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7章:一番近くに...
53話
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「それじゃ、次は男子チームの自己紹介を始めます!」
これはもうお礼を言えるような雰囲気ではなかった。
せっかく場の空気を読んで、助けてもらったというのに、完全にお礼を言うタイミングを逃してしまった。
私ってどうして、いつもこうなってしまうのだろうか。おどおどせずに、もっと堂々と振る舞えるようになりたい。
アルバイトをして、少しは変われたような気がしていたが、実際は違った。ただ慣れきった環境に甘えていただけに過ぎなかった。
こんなんじゃもう、愁を忘れるどころか、一生このままかもしれない。
せっかく、変わるために合コンへ来たのだから、次こそチャンスを掴んでみせる…。
「そんじゃ、次は蒼空の番な」
蒼空…さん。この人が私を助けてくれた人だ。
よし。一先ず、名前は覚えた。あとはタイミングを待つのみ。
「蒼空です。よろしく」
蒼空さんの挨拶は、あまりにも素っ気なかった。
そのせいか、女性陣は蒼空さんに対して、怖そうで、近寄り難いという、マイナスな印象を持ったみたいで、興味がなさそうにしていた。
「そんじゃ、自己紹介も終わったことだし、席替えタイムにしよう」
ついに、合コンの定番イベントが来てしまった。お気に入りの男女が隣に座り合うことにより、自分が求められているのかどうかが分かる。
慣れていない私は、なるように身を任せるしかなかった。
せめて、蒼空さんと席が近くなれたら、先程のお礼が言えるので、蒼空さんの近くに座れたらいいな。
今はなんとなく、蒼空さんのことが気になっていた。それはきっと、どこか愁に似ているからなのと、私を助けてくれた人だからだと思う。
それだけでも充分、今の私にとっては、気になる存在であった。
「俺、幸奈ちゃんがいいな」
「あ?なんだよ?俺も幸奈ちゃんがいいんだけど」
私の知らないところで、男性同士の争いが繰り広げられていた。女性陣はその状況に一歩引いていた。
どうやら、今日の合コンはあまり良くない合コンのようだ。
私だけが男性陣のターゲットになってしまったのも大きいが、何よりこの態度であろう。
ノリが合わなければ、とことんつまらない合コンになってしまうのだと、初めての合コンでそんなことを学んだ。
「じゃあさ、幸奈ちゃんに決めてもらおうよ。この中で誰がいい?」
私は真っ直ぐに彼のことを見つめた。
しかし、彼は私のことなど見てくれなかった。
それでも、私は彼を指名した。
「蒼空さんが…いいです」
私が名前を呼んだことで、初めてこちらを見てくれた。それが少し嬉しかった。
「ちぇ、蒼空かよ。つまんねーの。じゃ、俺は別の子でいいや」
自分が選ばれなかったことにより、あからさまに態度が急変した。
それって、他の女の子達に対して、とても失礼な態度だと思う。
あまりにも無礼な態度に、一言文句でも言ってやろうかと思った矢先に、私よりも先に立ち上がる人物がいた。
「あのさ、俺は呼ばれてここに来ただけだ。
でもさ、お前らは本気で合コンをしに来たんだよな?だったら、その態度はないだろう」
彼の言ってることは正しかった。
蒼空さんは一見、無愛想に見えるが、心根は優しい人なのかもしれないと思った。
「ごめん。俺達、失礼な態度を取ってたよな?」
今更遅い気もするが…。蒼空さんって人は、周りにこんなにも影響力を与える人なんだと知った。
凄いな…。私だったら、ここまで周りを変えることはできない。
「あんたはここに座りなよ。俺を選んでくれたんだから」
手招きされ、私は蒼空さんの隣に座った。
蒼空さんが私を呼び寄せたことにより、周りも動き始めた。
「あの…、ありがとうございました。先程は助けて頂いて」
「いいって。俺はアイツらの態度が、ずっと気に入らなかっただけ」
