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番外編:とある日の二人〜幸奈side〜
68話
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付き合って間もない、とある日のこと…。
今までの私達は、バイト終わりに一緒に帰宅していた。
私はもうバイトを辞めてしまっているため、今までみたいに一緒に帰ることはできない。
彼のバイトが終わるのを待つ。私はそんな時間が愛おしいと感じていた。
バイトが終わり、彼が帰宅し、私の元へと駆けつけてくれた。
私の作った手料理を残すことなく、全て食べてくれた。
ご飯も食べ終え、今度は疲れた身体を癒すために、彼はお風呂へ。
私はお風呂上がりの彼を待っていた。そして、彼はお風呂から上がり……。
そんな当たり前な日常の一コマを描いたお話です。
◇
「幸奈、お風呂上がったよ」
お風呂上がりの愁は、いつも上裸である。
そんな愁の上裸姿を見て、いつも思っていることなのだが、一体いつ肉体を鍛え上げているのだろうか。
運動をしている様子は見られないし、筋トレをしているところを見たことがない。
悔しい…。私もちょっぴり筋肉がほしいものだ。
「羨ましい……」
間近で愁の裸体を観察しながら、触って確かめてみる。
私にもある程度の筋肉がほしい。気になる部位を引き締めたい。
「幸奈さん、あの…、俺の裸に何か?」
「つかぬ事をお聞きしますが、愁さんはいつ鍛えておられるのですか?こんな簡単に筋肉はつきませんよね?」
まさか秘密の特訓があるのかな?
誰でも簡単筋トレ!君も明日から筋肉がつくよ!…とかだったりして。
「一応、筋トレやってるからね。あとプロテインを飲んだりもしてるよ。もしかして、筋肉に興味があるの?」
首を縦に頷く。どうやったらスマートになれるのか、日々考えている。
痩せたい。醜い今の姿をあなたに見せたくない。どうせなら、綺麗になった姿をあなたに見せたい。
「幸奈は今のままでも充分綺麗だよ。程良い肉付きだから、足も腕も綺麗だし、お腹だって出ていない。これ以上痩せたら、俺は心配だな」
抱きしめられた。優しく包み込むように…。
「寧ろ幸奈にはもっと太ってほしい。こんなに軽くて痩せてると、いつか倒れるんじゃないかって、俺、いつも心配なんだ。
なのに、これ以上痩せたいなんて、俺の気苦労も絶えないよ。お願いだから、痩せようなんてもう考えないで…」
愁は時々、過保護すぎるところがある。
でも、今だけはその過保護なところが落ち着く。
好きな人に言われる一言って、ここまで破壊力があるなんて知らなかった。
よし。私は決めた。
「分かった。もう痩せたいなんて言わないよ。
だから今度、簡単な筋トレを教えてほしいな。せめて、筋力は欲しいの。体力もつけたいし」
両手を前で合わせて、愁にお願いする。痩せる痩せないはこの際、どうだっていい。
愁がどんな筋トレをしているのか、近くで見てみたい。
彼氏の筋トレしている姿を見て、きっと更に惚れ直すことに違いない。
「そんなふうに可愛くお願いされたら、こっちも断れないよ。仕方ない。今度、一緒に筋トレしてみよっか。
でも、絶対にムキムキにはさせたくないから、プロテインだけは飲ませないからね」
私をなんだと思っているのだろうか…。
さすがに私もそこまでは考えていなかった。
「愁、大丈夫だから。私はある程度の筋肉が欲しいだけであって、ムキムキになろうとか考えたりしていないからね」
「当たり前だ!もし考えていたら、俺は意地でも止める!ムキムキなんてダメだ。幸奈は今のままで充分だ!」
大平 幸奈、彼氏の溺愛っぷりに若干、引いています…。
愛情とは時に重いもの。私は彼がこの先、どうなってしまうのか、先行きが不安だ。
「はぁ。もういいよ。筋トレしたいなんて言わないから、せめて今度、トレーニングしてる姿だけでも見せてほしいな」
最初から素直にお願いすればよかったのかもしれない。
そして、このお願いなら、彼もきっと許可してくれるに違いない。
「見られるのは恥ずかしいが、幸奈の頼みならいいよ」
