明敏犀利の蒸気歯車機関(めいびんさいりのスチーム・ギア)Ⅱ シャーウッド・ローズと萌木のロビンフッド

野村だんだら

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4その5

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 ガラスの割れる音に一瞬、誰もがそちらを振り向いた。
「あ、やっちゃった……」
 それでも、ミス・キャロリンの緊迫感に欠ける可愛らしいひと言で、緊張の糸がほぐれる。誤ってグラスを落とした結果、ブドウのジュースを零してしまったようだった。
「あー、やっちゃったねぇ……。これは、染み抜きが必要かしらね」
 ミリアが「困ったなぁ」とでも言いたげな口調で彼女に応じている。黄色のドレスに、紫色の染みが出来てしまっていたのだ。
 割れた硝子片をそのままにしては危険だろう。しかしながら、警備の最中にある千早が動いていいものかどうか、分からない。立ったまま、手にしたサンドウィッチをとりあえず口に詰め込んでしまうことしか出来ない。
 と、コレット女史が席を立った。
「怪我は?」
「平気です。ただ、お気に入りのドレスなのだけれど……大丈夫かしら?」
「任せて。わたし、こう見えて染み抜きも慣れてるから。貧民街の出だから、って伊達に古着を使いまわしているわけじゃないのよ」
 得意げに語るミリアである。「台所か水場を貸していただけますか? それと、キャリーの為に部屋も一つ借りたいのですけど」
 メイドとして腕の見せ処とでも言いたげな様子で、張り切っているミリアだ。
「では、あの……グラスを割っておいてこんなお願いまでして申し訳ありませんが、上の部屋をお借りしても良いでしょうか?」
「上……ですかな? 隣ではなく?」
 使用人のフレッド氏が訝しげにしている。すると、ミス・キャロリンは頬を染めた。
「もし、ロビンフッドに覗かれると……その、恥ずかしいので。三階の方が安心できそうだなぁ、と……いけませんか?」
「なるほど、分かりました」
 ニコリとするフレッド氏だ。「戸の鍵は開いておりますので、ご自由にお使いになって下さって構いませんよ。着替えの間に施錠をしたければ、メイドのシンシアに言ってください。鍵の管理は、彼女がしていますので」
 フレッド氏の言に安堵したのか、ミス・キャロリンがホッと胸を撫で下ろした。
「はい、ありがとうございます」
「それと、シンシアはジャン様のお部屋に居ますので、ミリアさん、分からないことがあれば彼女に訊いてくださいね」
「ご丁寧に、どうもありがとうございます」
 手短に一礼で応じたミリアが、ミス・キャロリンを連れて部屋を出て行く。
「鍵はいいから、ドレスをお願い……」
 戸が閉まって、切実そうな声が遠ざかって行った。
 食事が再開する。

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