ズボンのポケットから煙草を取り出す。この人、煙草を吸うんだ…。
頭の中ですぐに、煙草を吸う姿が想像できてしまった。
「あの、ここ禁煙ですよ?外でなら吸えるみたいですが…」
吸っている姿を見てみたいなと思った矢先に、壁を見ると禁煙という文字が目に入った。
吸うモードに入りかけていた蒼空さん。禁煙ということを知り、あからさまにテンションがダダ下がりしていた。
「どうりで、さっきから灰皿を探してもないわけだ。よし、お前、付き合え。外で煙草吸うぞ」
蒼空さんが先に立ち上がり、手でこっちに来いと合図を送ってきた。
私は慌てて立ち上がり、その場を立ち去った。
「あの、いいんですかね?何も言わずに抜け出してきちゃっても…」
不安になり、聞いてみた。
すると、いきなり蒼空さんは笑い出した。
「マジだったんだ。合コンとか慣れてないって話」
どうやら、疑われていたみたいだ。嘘をついても、なんの得にもならないと思うが。
「なっ…!嘘なんてつきませんよ。こう見えて実は私、今日が初めてなんです、合コン」
目が点になっていた。そうだよね。今時、そんな子、早々いないよね。大学生にもなったら皆、合コンくらい、参加したことありますよね。
もし今、ここに穴があったら入りたい。初対面の人に、ここまで暴露しなくてもよかったのに。
でも、どうしてだろうか。この人には何でも話してしまう自分がいる。初対面なはずなのに、緊張感が一切なかった。
「ま、そんな気はしてたけどな。明らかに一人、雰囲気が違ったからな」
煙草に火をつけ、吸い始める。私はそれをただ横目で眺めていた。
「幸奈…だっけ?男には気をつけろよ。あんたどう考えても男慣れしてなそうだし。
そういう女は、変な男に付け狙われやすいからな」
そういえば、そんなこともあったなと、ふとあの出来事を思い出した。
あの時も愁が、慌てて駆けつけて、助けてくれた。
…って、ダメダメ。せっかく合コンに来たのだから、愁を思い出すのはもう禁止。
「それぐらい分かってますよ。私、そこまでバカな女じゃありませんので」
一応、反論してみた。この人は親切心で言ってくれているのだから、わざわざ歯向かう必要なんてないのに…。
どうして、私は素直にありがとうございますって、言えないのだろうか。
「俺の中のあんたの第一印象は、合コンに来て、こういう場に慣れてないんですなんて言うから、強かな女なんだろうなって思ってた」
良い人だと思ってたのに、まさかそんなふうに思われていたなんて。ショックを受けた。
「でも話してみたら、純粋な人だってことが分かった。
だから、忠告しておこうと思ったんだよ。男なんてやりたいだけだからな?騙されてポイ捨てとかされんなよ」
一々、そんなことを指摘されなくても、男の人がやりたいだけなことは、とっくに知っている。
これまで、たくさん身を持って体験してきたのだから。
ただ、一つだけ違う点がある。それは、愁はポイ捨てなんてする人ではないということだ。
私はとても大切にされていたと思う。それなのに、私は愁の優しさを勘違いし、勝手に一人で舞い上がってしまった。
だからこそ、私は現実を突きつけられた途端、逃げ出してしまいたくなり、結果、身勝手に終わらせてしまったんだと思う。
私は本当に最低な人間だ。もう取り返しのつかないことをしてしまったのだと、今更気づいてももう遅いだけだった。
「幸奈、大丈夫か?」
肩に手を置かれた。この手の感触…、誰かと似ている……。
一瞬、勘違いしそうになった。目の前に愁が現れたように感じた。
でも、今、私の目の前にいるのは蒼空さんだった。
「大丈夫…です。ただ、少しだけ嫌なことを思い出しちゃって…」
まだ会って数分の関係の人に、これ以上迷惑なんてかけられない。
このままここにいても、愁を忘れることなんてできない。ならいっそのこと、私はもう帰ろうと思う。
「だったら、余計に大丈夫じゃないだろう。
いいか?少しだけここで待ってろよ」
私を置いて一人、中へ戻ってしまった。