なんとかお許しを頂けた。これで愁の頑張っている姿が拝める。
しかし、思ったよりも本格的にトレーニングしているみたいだ。
男の子って皆、こうなのかな?男兄弟がいなかった上に、今まで男の人と接点があまりなかったので、男の人のことをよく知らない。
中学生の頃は、男子と話すことができても、何故か周りの女子達に、
「大平さんと話すの禁止。大平さん、こっちへ来て」と、止めに入られたりなんかした。
高校生の頃は、男子に避けられていた。私って知らず知らずのうちに、何か失礼なことをしているのかなと、凹んだりもした。
自覚がないため、このことでずっと悩んでいた時期もあった。
今は愁がいるから、もう悩んではいない。他の男性には一切、興味がないから。
少し話が逸れてしまったが、愁の筋肉への思い入れの深さには驚いた。
まだまだ知らないことがたくさんある。これからゆっくり知っていきたいと思った。
「いいの?やった…。嬉しいな。ずっと愁が筋トレしてる姿を見てみたかったの」
「え?そうだったのか?!なら、もっと早く言ってくれればよかったのに…」
「だって、恥ずかしかったんだもん。愁の身体に見蕩れてるなんて言うの…」
私は筋トレすらまともにできない。
それに比べて愁は、ちゃんとトレーニングをして、筋肉を付けているのがずっと羨ましかった。
気がついたら、いつも目で追っていた。愁の身体を…。
付き合う前に、既に私達は身体の関係を持っていた。
当時はそのことでたくさん悩んだりもしていたが、あの頃からたくさん愁の身体に見慣れているとはいえ、好きな人の裸はいつになっても見慣れないものである。
愁も私と同じ気持ちかな?私の身体に見飽きていないといいなと思う。
「そんなに俺の裸を、幸奈に見られていたのかと思うと、恥ずかしいな…」
見られていたことが恥ずかしくなったのか、急に手で前を隠し始めた。
照れている愁は可愛いと思うが、隠し方はカッコ悪かった。
「隠し方が女か。まぁ、照れてる姿は可愛いと思いますけど?」
「おい、バカにしてないか?一応、俺も羞恥心はあるんだぞ」
さすがに愁も羞恥心があることは知っている。寧ろ羞恥心がない方が問題である。
そんなことよりも、隠し方があまりにも情けないので、もう見ていられない。見ているこちらの方が恥ずかしくなってきた。
「はいはい。いいから、風邪を引く前に服を着なさい」
「お前、今、適当に流しただろう?
そうだな。風邪を引いたら、幸奈に迷惑かけちまうから、そろそろ着替えてくるわ」
一旦、リビングから去り、数分後に着替え終わった愁が、リビングに再び戻ってきた。
「お待たせ…」
服を着て現れた彼に、私は抱きついた。
急に甘えたくなった。特に理由なんてない。目の前に好きな人がいる。ただそれだけだった。
「幸奈?どうした?何かあったのか?」
「何もないよ。ただくっつきたいなと思っただけ」
本当は筋肉とか筋トレとか、そんなものはどうでもよくて。私はあなたに触れてみたかっただけなのかもしれない。
今の私達にはただの言い争いでさえも、甘い時間にしか過ぎなかった。
「俺も同じことを考えてたよ。さっき触られた時、俺がどれだけ我慢してたと思う?」
我慢ができない愁からしてみたら、かなり耐えていた方だと思う。
私は自らの軽率な行為により、愁を煽り、お預けを食らわせていたということになる。
「ごめんなさい。私、いつもそうやって愁のことを無自覚に煽ってるよね…?」
「今だってそうやって、悪いと思いながら上目遣いになってる。
俺、心配だよ。他の男にも同じことをしているんじゃないかって…」
さすがにそれは有り得ない。他の男性には愁と同じことなんてしない。
でも無自覚な私のことだから、気づいていないだけという可能性もある。
「大丈夫だよ。私、そんなに可愛い方じゃないし!心配要らないって」
どう考えても、苦し紛れな言い訳だ。日頃の自分の行いを考えれば、胸を張って強く違うと否定できなかった。
でも心配をかけたくないのであれば、もっと強く否定すれば良かったのかもしれない。
「幸奈、お前は自分の魅力を全然分かっていない!いいか?お前のことを狙ってる男なんて結構いるんだぞ?
