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3章:あなたが好き
10話
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あの日以来、バイト終わりに身体を重ねることが増えた。それが私達の間で定番化していた。
最初の頃は何もせずに、一緒に過ごすだけの日もあった。
或いは最後まではせず、途中まですることもあった。
私も愁も、一緒に居られるだけで幸せだと感じていた。
そんなある日、いつも通りバイトを終え、一緒に帰ろうとしたタイミングで、愁の携帯が鳴った。その相手は彼女からで、バツが悪そうに、
「…ごめん」
…と一言謝る愁の顔が苦しそうで、私の胸は痛んだ。
「仕方ないよ。それじゃまたね」
私にはそう言うしかなかった。引き止めることなんてできなかった。だって私達は、セフレだから。
「幸奈、待って…、」
急に腕を掴まれ、私は驚いた。ってきり、ここで解散だとばかり思っていた。
「今日、幸奈ん家に行ってもいいか?」
「え?急にどうしたの?彼女との用事は大丈夫なの?」
「大丈夫だから、お前ん家に行っても構わないか?」
こんなに焦っている愁は初めて見た。
私には拒否する権利などなかった。
「いいよ。家に来る?」
その一言で安心したのか、愁は落ち着きを取り戻した。
それにしても、愁に何があったのだろうか。彼女と揉めてるのかな?
それとも彼女が今、愁の自宅の前まで来ているから、私と一緒に居るところを見られそうでマズイとか?
「わりーな。ありがとう」
敢えて事情は深く聞かないでおくことにした。
何となく愁が醸し出すオーラーから、これ以上は聞かないでくれというのを感じ取ったから。
私はあくまで友達が困っていたから、手を貸しただけ。とはいっても、ただの友達ではないが…。
セフレって回数を重ねていけばいくほどに、物みたいに扱われて、最終的に飽きられて捨てられる。そんなふうに思っていた。
しかし、そんなことは全くなく、まるで宝物にでも触れるかのように、愁は優しく私を抱いてくれた。
愁が私に優しくしてくれるのは、友達として大切な存在だからだと思う。
こうして今、私を引き止めたのも、ただの気まぐれでしかなくて。期待するだけ無駄だ。
愁はきっと彼女と別れないと思う。女の勘がそう囁いていた。
それでも愁の傍に居たい。友達としてでもいいから…。
「彼女がさ、今、俺のことを疑ってるんだ」
「疑ってるって、どういうこと?」
「俺と幸奈が仕事中に仲良さそうに話している姿を見て、不安なんだってさ」
もし、自分の彼氏が他の女の子と仲良くしている姿を見たら、嫉妬と不安でおかしくなるに違いない。
どこか他人事みたいに話す愁に、違和感を感じた。
だって、まだ付き合ったばかりだというのに、彼女への配慮が欠けている。
自分のことではないが、少し悲しい気持ちになった。
私としては一緒に居られて嬉しいが、彼女の立場になってみたら、申し訳ない気持ちの方が大きかった。
「私と一緒に居ても大丈夫なの?」
「大丈夫だ。俺は今、幸奈と一緒に居たいから」
気がついたら、いつの間にか恋人繋ぎになっていた。
手から伝う温度が熱かった。それはまるで愁の気持ちとリンクしているかのように感じた。
「幸奈のことは大切な友達だって何回も言ってるんだけどな。
それなのに、一緒に居るな!とか、難しい話だよな」
それが愁にとって難しい話なのであれば、今はそれだけで充分だ。
「ありがとう。そう言ってくれて…」
こんな関係になってしまった今でも、これまでと何も変わらずに接してくれる愁が、やっぱり私は好きで。惚れた弱みには敵わないなと思った。
「そう思うのは当然のことだろう。幸奈は大切な友達なんだからさ」
そんなのもうとっくに分かっていたことだけど、改めてそう告げられると結構キツい…。
「分かってますよ。友達として充分、大切にされてますから。
それに、愁が彼女のことを大切に想っていることも知ってるし」
本当は辛いなんて言えない。この気持ちに蓋をすると決めたから。
「そうだな。結局、彼女のことが可愛いから別れる気はないんだけとな」
ズシンっ…と胸が痛む音がした。一番聞きたくない言葉を聞かされた。全てがどうでもよくなった。
ここから先のことは覚えていない。愁の話が全く耳に入ってこなかった。
やっぱり別れる気はないんだ。そっか。そうだよね。これもただの惚気にしか過ぎない。
自分に何度も言い聞かせるかのように、頭の中で復唱した。
虚しかった。自分だけが愁を好きだという事実が…。
「それにしても酷い話だ。俺が幸奈と一緒に居て何が悪いんだ」
愁は彼女が他の男性と仲良くしていても嫉妬しないのかな?
