水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~

楪 彩郁

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不器用な嫉妬

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「いたっ……」
「あ……悪い」

 腕の痛みに波音が顔を顰めると、碧は我に返ったようで、すぐ手を離した。自分のことは棚に上げて、渚を警戒しろだなんて、横暴にもほどがある。波音は碧を睨みつけた。

「もう、なんなんですか!? 碧さんだって、私に手を出したくせに!」
「……それはっ……ああ、くそっ! 悪いかよ!」

 直後、何が起こったのか、波音は分からなかった。碧との距離が急速に縮まったかと思いきや、波音の頬に、硬くて温かい碧の胸板が触れた。後頭部と背中を碧の手で押さえられているせいで、動きがとれない。碧に、抱きしめられているのだ。

「……えっ? あ、碧さん……?」
「お前を見てると、変な気持ちになる。懐かしいような、愛しいような気もするし、放っておけない。困らせてやろうって思ったり、笑って欲しいって思ったり。なんでそうなるのか分からなくて、イライラする」
「ちょっ……えっ!?」
「暴れるな。おとなしくしてろ」

 先程よりも強く抱きしめられ、頬に当たる碧の胸から、速すぎる鼓動が聞こえてくる。きっと波音の心臓もそうなっているが、それを気にしているところではなかった。

(碧さんって、好きな人がいるんじゃないの!?)

 碧はなぜ波音に構おうとするのか、当の本人もよく分かっていないようだ。本能的なものが働いているのか、それとも――。

(まさか……ね? でも、もしかしたら、本当に……)

 これは、単なる想像に過ぎない。無茶苦茶な考えであることも重々承知の上で、波音はどうしても一つの仮説を立てずにはいられなかった。

 この深水碧が、あの『碧兄ちゃん』なのではないか。碧兄ちゃんの魂を、この世界で生きていた彼が、受け継いだのではないか、と。

 碧は無意識下で波音を覚えていて、昔のように世話を焼きたいが、『こっちの碧』の性格上、素直になれない。こう考えれば筋が通る。だが、目の前の碧にそれを説明したところで、受け入れてくれるとは限らないが。

「なあ」
「……はい」
「もう一回、キスしていいか?」
「は、はあっ!? なんでそうなるんですか!?」

 言われたとおり、波音は黙っておとなしくしていた。それをいいことに、碧はとんでもない提案を口にした。

(い、意味が分からない……!)

 波音が碧から離れようと暴れると、ぐっと顎を掴まれ、上を向かされてしまった。澄んだ海のように美しい瞳が、波音を切なげに見下ろしている。

「キスしたら……何か、思い出せそうな気がする」
「わ、私は関係ないです! 離してください!」
「そんなに嫌かよ。元の世界の碧とやらに、みさおを立ててるのか?」
「っ……」
「頼む。一回だけだ」

 額とまぶたに懇願するようなキスを落とされ、頬を撫でられる。背中にぞくりと電流が走り、波音は顔を真っ赤にした。
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