バイト先でも大学でもお前は人気者だから、俺はお前のことが心配で、遠くからお前のことを監視…、いや、何でもない」
ん?私の聞き間違いでなければ、今、愁は監視と言ったような気がする。
確かに私と愁は同じ大学に通ってはいるが、今まで一度も大学構内ですれ違ったことや見かけたことなどないはず。
どうして、私の大学構内での様子を知っているのだろうか。それに監視ということは、ずっとどこかで見張っていたということになる。
「もしかして、ずっとストーキングしてたってこと?」
「べ、別にストーキングしてたわけじゃない。心配だから、ただ様子を見ていただけだ」
世間的にはそれをストーカーということを、愁には敢えて黙っておくことにした。
まさか自分の彼氏が元ストーカーなんて、あまりにも可哀想で、本当のことは言えなかった。
それにもう過去の過ちなので、水に流して許すことにした。
「そういうことにしておいてあげるよ。
でも、これからは見かけたら声をかけてね。遠くから見守るのはもう禁止」
まさか自分の彼氏が自分を監視していたなんて、友達に知られでもしたら、紹介しづらくなってしまう。
そうならないようにするためにも、今のうちに改善していこうと思う。
「分かった。次からは声をかける」
そもそも知り合いなはずなのに、何故、愁は声をかけられなかったのか、不思議で仕方がない。
でも、その疑問について、改めて問いたださないことにした。過去より未来の方が大事だと思ったからである。
「今度、大学の食堂で一緒にご飯でも食べようよ?それで、お互いの友達に紹介するのはどうかな?」
早く友達に、この人が私の彼氏だと紹介したい。
そして、愁の友達のことも知りたいし、もちろん愁の友達にも私が愁の彼女であることを紹介してほしい。
「そうだな。ご飯食べがてら紹介するか。今から楽しみだな」
まだまだ私達は、恋人としては未熟だが、今からたくさんの時間を重ねていき、お互いを支え合っていけるような関係になれたらいいなと思う。
この先何が訪れても、二人なら必ず乗り越えていけると、そう信じているから。
「うん、楽しみだね」
いつもの何気ない日常。二人はようやく掴んだ幸せに、完全に浮かれていた。
この先も幸せな日々が続くと信じて…。
─END─
今までの私達は、バイト終わりに一緒に帰宅していた。
私はもうバイトを辞めてしまっているため、今までみたいに一緒に帰ることはできない。
彼のバイトが終わるのを待つ。私はそんな時間が愛おしいと感じていた。
バイトが終わり、彼が帰宅し、私の元へと駆けつけてくれた。
私の作った手料理を残すことなく、全て食べてくれた。
ご飯も食べ終え、今度は疲れた身体を癒すために、彼はお風呂へ。
私はお風呂上がりの彼を待っていた。そして、彼はお風呂から上がり……。
そんな当たり前な日常の一コマを描いたお話です。
◇
「幸奈、お風呂上がったよ」
お風呂上がりの愁は、いつも上裸である。
そんな愁の上裸姿を見て、いつも思っていることなのだが、一体いつ肉体を鍛え上げているのだろうか。
運動をしている様子は見られないし、筋トレをしているところを見たことがない。
悔しい…。私もちょっぴり筋肉がほしいものだ。
「羨ましい……」
間近で愁の裸体を観察しながら、触って確かめてみる。
私にもある程度の筋肉がほしい。気になる部位を引き締めたい。
「幸奈さん、あの…、俺の裸に何か?」
「つかぬ事をお聞きしますが、愁さんはいつ鍛えておられるのですか?こんな簡単に筋肉はつきませんよね?」
まさか秘密の特訓があるのかな?