彼女の気持ち、分かってあげられないのかな?愁が嫉妬しない人なのかな?
「まぁまぁ…。追々話し合えばいいんじゃない?」
一瞬、愁の顔が引きつった。私に共感してもらえなかったことが悲しそうに見えた。
「それもそうだな。話し合ってみるよ」
その話はそのまま有耶無耶に終わり、お互いにこれ以上何て言っていいのか分からず、少しの間沈黙が流れた。
その直後に突然、愁の携帯が鳴った。愁は携帯を見て焦っていた。
「急な話で申し訳ないんだが、今日、幸奈ん家に泊めてもらえないか?」
急な話にも程が過ぎる。どうしたらいいの?
「いいけど、どうして…?」
「それがな今、彼女が俺の家の前まで来ているらしくって。こんな状況見られでもしたら面倒だろう?それに彼女を帰すわけにもいかないからさ。
だから、友達ん家に泊まりに行ってるっていう口実が欲しいんだ。頼む。今晩だけでいいから…」
口実だって構わない。彼女よりも愁を独占できるのだから。
「仕方ないな。いいよ。でも、今回だけだよ?」
「ありがとう。本当に助かる」
しまった…。今回だけなんて言わなければよかったと後悔したが、今更もう遅かった。
「このお礼は必ずするから」
お礼をされるようなことはしていない。
寧ろ大切な彼女を傷つけてしまっている、私の方が謝らなくてはならない立場だ。
「いいの。気にしないで。私は私のやれることをやっているだけだから」
友達として傍に居られるのが私の特権だ。それ以上を望めてはならない。
「あんまり無理すんなよ。幸奈は何でも一人で抱え込む癖があるから、何かあったら俺に頼れよ」
こんなふうに優しくされてしまうと、余計に苦しくなってしまう。愁のことを嫌いになれたら楽なのに…。
「大丈夫。無理はしてないから。
でももし、何かあったら愁を頼るよ。その時はよろしくね」
「あぁ、勿論だ。俺が幸奈の一番の親友だからな」
親友になったつもりなどないが、どうやら愁の中で私は親友みたいだ。
「そうだね。私達は親友だね」
愁に話を合わせるだけでも辛かった。
どうして私がこんな目にあわなきゃいけないの?と嘆きたい気持ちで胸がいっぱいだ。
「幸奈、もう一つお願いしてもいいのか?」
「今度はどんなお願い?私にできる範囲内のお願いなの?」
「それは幸奈次第なんだが、よかったら今夜、幸奈ん家でその…してもいいか?」
最近、愁の言葉の意味がすぐ理解できるようになった。
これはつまり、セックスがしたいという意味だ。
「別にいいよ。もしかして愁、溜まってるの?」
「すげー溜まってる。最近、彼女としてないんだ」
それなら、彼女がわざわざ家まで来てるのだから、彼女とすればいいのに…。
そっか。今は彼女に疑われてるから、このタイミングでセックスしてしまうと、身体目当てだと思われるから、それは避けたいのか。
それで彼女とは、なかなかセックスができず、溜まってるから、彼女より私を優先したというわけか。
「へー。それなら彼女とすればよかったのに…」
たっぷり嫌味を込めたニュアンスで、言い放った。
こんな分かりやすい挑発に、愁が上手く乗ってくれるとは思わないが、少し愁を試してみたくなった。
どんな状況であっても、私を選んでくれるのかどうか…。
あまり期待はしていないが、それでも私を選んでほしいという淡い期待を込めた。
「そうしたいのは山々なんだが、今日は幸奈としたい気分なんだよ」
期待なんてしていなかったのに、どうして私を選んでくれたの?
それなら、このまま彼女と別れて、私を彼女にしてほしいよ…。
「幸奈としてる時が一番気持ちいいんだよ。身体の相性が一番いいから」
それ以上、深い意味などないと分かっていたはずなのに…。
私は心の中のどこかで、本当はこの言葉に深い意味があるのではないか?と期待している自分がいた。
「彼女とのセックスは、気持ちよくないの?」
もしかしたら、彼女よりも勝てる何かが欲しかっただけなのかもしれない。
だから、こんな不毛な質問をしてしまったんだと思う。
それに、こんな質問答えづらいに決まってる。それでも愁は、私の質問に答えてくれた。
「気持ちいいけど、幸奈としてる時の方が気持ちいいんだよ。思わず止まらなくなっちまうくらいに…」
どうして期待させるようなことばかり言うの?
愁はいつもズルい。こうやって私をたくさん惑わしていく。
その度に、私ばかり好きになっていく。そして愁は、そんな私を知らない。私が愁の言葉一つひとつに、たくさん心を動かされているということを…。
「彼女としてる時は、そこまで盛り上がらないの?」
「盛り上がらないかな。幸奈としている時の方が興奮する」
どうしてそこまで、はっきりと断言することができるのだろうか。
好きでもない人とするなんて、私には想像すらできない。
もしかしたら、男性の方が好きでもない女性とやれちゃうのかもしれない。私の感覚からすれば、到底無理な話だが…。
「そうなの?そこまで言われると、やるしかないね」
やらないという選択肢は、セフレの間には存在しない。
それに私の身体は、愁に触れられてしまえば、反応してしまう。
そうなってしまえば、後は結局やるしかないのであった。
「当たり前だ。やる以外、選択肢はないだろう。
もし、やらなかった場合は、幸奈のことを一生呪うからな」
本当に呪われそうで怖いので、ここは大人しく愁の言うことを聞くことにした。
愁が私を選んだ…。その時点で何となく察していた。これはきっと彼女と何かあったに違いないと…。
でもまさか、彼女に疑われていたなんて、思いもしなかったが。
いつか絶対、こんな日がくる予感はしていた。
定期的に愁の様子を伺いに来ている彼女なら、絶対に私の存在を知っているはず。
もしかしたら、一緒に帰っていることも知っているのかもしれない。
全てを知った上で、相手を理解し、丸ごと受け入れることなんてできない。
誰しも好きだからこそ、相手を独占したいという気持ちが生まれる。
彼女は愁を独占して、他の女性を見てほしくな
いだけだ。
愁は彼女の独占欲を嬉しくは思わないのかな?
彼女の気持ちを無視してまで、私と一緒に居たいの?愁にとって、本当に大切なものって何?
ダメだ。考えれば考えるほど、頭が痛くなってくる。
これは愁の問題だ。私が出る幕ではない。知らなくてもいいこともある。今は知る必要がないと判断した。
「一生ってずっと一緒に居るつもりなの?」
「当たり前だろ。俺達、友達なんだから」
私は友達のまま、ずっと一緒には居られないけど。
最初の頃は何もせずに、一緒に過ごすだけの日もあった。
或いは最後まではせず、途中まですることもあった。
私も愁も、一緒に居られるだけで幸せだと感じていた。
そんなある日、いつも通りバイトを終え、一緒に帰ろうとしたタイミングで、愁の携帯が鳴った。その相手は彼女からで、バツが悪そうに、
「…ごめん」
…と一言謝る愁の顔が苦しそうで、私の胸は痛んだ。
「仕方ないよ。それじゃまたね」
私にはそう言うしかなかった。引き止めることなんてできなかった。だって私達は、セフレだから。
「幸奈、待って…、」
急に腕を掴まれ、私は驚いた。ってきり、ここで解散だとばかり思っていた。
「今日、幸奈ん家に行ってもいいか?」
「え?急にどうしたの?彼女との用事は大丈夫なの?」
「大丈夫だから、お前ん家に行っても構わないか?」
こんなに焦っている愁は初めて見た。
私には拒否する権利などなかった。
「いいよ。家に来る?」
その一言で安心したのか、愁は落ち着きを取り戻した。
それにしても、愁に何があったのだろうか。彼女と揉めてるのかな?
それとも彼女が今、愁の自宅の前まで来ているから、私と一緒に居るところを見られそうでマズイとか?
