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11 誰かが殴られてる!?

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 旧倉庫街とは、アクアオッジ辺境伯が懇意にしている商会のライバルだった商会が、周囲の反対を押し切って建てた一角だ。悪評高かったその商会は強引なやり方で有名で、領主館から街までの立派な街道が完成して、王都へ至る幅の広い街道の敷設が始まるのを見て、他領からこの領の経済流通を支配すべく派遣されてきた商会だった。

 まあトーマス兄さまの活躍で、手形で頬を叩くような商売方法だった商会はアクアオッジ領からの撤退を余儀なくされ、スキャンダルと商品不買運動のせいで潰れちゃったんだけど、街の中心から外れた旧倉庫街だけが残された。とはいっても、この旧倉庫街はとても賃貸料がお安いらしいので新進気鋭の商会にとって、比較的気軽に出店が可能で小手調べの場としてはもってこいだとしてこの街は名高くなっているようだった。

 二人を旧倉庫街に下ろすと、シルフィードは出てきた時と同じように小さい竜巻と共に姿を消した。
 『気に当てられる』とやらで、高位精霊が出ている間は一切姿を見せなかったちっちゃい精霊たちがウィルフレッドにまとわりつく。火・水・風・雷・土・光の精霊がそれぞれ一体ずつ。闇の精霊は明るくなったらウィルフレッドの影の中に隠れちゃうらしい。

"ふぅー。大物オーラ苦手なのよね"と精霊たちは賑やかだ。


「まず市場と露店広場で朝ごはん食べようよ」

 メリルが言い出す。彼女はとてもとても食べるのですぐにお腹が空くのだ。食べても食べても太らない。のちに魔力を貯めておく体内の容器タンクがとてつもなく大きいということが判明するのだけれど。



 この街には運河が流れていて、中洲には新倉庫街として見事な建物が並んでいる。まずはその近くにある商館街のほうに向かう。いろんな領から出向してきている商会が軒並みひしめき合う、この街で一番華やかで人の多い場所でもある。

 向かおうとして、精霊たちが一斉に顔を歪めた。

"なにこの臭い"

"臭い。ヒトの血の臭い"

 ぴたっと歩みを止めたメリルとウィルフレッドが耳をすますと、旧倉庫街の奥のほうから声が聞こえてくる。
 おかしいよね。
 この時間はまだまだ商会が店を開ける時間じゃないから、この旧倉庫街は本来ならあと一つ鐘時間くらいは人けのない時間帯なのだ。

 しかも語尾の感じからしてあまり好感を持てる声じゃない。罵ってるような声と、ときたま聞こえる何かを殴る音。

"誰か殴られてる"

"子供。子供が殴られてる"

 ん?精霊たちの言う子供が殴られてるというのを聞いて、メリルは居ても立っても居られなくなって、音のする方向に向かって走り出した。

「ちょ。メリルダメだよ、危ないって」

 もはやウィルフレッドの制止の声も聞こえてない。
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