誰でも簡単筋トレ!君も明日から筋肉がつくよ!…とかだったりして。
「一応、筋トレやってるからね。あとプロテインを飲んだりもしてるよ。もしかして、筋肉に興味があるの?」
首を縦に頷く。どうやったらスマートになれるのか、日々考えている。
痩せたい。醜い今の姿をあなたに見せたくない。どうせなら、綺麗になった姿をあなたに見せたい。
「幸奈は今のままでも充分綺麗だよ。程良い肉付きだから、足も腕も綺麗だし、お腹だって出ていない。これ以上痩せたら、俺は心配だな」
抱きしめられた。優しく包み込むように…。
「寧ろ幸奈にはもっと太ってほしい。こんなに軽くて痩せてると、いつか倒れるんじゃないかって、俺、いつも心配なんだ。
なのに、これ以上痩せたいなんて、俺の気苦労も絶えないよ。お願いだから、痩せようなんてもう考えないで…」
愁は時々、過保護すぎるところがある。
でも、今だけはその過保護なところが落ち着く。
好きな人に言われる一言って、ここまで破壊力があるなんて知らなかった。
よし。私は決めた。
「分かった。もう痩せたいなんて言わないよ。
だから今度、簡単な筋トレを教えてほしいな。せめて、筋力は欲しいの。体力もつけたいし」
両手を前で合わせて、愁にお願いする。痩せる痩せないはこの際、どうだっていい。
愁がどんな筋トレをしているのか、近くで見てみたい。
彼氏の筋トレしている姿を見て、きっと更に惚れ直すことに違いない。
「そんなふうに可愛くお願いされたら、こっちも断れないよ。仕方ない。今度、一緒に筋トレしてみよっか。
でも、絶対にムキムキにはさせたくないから、プロテインだけは飲ませないからね」
私をなんだと思っているのだろうか…。
さすがに私もそこまでは考えていなかった。
「愁、大丈夫だから。私はある程度の筋肉が欲しいだけであって、ムキムキになろうとか考えたりしていないからね」
「当たり前だ!もし考えていたら、俺は意地でも止める!ムキムキなんてダメだ。幸奈は今のままで充分だ!」
大平 幸奈、彼氏の溺愛っぷりに若干、引いています…。
愛情とは時に重いもの。私は彼がこの先、どうなってしまうのか、先行きが不安だ。
「はぁ。もういいよ。筋トレしたいなんて言わないから、せめて今度、トレーニングしてる姿だけでも見せてほしいな」
最初から素直にお願いすればよかったのかもしれない。
そして、このお願いなら、彼もきっと許可してくれるに違いない。
「見られるのは恥ずかしいが、幸奈の頼みならいいよ」
なんとかお許しを頂けた。これで愁の頑張っている姿が拝める。
しかし、思ったよりも本格的にトレーニングしているみたいだ。
男の子って皆、こうなのかな?男兄弟がいなかった上に、今まで男の人と接点があまりなかったので、男の人のことをよく知らない。
中学生の頃は、男子と話すことができても、何故か周りの女子達に、
「大平さんと話すの禁止。大平さん、こっちへ来て」と、止めに入られたりなんかした。
高校生の頃は、男子に避けられていた。私って知らず知らずのうちに、何か失礼なことをしているのかなと、凹んだりもした。
自覚がないため、このことでずっと悩んでいた時期もあった。
今は愁がいるから、もう悩んではいない。他の男性には一切、興味がないから。
少し話が逸れてしまったが、愁の筋肉への思い入れの深さには驚いた。
まだまだ知らないことがたくさんある。これからゆっくり知っていきたいと思った。
「いいの?やった…。嬉しいな。ずっと愁が筋トレしてる姿を見てみたかったの」
「え?そうだったのか?!なら、もっと早く言ってくれればよかったのに…」
「だって、恥ずかしかったんだもん。愁の身体に見蕩れてるなんて言うの…」
私は筋トレすらまともにできない。
それに比べて愁は、ちゃんとトレーニングをして、筋肉を付けているのがずっと羨ましかった。
気がついたら、いつも目で追っていた。愁の身体を…。
付き合う前に、既に私達は身体の関係を持っていた。
当時はそのことでたくさん悩んだりもしていたが、あの頃からたくさん愁の身体に見慣れているとはいえ、好きな人の裸はいつになっても見慣れないものである。
愁も私と同じ気持ちかな?私の身体に見飽きていないといいなと思う。
「そんなに俺の裸を、幸奈に見られていたのかと思うと、恥ずかしいな…」
見られていたことが恥ずかしくなったのか、急に手で前を隠し始めた。
照れている愁は可愛いと思うが、隠し方はカッコ悪かった。
「隠し方が女か。まぁ、照れてる姿は可愛いと思いますけど?」
「おい、バカにしてないか?一応、俺も羞恥心はあるんだぞ」
さすがに愁も羞恥心があることは知っている。寧ろ羞恥心がない方が問題である。
そんなことよりも、隠し方があまりにも情けないので、もう見ていられない。見ているこちらの方が恥ずかしくなってきた。
「はいはい。いいから、風邪を引く前に服を着なさい」
「お前、今、適当に流しただろう?