もしかして、一人にしてくれたのかな?と思いきや、すぐに戻ってきた。
「帰るぞ。あんたを送ってくから、道を教えろ」
これはもうお礼を言えるような雰囲気ではなかった。
せっかく場の空気を読んで、助けてもらったというのに、完全にお礼を言うタイミングを逃してしまった。
私ってどうして、いつもこうなってしまうのだろうか。おどおどせずに、もっと堂々と振る舞えるようになりたい。
アルバイトをして、少しは変われたような気がしていたが、実際は違った。ただ慣れきった環境に甘えていただけに過ぎなかった。
こんなんじゃもう、愁を忘れるどころか、一生このままかもしれない。
せっかく、変わるために合コンへ来たのだから、次こそチャンスを掴んでみせる…。
「そんじゃ、次は蒼空の番な」
蒼空…さん。この人が私を助けてくれた人だ。
よし。一先ず、名前は覚えた。あとはタイミングを待つのみ。
「蒼空です。よろしく」
蒼空さんの挨拶は、あまりにも素っ気なかった。
そのせいか、女性陣は蒼空さんに対して、怖そうで、近寄り難いという、マイナスな印象を持ったみたいで、興味がなさそうにしていた。
「そんじゃ、自己紹介も終わったことだし、席替えタイムにしよう」
ついに、合コンの定番イベントが来てしまった。お気に入りの男女が隣に座り合うことにより、自分が求められているのかどうかが分かる。
慣れていない私は、なるように身を任せるしかなかった。
せめて、蒼空さんと席が近くなれたら、先程のお礼が言えるので、蒼空さんの近くに座れたらいいな。
今はなんとなく、蒼空さんのことが気になっていた。それはきっと、どこか愁に似ているからなのと、私を助けてくれた人だからだと思う。
それだけでも充分、今の私にとっては、気になる存在であった。
「俺、幸奈ちゃんがいいな」
「あ?なんだよ?俺も幸奈ちゃんがいいんだけど」
私の知らないところで、男性同士の争いが繰り広げられていた。女性陣はその状況に一歩引いていた。
どうやら、今日の合コンはあまり良くない合コンのようだ。
私だけが男性陣のターゲットになってしまったのも大きいが、何よりこの態度であろう。
ノリが合わなければ、とことんつまらない合コンになってしまうのだと、初めての合コンでそんなことを学んだ。
「じゃあさ、幸奈ちゃんに決めてもらおうよ。この中で誰がいい?」
私は真っ直ぐに彼のことを見つめた。
しかし、彼は私のことなど見てくれなかった。
それでも、私は彼を指名した。
「蒼空さんが…いいです」
私が名前を呼んだことで、初めてこちらを見てくれた。それが少し嬉しかった。
「ちぇ、蒼空かよ。つまんねーの。じゃ、俺は別の子でいいや」
自分が選ばれなかったことにより、あからさまに態度が急変した。
それって、他の女の子達に対して、とても失礼な態度だと思う。
あまりにも無礼な態度に、一言文句でも言ってやろうかと思った矢先に、私よりも先に立ち上がる人物がいた。
「あのさ、俺は呼ばれてここに来ただけだ。
でもさ、お前らは本気で合コンをしに来たんだよな?だったら、その態度はないだろう」
彼の言ってることは正しかった。
蒼空さんは一見、無愛想に見えるが、心根は優しい人なのかもしれないと思った。
「ごめん。俺達、失礼な態度を取ってたよな?」
今更遅い気もするが…。蒼空さんって人は、周りにこんなにも影響力を与える人なんだと知った。
凄いな…。私だったら、ここまで周りを変えることはできない。
「あんたはここに座りなよ。俺を選んでくれたんだから」
手招きされ、私は蒼空さんの隣に座った。
蒼空さんが私を呼び寄せたことにより、周りも動き始めた。
「あの…、ありがとうございました。先程は助けて頂いて」
「いいって。俺はアイツらの態度が、ずっと気に入らなかっただけ」
ズボンのポケットから煙草を取り出す。この人、煙草を吸うんだ…。
頭の中ですぐに、煙草を吸う姿が想像できてしまった。
「あの、ここ禁煙ですよ?外でなら吸えるみたいですが…」