「わりーな。ありがとう」
敢えて事情は深く聞かないでおくことにした。
何となく愁が醸し出すオーラーから、これ以上は聞かないでくれというのを感じ取ったから。
私はあくまで友達が困っていたから、手を貸しただけ。とはいっても、ただの友達ではないが…。
セフレって回数を重ねていけばいくほどに、物みたいに扱われて、最終的に飽きられて捨てられる。そんなふうに思っていた。
しかし、そんなことは全くなく、まるで宝物にでも触れるかのように、愁は優しく私を抱いてくれた。
愁が私に優しくしてくれるのは、友達として大切な存在だからだと思う。
こうして今、私を引き止めたのも、ただの気まぐれでしかなくて。期待するだけ無駄だ。
愁はきっと彼女と別れないと思う。女の勘がそう囁いていた。
それでも愁の傍に居たい。友達としてでもいいから…。
「彼女がさ、今、俺のことを疑ってるんだ」
「疑ってるって、どういうこと?」
「俺と幸奈が仕事中に仲良さそうに話している姿を見て、不安なんだってさ」
もし、自分の彼氏が他の女の子と仲良くしている姿を見たら、嫉妬と不安でおかしくなるに違いない。
どこか他人事みたいに話す愁に、違和感を感じた。
だって、まだ付き合ったばかりだというのに、彼女への配慮が欠けている。
自分のことではないが、少し悲しい気持ちになった。
私としては一緒に居られて嬉しいが、彼女の立場になってみたら、申し訳ない気持ちの方が大きかった。
「私と一緒に居ても大丈夫なの?」
「大丈夫だ。俺は今、幸奈と一緒に居たいから」
気がついたら、いつの間にか恋人繋ぎになっていた。
手から伝う温度が熱かった。それはまるで愁の気持ちとリンクしているかのように感じた。
「幸奈のことは大切な友達だって何回も言ってるんだけどな。
それなのに、一緒に居るな!とか、難しい話だよな」
それが愁にとって難しい話なのであれば、今はそれだけで充分だ。
「ありがとう。そう言ってくれて…」
こんな関係になってしまった今でも、これまでと何も変わらずに接してくれる愁が、やっぱり私は好きで。惚れた弱みには敵わないなと思った。
「そう思うのは当然のことだろう。幸奈は大切な友達なんだからさ」
そんなのもうとっくに分かっていたことだけど、改めてそう告げられると結構キツい…。
「分かってますよ。友達として充分、大切にされてますから。
それに、愁が彼女のことを大切に想っていることも知ってるし」
本当は辛いなんて言えない。この気持ちに蓋をすると決めたから。
「そうだな。結局、彼女のことが可愛いから別れる気はないんだけとな」
ズシンっ…と胸が痛む音がした。一番聞きたくない言葉を聞かされた。全てがどうでもよくなった。
ここから先のことは覚えていない。愁の話が全く耳に入ってこなかった。
やっぱり別れる気はないんだ。そっか。そうだよね。これもただの惚気にしか過ぎない。
自分に何度も言い聞かせるかのように、頭の中で復唱した。
虚しかった。自分だけが愁を好きだという事実が…。
「それにしても酷い話だ。俺が幸奈と一緒に居て何が悪いんだ」
愁は彼女が他の男性と仲良くしていても嫉妬しないのかな?
彼女の気持ち、分かってあげられないのかな?愁が嫉妬しない人なのかな?
「まぁまぁ…。追々話し合えばいいんじゃない?」
一瞬、愁の顔が引きつった。私に共感してもらえなかったことが悲しそうに見えた。
「それもそうだな。話し合ってみるよ」
その話はそのまま有耶無耶に終わり、お互いにこれ以上何て言っていいのか分からず、少しの間沈黙が流れた。
その直後に突然、愁の携帯が鳴った。愁は携帯を見て焦っていた。
「急な話で申し訳ないんだが、今日、幸奈ん家に泊めてもらえないか?」
急な話にも程が過ぎる。どうしたらいいの?
「いいけど、どうして…?」
「それがな今、彼女が俺の家の前まで来ているらしくって。こんな状況見られでもしたら面倒だろう?それに彼女を帰すわけにもいかないからさ。
だから、友達ん家に泊まりに行ってるっていう口実が欲しいんだ。頼む。今晩だけでいいから…」
口実だって構わない。彼女よりも愁を独占できるのだから。
「仕方ないな。いいよ。でも、今回だけだよ?」
「ありがとう。本当に助かる」
しまった…。今回だけなんて言わなければよかったと後悔したが、今更もう遅かった。
「このお礼は必ずするから」
お礼をされるようなことはしていない。
寧ろ大切な彼女を傷つけてしまっている、私の方が謝らなくてはならない立場だ。
「いいの。気にしないで。私は私のやれることをやっているだけだから」
友達として傍に居られるのが私の特権だ。それ以上を望めてはならない。
「あんまり無理すんなよ。幸奈は何でも一人で抱え込む癖があるから、何かあったら俺に頼れよ」
こんなふうに優しくされてしまうと、余計に苦しくなってしまう。愁のことを嫌いになれたら楽なのに…。