そうだな。風邪を引いたら、幸奈に迷惑かけちまうから、そろそろ着替えてくるわ」
一旦、リビングから去り、数分後に着替え終わった愁が、リビングに再び戻ってきた。
「お待たせ…」
服を着て現れた彼に、私は抱きついた。
急に甘えたくなった。特に理由なんてない。目の前に好きな人がいる。ただそれだけだった。
「幸奈?どうした?何かあったのか?」
「何もないよ。ただくっつきたいなと思っただけ」
本当は筋肉とか筋トレとか、そんなものはどうでもよくて。私はあなたに触れてみたかっただけなのかもしれない。
今の私達にはただの言い争いでさえも、甘い時間にしか過ぎなかった。
「俺も同じことを考えてたよ。さっき触られた時、俺がどれだけ我慢してたと思う?」
我慢ができない愁からしてみたら、かなり耐えていた方だと思う。
私は自らの軽率な行為により、愁を煽り、お預けを食らわせていたということになる。
「ごめんなさい。私、いつもそうやって愁のことを無自覚に煽ってるよね…?」
「今だってそうやって、悪いと思いながら上目遣いになってる。
俺、心配だよ。他の男にも同じことをしているんじゃないかって…」
さすがにそれは有り得ない。他の男性には愁と同じことなんてしない。
でも無自覚な私のことだから、気づいていないだけという可能性もある。
「大丈夫だよ。私、そんなに可愛い方じゃないし!心配要らないって」
どう考えても、苦し紛れな言い訳だ。日頃の自分の行いを考えれば、胸を張って強く違うと否定できなかった。
でも心配をかけたくないのであれば、もっと強く否定すれば良かったのかもしれない。
「幸奈、お前は自分の魅力を全然分かっていない!いいか?お前のことを狙ってる男なんて結構いるんだぞ?
バイト先でも大学でもお前は人気者だから、俺はお前のことが心配で、遠くからお前のことを監視…、いや、何でもない」
ん?私の聞き間違いでなければ、今、愁は監視と言ったような気がする。
確かに私と愁は同じ大学に通ってはいるが、今まで一度も大学構内ですれ違ったことや見かけたことなどないはず。
どうして、私の大学構内での様子を知っているのだろうか。それに監視ということは、ずっとどこかで見張っていたということになる。
「もしかして、ずっとストーキングしてたってこと?」
「べ、別にストーキングしてたわけじゃない。心配だから、ただ様子を見ていただけだ」
世間的にはそれをストーカーということを、愁には敢えて黙っておくことにした。
まさか自分の彼氏が元ストーカーなんて、あまりにも可哀想で、本当のことは言えなかった。
それにもう過去の過ちなので、水に流して許すことにした。
「そういうことにしておいてあげるよ。
でも、これからは見かけたら声をかけてね。遠くから見守るのはもう禁止」
まさか自分の彼氏が自分を監視していたなんて、友達に知られでもしたら、紹介しづらくなってしまう。
そうならないようにするためにも、今のうちに改善していこうと思う。
「分かった。次からは声をかける」
そもそも知り合いなはずなのに、何故、愁は声をかけられなかったのか、不思議で仕方がない。
でも、その疑問について、改めて問いたださないことにした。過去より未来の方が大事だと思ったからである。
「今度、大学の食堂で一緒にご飯でも食べようよ?それで、お互いの友達に紹介するのはどうかな?」
早く友達に、この人が私の彼氏だと紹介したい。
そして、愁の友達のことも知りたいし、もちろん愁の友達にも私が愁の彼女であることを紹介してほしい。
「そうだな。ご飯食べがてら紹介するか。今から楽しみだな」
まだまだ私達は、恋人としては未熟だが、今からたくさんの時間を重ねていき、お互いを支え合っていけるような関係になれたらいいなと思う。
この先何が訪れても、二人なら必ず乗り越えていけると、そう信じているから。
「うん、楽しみだね」
いつもの何気ない日常。二人はようやく掴んだ幸せに、完全に浮かれていた。
この先も幸せな日々が続くと信じて…。
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