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豪邸と出会い
しおりを挟む『人と会って1時間喋るだけで1万円』なんて、ふつうに聞いたら怪しさ大爆発のバイトに、お試しとはいえ釣られたのは、もちろん、和宮くんとの信頼関係があったからというのは一番にある。
和宮くんとは、講義で隣同士になったのをきっかけに知り合って、好きな作家が一緒で、意気投合した。それから休んだ授業のノートやレジュメを貸し借りしたりと付き合いが続いている。まあ、大学の中ではだいぶ仲がいい方だと思う。
たぶん育ちがいいんだろうな、と度々思う所作や口調。お金に困ったことがなさそうな雰囲気。
なんとなく、そう、なんとなくは予想していたのだ。和宮くん家ってお金持ちなんじゃないかな~と。
でも、これは予想外だった。
「ご、豪邸じゃん!」
和宮くんの家に案内されて、目にしての私の第一声である。
「あはは、そんなすごいものじゃないよ。確かにちょっと大きいけど」
いや、ふつうにすごいものなんですけど。
とにかく大きい。なんかすごく手のかかってそうな細工が隅々まである。家に入るまでに通った庭には彫刻だの泉だのがあった。現代日本にマジで存在するんだ、こういう家……。
一般庶民にはお呼ばれしたこともないような豪邸に、ちょっと及び腰になる。
さすが、ぽんと『1日1時間1万円』を提示するだけある。
家の中に案内されてからも、いちいち私は驚いていたのだけれど、それは割愛する。一言言うなら、「別世界が広がってた……」だった。
「で、ここが弟の部屋」
「え、いきなり部屋に突撃なの?」
そんなプライベートな空間に、見知らぬ他人が突然現れたらいやなんじゃないだろうか。ひきこもり状態ってことは特に。
「いや、まずはほら、出てきてもらわないとどうしようもないから。呼びかけてほしいんだよね」
「呼びかけるって、私が?」
「うん、高月さんが。俺じゃあ出てきてくれないのはわかりきってるから」
いや、まったく見知らぬ人間が声をかけても気味悪いだけでは?と思ったけど、暫定雇い主のお言葉である。とりあえず素直に聞くことにする。
「この紙に書いている通りに呼びかけてほしいんだ」
そう言って、小さなメモ紙を渡される。私はそれに目を通して、おそるおそるインターホン(そう、個人の部屋にインターホンがあるのだ!)を押した。
『……誰だよ。セイか?』
セイというのは和宮くんの名前だ。
私は意を決して、紙に書いてあった通りに声をかける。
「シュウ、たまには外に出てきたらどう?」
シュウ、というのがたぶん弟さんの名前なんだろう。
『できるだけやさしい感じで』と書かれていたので、優しい声音になるように努力はしたけどどうだろうか。
息を呑む音が機械越しに聞こえてきた。
それから慌てたような足音。
和宮くんが手を引いて、私を扉から遠ざけた。と同時に扉が開いて、人が飛び出してくる。
「――っ母さん!?」
そんな言葉とともに、飛び出してきた人は、和宮くんとそっくりの顔をしていた。
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