれを冗談だと思っている可能性が出てきた。それにしても、碧は何に対してイライラしているのか。波音の腕を掴む碧の手に、より一層の力が入る。
「皇室に義弟ならいる。でも兄貴はいない。お前の聞き間違いじゃないのか」
「いいえ。絶対に『兄貴』とか『帰る』とか、『おんぶ』がどうとか言っていました」
「……なんだ、それ」
碧は頭をがしがしと掻いた。自分の夢の内容を、必死に思い出そうとしているようだ。しかし、首を傾げるに留まった。
「昔の記憶が、一部戻りかけていたのかもしれないな……」
「……思い出したいですか?」
「当然だ。自分が自分じゃないみたいで、何者かも分からない。ずっと気持ち悪いままだからな」
碧は盛大に溜め息をついて、ハンモックから降りた。風呂に入ってくるという。波音もそれに合わせて立ち上がると、碧に寝る前の挨拶をした。
「それじゃあ、私は先に寝ますね。明日は早起きして、家のこともお手伝いしますので。おやすみなさい」
「……ちょっと待て」
「はい?」
碧に腕を掴まれ、引き留められた。「人を起こしておいて、自分は先に寝るのか」と嫌味でも言われるかと身構えていると、碧の口から出てきたのは、また意外な言葉だった。
「渚は、お前をここまで送ってきたのか?」
「え……はい。碧さんが眠っていたので、声は掛けずに帰っていきました」
「ふーん……。あいつ、昨日からお前のことをかなり気に入ってたけど。まさか、食事にまで誘うとは思ってなかった」
「ど、どういうことですか?」
碧の言っている意味が分からない。渚は以前から恋の相談ができる女性の友達がほしくて、偶然、波音のことを気に入ってくれただけだ。この世界に来て間もない波音の不安を気遣ってくれるし、波音も彼を信頼している。もう友達だ。
「ああいう性格だが、あいつも男だからな? あんまり隙を見せていると食われるぞ」
「食わっ……渚さんはそんなことしません!」
「そういうのが油断だって言ってるんだ。昨日だって、自分の家でお前の面倒を見ようとしていただろ?」
「いいえ。それは単なる親切心です。だって、渚さんは……っ」
渚は碧が好き。そう言いそうになって、波音は口を噤んだ。彼の想いを、波音が勝手に伝えてはいけない。碧はとっくに知っているだろうが、こういう大切なことは、当事者同士で話さなくてはならないものだ。
(いや……碧さん、もしかして、渚さんの気持ちに気付いてない?)
渚の好意のアピールがあからさま過ぎて、碧はそれを冗談だと思っている可能性が出てきた。それにしても、碧は何に対してイライラしているのか。波音の腕を掴む碧の手に、より一層の力が入る。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
赤貧令嬢の借金返済契約
夏菜しの
恋愛
大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。
いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。
クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。
王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。
彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。
それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。
赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。
小さな姫さまは護衛騎士に恋してる
絹乃
恋愛
マルティナ王女の護衛騎士のアレクサンドル。幼い姫に気に入られ、ままごとに招待される。「泥団子は本当に食べなくても姫さまは傷つかないよな。大丈夫だよな」幼女相手にアレクは戸惑う日々を過ごす。マルティナも大きくなり、アレクに恋心を抱く。「畏れながら姫さま、押しが強すぎます。私はあなたさまの護衛なのですよ」と、マルティナの想いはなかなか受け取ってもらえない。※『わたしは妹にとっても嫌われています』の護衛騎士と小さな王女のその後のお話です。可愛く、とても優しい世界です。
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる