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20 色気より食い気

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「全く!父さまも母さまも何で言ってくれなかったの!」
 メリルよ、それは君がしょぼくれてミョルダのところにいたからだよ。ウィルフレッドだけは真相に気付いていたけれど、そっとしておくことに決めた。話を逸らそう。

「メリル、さっさと用を済ましちゃおうよ」

 メリルのお腹が代わりに返事をする。ぐ~きゅるるる……
「はうあ!」
 お腹を手で押さえるが時すでに遅し。

 しっかり聞いていたアンドリュー第三王子がにっこりと深い笑みを浮かべてメリルの手を取る。

から食べに行こうか」
 さすが。彼女を手中に収めるにはどうしたらいいのか分かっていて、的確にそこを突いてくる。

「うん。行く」
 即答だった。おごってくれる人は皆イイ人。メリルの価値観ではそうなっている。完全にしてやられていた。

「僕はサリヴァン商会長のところに先に行って説明しておく」

 心配りをいつでも忘れない長男のアーサーがそう言って、商館街の方向に去っていく。お財布の名乗りを王子が上げてくれたからいっか、そう思って。 



「じゃあ、ウィルとソルも一緒に。三人分だけどいいかなぁ?王子殿下」

「アンドリューと呼んで?呼んでくれたらいいよ?」

 もう片方の手を二人のほうに伸ばすメリル。王子がこっそり舌打ちしたが、彼女には聞こえなかった。

「うん。分かった。オンドリャー王子殿下」

 メリルは人の名前を覚えるのが苦手だった。

「ア・ン・ド・リュー。アンディでもいいよ」

「異性の愛称呼びは?って父さまが言ってた。アンドリャー王子殿下」

「……(ワザとか?ワザとなのか?)もう婚約者なんだから愛称で構わない。アンディと呼んで?じゃないとおごらないよ?」
 
「分かった。アンディ王子殿下」

「……ふぅ。今はそれでいいか」

 
 こうしてアンドリュー第三王子殿下にたらふく奢ってもらい(もちろんウィルとソルの分も)、満足いくまで露店での買い食いも満喫したメリルは、
「アンディ王子殿下ってばイイ人」
 王子の評価が爆アガリしていた。

 それを聞いたウィルフレッドはちょっと離れてため息をつく。今メリルの横には右に王子、左にはソルがべったりだ。あーあ。あの王子、完全にメリルをロックオンしちゃってるよ……。

"鈍感、鈍感よねメリルってば"

"色気より食い気"

"まだまだおこちゃまだもん"

"あの王子、相当腹黒じゃんか"

"ソルはもうメリルしか見えてないわね"

"どうなっちゃうのかな、楽しみ!"
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