古国の末姫と加護持ちの王

空月

文字の大きさ
24 / 29

再会

しおりを挟む



「アル=ラシード?」
「リル?」

  誰何すいかするまでもなく、顔を見合わせて互いの名前を口にする。
  リルの方は予測していたが、アル=ラシードにとっては予想外だったのだろう。目を見開き、ぽかんと口を開けている様は、歳相応と言ってもいいあどけなさがあった。

  やっぱりアル=ラシードくらいの年齢の子はこういうふうな方がいいなぁ、などとリルが若干ずれたことを考えていると、ようやく驚きから抜け出したらしいアル=ラシードが、噛みつくような勢いで捲し立ててきた。

 「何故ここにっ……、いや、それより無事だったのか、今までどこに、――外から来たようだが誰かと会ったか? 何かされたりは――」
 「うん、まあ、とりあえず落ち着こう、アル=ラシード」

  ほら深呼吸、と促す。混乱しているせいなのか、質問も重複気味の内容のものがあったりしているし、答えを待つという意識の欠如した矢継ぎ早っぷりだ。多少落ち着いてもらわないと話にならないだろうと思っての言葉だったが、それを受けたアル=ラシードは何とも言えない顔をした。

 「……そうだったな。お前はそういう人間だった……」

  言いつつも深呼吸するアル=ラシードに、なんだかんだ言ってアル=ラシード素直だよね、と思うリル。

 (って、『そういう』ってどういう意味だろう……)

  少し考えてみるものの、アル=ラシードの言い方からして、そう悪い意味ではなさそうだということくらいしかわからない。リルの言動に対する謎の納得の根拠らしいが、実質一日も行動を共にしていないのに、一体アル=ラシードはその間に何を見出したのだろうか。

  気になるところではあるけれど、今はそこを追及している場合ではない。リルは気を取り直して、深呼吸を終えたアル=ラシードに向き直った。

 「ええと、順序立てて説明した方がいいかなって思うんだけど……アル=ラシードは『転移所《クィ・ラール》』で魔法陣に乗った後どうなったか覚えてる?」

  リルの問いに、アル=ラシードは僅かに首を傾げて考え込む素振りを見せた。

 「……いや、魔法陣の構成が書き変わったのを見たのが最後だ。ついさっき目が覚めたからな。――そういうお前は、私より先に目覚めていたということだな。というか目覚めた場所自体も違うのか?」
 「そっか。……えっと、どこから説明しようかな……。とりあえずわたしが起きた時にいたのは牢獄だったんだけど」
 「……は? 牢獄?」

  唖然としたアル=ラシードの様子に、まあ普通そういう反応するよね、と思うリル。

 「その反応からすると、アル=ラシードの宮にはないのかな。わたしがいたの、ザイ=サイードの宮だったの」
 「……兄上の? ……ということは、一連の出来事は兄上が謀ったことだったということか?」
 「う、……うん、まあ大体そういうことみたいなんだけど」

  リルが目覚めた場所の情報だけでそこまで察してしまえるアル=ラシードに、ザイ=サイードとの血縁関係を感じて微妙な気持ちになる。シャラ・シャハル王家は異能かと思う域の察しの良さを備えてないと生き抜けないのだろうか。

 「……っていうか、驚かないんだ?」

  あまりにあっさりと納得しているので、さすがに気になって探りを入れてみる。
  アル=ラシードは特に何の感情も見せず、当たり前のことを説くように淡々と答えた。

 「元々内部の犯行だとは思っていたし、私という存在――というよりは【加護印シャーン】だな――は、私の意思に関わらず敵も崇拝者もつくりやすい。これで私が王になるのだったら使いようもあっただろうが、継承権は第二位だ。兄上からしてみれば厄介この上ないだろう。私を亡き者にした方がよいという考えに至ったとしても納得できる」

  【加護印シャーン】の希少性や初代王と精霊との関わりを考えれば、アル=ラシードの言葉は事実なのだろう。だとしても――。

 (……なんていうか、冷静に認識しすぎじゃないかな……)

  齢十を数えたばかりの子供の思考じゃない気がする。王家の人間であることを差し引いても、あまりに冷静で客観的で、なおかつ割り切りすぎてはいないだろうか。

 (『敵』と『崇拝者』って言ったし……)

  意識的にその言い方をしたのなら、つまり『味方』と呼べる人間ははいないと思っているということだ。
  王家というのは長く続けば続くほど様々なしがらみにがんじがらめになっていくことが多いし、『魔法大国』シャラ・シャハルともなれば敵味方も一筋縄ではいかないのは当然だろうが、それにしてもどんな環境なんだと言いたくなる。

  しかし他国の内情なので口を出すこともできない。結局リルはそれについては深くつっこまないことにした。

 「一応、これから先はアル=ラシードに手出しはしないって言ってたけど」
 「今回失敗したからか? 自分で言うのもなんだが、兄上の治世に【加護印シャーン】持ちの王位継承者サーリヤがいるのは望ましくないと思うんだが……」

  言外に「そんなにあっさり諦めて大丈夫なのか」と不思議そうに――見方によってはザイ=サイードを心配するアル=ラシードに、眩暈を覚えるリル。亡き者にされそうになった当人の考えることじゃない。絶対に。
  しかしザイ=サイードがアル=ラシードを殺そうとしていた理由も、それを諦めた理由も、ザイ=サイードとその母親がひた隠しにしていた『魔力がない』というザイ=サイードの特質に関わる。リルの一存で話すこともできない。

  リルとしては、いっそ兄弟腹を割って話して、王位にまつわるあれこれの調整をしたらいいんじゃないかと思うけれど、それはザイ=サイードがこれからどうするつもりなのかにも拠るだろう。即位すれば自ずと『魔力がない』という事実が晒されるような口振りだったので、王位を継ぐことはないのだろうが――。

  そこまで考えて、リルはあることに思い至った。否、そのことを思い出したという方が正確だろう。


  ――『アル=ラシードが王位を継ぐ』と、自分は『知っている』のだと。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

「ときめかない」ものなど捨てておしまいなさい

megane-san
ファンタジー
私、クリスティーナは、前世で国税調査官として残業漬けの日々を送っていましたが、どうやら過労でぶっ倒れそのまま今の世界に転生してきたようです。 転生先のグリモード伯爵家は表向きは普通の商会を営んでおりますが裏では何やら諜報や暗部の仕事をしているらしく…。そんな表と裏の家業を手伝いながら、前世で汚部屋生活をしていた私は、今世で断捨離に挑戦することにしたのですが、なんと断捨離中に光魔法が使えることが発覚! 魔力があることを国にバレないようにしながら、魔術師の最高峰である特級魔術師を目指します!

刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。

木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。 その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。 本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。 リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。 しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。 なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。 竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

慈愛と復讐の間

レクフル
ファンタジー
 とある国に二人の赤子が生まれた。  一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。  慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。  これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。  だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。 大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。  そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。  そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。  慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。  想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

処理中です...