「大丈夫。無理はしてないから。
でももし、何かあったら愁を頼るよ。その時はよろしくね」
「あぁ、勿論だ。俺が幸奈の一番の親友だからな」
親友になったつもりなどないが、どうやら愁の中で私は親友みたいだ。
「そうだね。私達は親友だね」
愁に話を合わせるだけでも辛かった。
どうして私がこんな目にあわなきゃいけないの?と嘆きたい気持ちで胸がいっぱいだ。
「幸奈、もう一つお願いしてもいいのか?」
「今度はどんなお願い?私にできる範囲内のお願いなの?」
「それは幸奈次第なんだが、よかったら今夜、幸奈ん家でその…してもいいか?」
最近、愁の言葉の意味がすぐ理解できるようになった。
これはつまり、セックスがしたいという意味だ。
「別にいいよ。もしかして愁、溜まってるの?」
「すげー溜まってる。最近、彼女としてないんだ」
それなら、彼女がわざわざ家まで来てるのだから、彼女とすればいいのに…。
そっか。今は彼女に疑われてるから、このタイミングでセックスしてしまうと、身体目当てだと思われるから、それは避けたいのか。
それで彼女とは、なかなかセックスができず、溜まってるから、彼女より私を優先したというわけか。
「へー。それなら彼女とすればよかったのに…」
たっぷり嫌味を込めたニュアンスで、言い放った。
こんな分かりやすい挑発に、愁が上手く乗ってくれるとは思わないが、少し愁を試してみたくなった。
どんな状況であっても、私を選んでくれるのかどうか…。
あまり期待はしていないが、それでも私を選んでほしいという淡い期待を込めた。
「そうしたいのは山々なんだが、今日は幸奈としたい気分なんだよ」
期待なんてしていなかったのに、どうして私を選んでくれたの?
それなら、このまま彼女と別れて、私を彼女にしてほしいよ…。
「幸奈としてる時が一番気持ちいいんだよ。身体の相性が一番いいから」
それ以上、深い意味などないと分かっていたはずなのに…。
私は心の中のどこかで、本当はこの言葉に深い意味があるのではないか?と期待している自分がいた。
「彼女とのセックスは、気持ちよくないの?」
もしかしたら、彼女よりも勝てる何かが欲しかっただけなのかもしれない。
だから、こんな不毛な質問をしてしまったんだと思う。
それに、こんな質問答えづらいに決まってる。それでも愁は、私の質問に答えてくれた。
「気持ちいいけど、幸奈としてる時の方が気持ちいいんだよ。思わず止まらなくなっちまうくらいに…」
どうして期待させるようなことばかり言うの?
愁はいつもズルい。こうやって私をたくさん惑わしていく。
その度に、私ばかり好きになっていく。そして愁は、そんな私を知らない。私が愁の言葉一つひとつに、たくさん心を動かされているということを…。
「彼女としてる時は、そこまで盛り上がらないの?」
「盛り上がらないかな。幸奈としている時の方が興奮する」
どうしてそこまで、はっきりと断言することができるのだろうか。
好きでもない人とするなんて、私には想像すらできない。
もしかしたら、男性の方が好きでもない女性とやれちゃうのかもしれない。私の感覚からすれば、到底無理な話だが…。
「そうなの?そこまで言われると、やるしかないね」
やらないという選択肢は、セフレの間には存在しない。
それに私の身体は、愁に触れられてしまえば、反応してしまう。
そうなってしまえば、後は結局やるしかないのであった。
「当たり前だ。やる以外、選択肢はないだろう。
もし、やらなかった場合は、幸奈のことを一生呪うからな」
本当に呪われそうで怖いので、ここは大人しく愁の言うことを聞くことにした。
愁が私を選んだ…。その時点で何となく察していた。これはきっと彼女と何かあったに違いないと…。
でもまさか、彼女に疑われていたなんて、思いもしなかったが。
いつか絶対、こんな日がくる予感はしていた。
定期的に愁の様子を伺いに来ている彼女なら、絶対に私の存在を知っているはず。
もしかしたら、一緒に帰っていることも知っているのかもしれない。
全てを知った上で、相手を理解し、丸ごと受け入れることなんてできない。
誰しも好きだからこそ、相手を独占したいという気持ちが生まれる。
彼女は愁を独占して、他の女性を見てほしくな
いだけだ。
愁は彼女の独占欲を嬉しくは思わないのかな?
彼女の気持ちを無視してまで、私と一緒に居たいの?愁にとって、本当に大切なものって何?
ダメだ。考えれば考えるほど、頭が痛くなってくる。
これは愁の問題だ。私が出る幕ではない。知らなくてもいいこともある。今は知る必要がないと判断した。
「一生ってずっと一緒に居るつもりなの?」
「当たり前だろ。俺達、友達なんだから」
私は友達のまま、ずっと一緒には居られないけど。
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