吸っている姿を見てみたいなと思った矢先に、壁を見ると禁煙という文字が目に入った。
吸うモードに入りかけていた蒼空さん。禁煙ということを知り、あからさまにテンションがダダ下がりしていた。
「どうりで、さっきから灰皿を探してもないわけだ。よし、お前、付き合え。外で煙草吸うぞ」
蒼空さんが先に立ち上がり、手でこっちに来いと合図を送ってきた。
私は慌てて立ち上がり、その場を立ち去った。
「あの、いいんですかね?何も言わずに抜け出してきちゃっても…」
不安になり、聞いてみた。
すると、いきなり蒼空さんは笑い出した。
「マジだったんだ。合コンとか慣れてないって話」
どうやら、疑われていたみたいだ。嘘をついても、なんの得にもならないと思うが。
「なっ…!嘘なんてつきませんよ。こう見えて実は私、今日が初めてなんです、合コン」
目が点になっていた。そうだよね。今時、そんな子、早々いないよね。大学生にもなったら皆、合コンくらい、参加したことありますよね。
もし今、ここに穴があったら入りたい。初対面の人に、ここまで暴露しなくてもよかったのに。
でも、どうしてだろうか。この人には何でも話してしまう自分がいる。初対面なはずなのに、緊張感が一切なかった。
「ま、そんな気はしてたけどな。明らかに一人、雰囲気が違ったからな」
煙草に火をつけ、吸い始める。私はそれをただ横目で眺めていた。
「幸奈…だっけ?男には気をつけろよ。あんたどう考えても男慣れしてなそうだし。
そういう女は、変な男に付け狙われやすいからな」
そういえば、そんなこともあったなと、ふとあの出来事を思い出した。
あの時も愁が、慌てて駆けつけて、助けてくれた。
…って、ダメダメ。せっかく合コンに来たのだから、愁を思い出すのはもう禁止。
「それぐらい分かってますよ。私、そこまでバカな女じゃありませんので」
一応、反論してみた。この人は親切心で言ってくれているのだから、わざわざ歯向かう必要なんてないのに…。
どうして、私は素直にありがとうございますって、言えないのだろうか。
「俺の中のあんたの第一印象は、合コンに来て、こういう場に慣れてないんですなんて言うから、強かな女なんだろうなって思ってた」
良い人だと思ってたのに、まさかそんなふうに思われていたなんて。ショックを受けた。
「でも話してみたら、純粋な人だってことが分かった。
だから、忠告しておこうと思ったんだよ。男なんてやりたいだけだからな?騙されてポイ捨てとかされんなよ」
一々、そんなことを指摘されなくても、男の人がやりたいだけなことは、とっくに知っている。
これまで、たくさん身を持って体験してきたのだから。
ただ、一つだけ違う点がある。それは、愁はポイ捨てなんてする人ではないということだ。
私はとても大切にされていたと思う。それなのに、私は愁の優しさを勘違いし、勝手に一人で舞い上がってしまった。
だからこそ、私は現実を突きつけられた途端、逃げ出してしまいたくなり、結果、身勝手に終わらせてしまったんだと思う。
私は本当に最低な人間だ。もう取り返しのつかないことをしてしまったのだと、今更気づいてももう遅いだけだった。
「幸奈、大丈夫か?」
肩に手を置かれた。この手の感触…、誰かと似ている……。
一瞬、勘違いしそうになった。目の前に愁が現れたように感じた。
でも、今、私の目の前にいるのは蒼空さんだった。
「大丈夫…です。ただ、少しだけ嫌なことを思い出しちゃって…」
まだ会って数分の関係の人に、これ以上迷惑なんてかけられない。
このままここにいても、愁を忘れることなんてできない。ならいっそのこと、私はもう帰ろうと思う。
「だったら、余計に大丈夫じゃないだろう。
いいか?少しだけここで待ってろよ」
私を置いて一人、中へ戻ってしまった。
もしかして、一人にしてくれたのかな?と思いきや、すぐに戻ってきた。
「帰るぞ。あんたを送ってくから、道を教えろ」
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