38 / 140
第3章 : 乖離
高貴な防人
しおりを挟む——ふう、これで一安心
「桜華さん後ろ!」
「……っ!」
九人目を無力化して一息つくが、焦った部下の声でまたすぐに臨戦態勢へ。振り向くと同時に、後ろにいるという敵の足を狙った半回転斬りを繰り出す。
「と、跳んだ……?」
だが彼女の攻撃があたることは無くかわされる。恐るべき反射神経にて回避したのである。本能的に一歩下がり、十人目の防人を見る。
「……まさか、主が九人も無力化したのかえ?」
そこに立っていたのは、特徴的な言葉遣いの女性であった。血気盛んな防人とは異なり、どこか高貴さを感じさせる人物である。
「だったら、何?」
「大蛇は多くが子供だと聞くが……。だとすれば、悪党にしておくには、なかなかに勿体ない人材じゃ」
——悪党、か
大蛇を結成した理由は、悪党であるスサノオへの復讐だ。だがその大蛇も、防人から見れば単なる悪党であった。
不思議な事ではない。何度も防人から武器を盗んでいる。何度も防人と刃を交えている。それはもう、まごう事無き悪党である。
「じゃが、悪党にかけてやる情けなど無い。力ずくでも捕らえさせてもらおう」
——来る!
桜華から見て右より、横斬りが来た。彼女はそれを下に流し、刀の峰側の切先で傷を負わせてやろうと、勢いよく左上へ振り上げる。
——避けた⁈
敵は桜華の振り上げよりも早く後ろに下がって回避。一方で桜華は、振り上げ攻撃を不意に避けられてしまった。急所である腹が敵に向かってフリーになっている。
——や、やばい……殺す気⁈
切っ先が桜華の腹に向いた。突き刺しを狙っているようだ。当たれば桜華は本当に死んでしまうだろうが、この防人は本気で攻撃を始めた。
——っ! 避けられない!
左右どちらかに避けようと考えた桜華だが、自身の後ろには部下がいる事を思い出した。腕を伸ばそうと、体格は相手の方が大きい。桜華が刺される方が先だろう。
——仕方ない、イチかバチか!
出来るかどうかも分からぬ最終手段。とぐろを巻いた蛇を模った鍔で突きを受ける。
「ほう、やりおるな」
腹に刃物が刺さるといった最悪の事態は何とか免れた。無理に押せば自身の肘にダメージが入りかねない。そう考えた防人は、すぐさま手を引く。
「……おや?」
突然、周囲を警戒し始めた。
——?
何事かと桜華も周りを見る。気配があった。それも、数人ではない。それなりの人数が、二人の戦場を囲っているようである。
「……なるほど、援軍じゃな」
「援……軍……?」
これ以上敵が増えたら、今度こそお終いだ。一気に八人もの防人を無力化できたのは、煙幕による不意打ちのためだ。
認識された状態で大人数に囲まれたら、すぐさま捕えられてしまうだろう。体から力が抜ける。
——ああ、無理かも
——大蛇の夢はここで
ガラっと勢いよく障子が開く。その途端、聞きなじみのある声が室内にとどろいた。
「御用改めであ~る!! 神妙にしろ、防人ども!!」
「こ、小町……?」
小町を始め、大蛇の仲間たちが集結していた。
「ううむ、流石に分が悪いようじゃな」
防人は刀を鞘に納め、その場に座した。敵である大蛇を前にして、である。
「あんた……何を——」
「往け。我が方の戦力は裂かれ、主らは援軍あり。妾の負けじゃ」
「……はぁ?」
「妾を斬りたくば斬るがよい。全員でかかれば、容易い事じゃろう?」
桜華と小町は目を合わせる。言葉を交わさずとも、二人の意思は同じであったようだ。桜華は刀を納め、集まったメンバーに告げる。
「大蛇各員、撤退するよ」
「なんじゃ、斬らぬのか?」
「私たち大蛇が討つべき敵は、防人なんかじゃないから」
「ほう、その敵とやら、聞いてもよいかえ?」
「……スサノオ」
「そうか、スサノオか……。ならばその敵、我らも共に——」
「お断り。私たちは、私たちで戦う」
「……じゃが、子供らが徒労を組んだところで」
「お断りだって言ったでしょ⁈ 私たちは、防人の力なんて借りるつもりはない」
捕らわれていた部下たちも解放され、先ほどの指示に従って撤収する。最後の部下が部屋を出たことを確認し、小町も進む。
「——助けてくれなかったくせに」
桜華は進行方向を見たまま、目を合わさず防人にそう言い残した。語気は柔らかいが、確かな絶望と怒りが混じっている。
拳を強く握ったまま、桜華もアジトを立ち去ったのであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~
夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。
全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった!
ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。
一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。
落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!
神典日月神示 真実の物語
蔵屋
歴史・時代
私は二人の方々の神憑りについて、今から25年前にその真実を知りました。
この方たちのお名前は
大本開祖•出口なお(でぐちなお)、
神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)です。
この日月神示(ひつきしんじ)または日尽神示(ひつくしんじ)は、神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)に「国常立尊(国之常立神)という高級神霊からの神示を自動書記によって記述したとされる書物のことです。
昭和19年から27年(昭和23・26年も無し)に一連の神示が降り、6年後の昭和33、34年に補巻とする1巻、さらに2年後に8巻の神示が降りたとされています。
その書物を纏めた書類です。
この書類は神国日本の未来の預言書なのだ。
私はこの日月神示(ひつきしんじ)に出会い、研究し始めてもう25年になります。
日月神示が降ろされた場所は麻賀多神社(まかたじんじゃ)です。日月神示の最初の第一帖と第二帖は第二次世界大戦中の昭和19年6月10日に、この神社の社務所で岡本天明が神憑りに合い自動書記さされたのです。
殆どが漢数字、独特の記号、若干のかな文字が混じった文体で構成され、抽象的な絵のみで書記されている「巻」もあります。
本巻38巻と補巻1巻の計39巻が既に発表されているが、他にも、神霊より発表を禁じられている「巻」が13巻あり、天明はこの未発表のものについて昭和36年に「或る時期が来れば発表を許されるものか、許されないのか、現在の所では不明であります」と語っています。
日月神示は、その難解さから、書記した天明自身も当初は、ほとんど読むことが出来なかったが、仲間の神典研究家や霊能者達の協力などで少しずつ解読が進み、天明亡き後も妻である岡本三典(1917年〈大正6年〉11月9日 ~2009年〈平成21年〉6月23日)の努力により、現在では一部を除きかなりの部分が解読されたと言われているます。しかし、一方では神示の中に「この筆示は8通りに読めるのであるぞ」と書かれていることもあり、解読法の一つに成功したという認識が関係者の間では一般的です。
そのために、仮訳という副題を添えての発表もありました。
なお、原文を解読して漢字仮名交じり文に書き直されたものは、特に「ひふみ神示」または「一二三神示」と呼ばれています。
縄文人の祝詞に「ひふみ祝詞(のりと)」という祝詞の歌があります。
日月神示はその登場以来、関係者や一部専門家を除きほとんど知られていなかったが、1990年代の初め頃より神典研究家で翻訳家の中矢伸一の著作などにより広く一般にも知られるようになってきたと言われています。
この小説は真実の物語です。
「神典日月神示(しんてんひつきしんじ)真実の物語」
どうぞ、お楽しみ下さい。
『神知りて 人の幸せ 祈るのみ
神の伝えし 愛善の道』
冴えない経理オッサン、異世界で帳簿を握れば最強だった~俺はただの経理なんだけどな~
中岡 始
ファンタジー
「俺はただの経理なんだけどな」
ブラック企業の経理マンだった葛城隆司(45歳・独身)。
社内の不正会計を見抜きながらも誰にも評価されず、今日も淡々と帳簿を整理する日々。
そんな彼がある日、突然異世界に転生した。
――しかし、そこは剣も魔法もない、金と権力がすべての世界だった。
目覚めた先は、王都のスラム街。
財布なし、金なし、スキルなし。
詰んだかと思った矢先、喋る黒猫・モルディと出会う。
「オッサン、ここの経済はめちゃくちゃだぞ?」
試しに商店の帳簿を整理したところ、たった数日で利益が倍増。
経理の力がこの世界では「未知の技術」であることに気づいた葛城は、財務管理サービスを売りに商会を設立し、王都の商人や貴族たちの経済を掌握していく。
しかし、貴族たちの不正を暴き、金の流れを制したことで、
王国を揺るがす大きな陰謀に巻き込まれていく。
「お前がいなきゃ、この国はもたねえぞ?」
国王に乞われ、王国財務顧問に就任。
貴族派との経済戦争、宰相マクシミリアンとの頭脳戦、
そして戦争すら経済で終結させる驚異の手腕。
――剣も魔法もいらない。この世を支配するのは、数字だ。
異世界でただ一人、"経理"を武器にのし上がる男の物語が、今始まる!
悪役令嬢は手加減無しに復讐する
田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。
理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。
婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる