愛におびえた少年は騎士に愛され己を知る

ハクシタ

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「彼を飼っていたのは……国王だ」












「……それはずいぶんと厄介な」
フィンティアは眉間に皺をよせ考え込んでしまった。

そもそも王族は昔から神の末裔として国をまとめる役目を担ってきた。彼らは国民をまとめあげ、豊かな暮らしを保証しているのであり、国民を自分たちの所有物として扱うことは神の誓いに反するものとして許されていないのだ。
反して貴族はというと神の子孫というわけではなく、彼らは大きな功績をあげたことにより称えられる存在として名を与えられたまでで国民に過ぎない。そのため奴隷制度もそれに沿った規定となっているのだ。






------






「ネフウス王の噂をしっているか?」
「噂?」
「あぁ、彼は珍しいものが好きで様々な国から珍しい楽器や書物、動物や装飾品などを買い集めている。だから君がガレヴァーユの奴隷制度について聞きたいといってきたとき少しだけ疑ったんだ。だがまさか本当に人間も買っていたとは。」

フィンティアの話を聞いてディフェウスは怒りを覚えた。








「つまりニクスは彼の趣味のせいで長年苦しめられてきたということか」


その時普段は感情をあまり表に出さないディフェウスは誰が見てもわかるぐらい腹を立てていた。


「君がそこまで怒るとは、初めてなんじゃないか?」
「なぜか彼のことになると感情が抑えられなくてな」
「ほぉ。ディーよ、それは君が彼を気になっているということだな」







ここでディフェウスは己の感情に気づかされる。
私は彼のことが気になるのか。


最初にあったときはラウスであることに驚いたが彼の華奢で今にも倒れてしまいそうな体、男にしては少し高い声、白い肌、あの泣き顔。なぜか無性に守りたくなる。

もっと彼のそばにいたい。もっと彼を知りたい。彼を守ってやりたい。
ディフェウスは自分にこんなにも執着心があったのかと自分の思いを自覚する。








「ネフウス王は今頃彼を探し回っているのだろう。一度手にしたものを手放したという話は聞いたことがない。このままでは見つかるのも時間の問題だろう。」





フィンティアの一言で現実に引き戻される。



「ならば、私が預かろう。騎士団寮は私の隣が一つ空いている。騎士団にいれば襲われることもなくこの国のどこよりも安全だろう。」
「私もそれがいいと考えていたところだ。だがまずは彼に聞いてみないといけないな」
「あぁ、それなら明日私が聞いてこよう。」
「君、そんなに積極的な人間だったかい?」

フィンティアは少しあきれたように言った。

何と言われようと自分が彼に近づきたいと思っていることは本当なのでにやけている王子は置いといて残りの仕事に取り掛かるため執務室を後にした。













------


翌日、お昼を過ぎたころ何か持っていこうとラックという甘い焼き菓子をかって宝石店を訪れた。店先では花壇を手入れするカイルがいた。


「おや、ディフェウスさんいらっしゃい。」
「ニクスは?」
「店の中におりますよ。掃除を手伝ってもらっていたところです。」

目的は彼であるとわかっていたようだ。



扉を開ければ、店内に鈴の音が響き渡る。




「いらっしゃいませ。」


慣れていないのか少したどたどしいあいさつで出迎えてくれたのはニクスだった。


「あっ……ディフェウスさん。」
「やぁ、昨日ぶりだ。やはり少し目が赤くなっているな。」
「……昨日はご迷惑をおかけしました。」

彼は少し恥ずかしそうに顔を下に向けながら言った。
「そんなことはない。大丈夫か?」
と右手で彼の頬に触れようとしたとき


「パンッ……!」


その右手は彼に手によってかわされてしまう。すると彼は顔面蒼白になり震えながら




「あっ……、もっ申し訳ございません!」



頭を床につけ謝るのにはいきすぎた態勢で謝罪をしてきた。
彼は何度も何度も繰り返し、震えは止まらなかった。


それに慌てたのはディフェウスのほうだった。




「そんなに謝らなくていい!私が不躾に触ろうとしたのがいけなかったのだ。どうか頭を上げてくれ。」
それでもなかなか体を起こしてくれない彼に焦りを感じた。
腰を折り、頭を下げるだけの態勢ならまだいい、しかし頭を地面に擦り付け何度も許しをこう態勢は罪人が許しをこう場面でしか見たことがなかった。






怖がらせないようできるだけ優しい声で言う





「大丈夫、大丈夫だ。私は怒ってなどいない。私はネフウスではない。」







最後の言葉にニクスの頭がわずかに揺れる。







「……ディフェウスさん?」
「あぁ、私だ。大丈夫か?」
「あっ……僕、すみません。また…取り乱してしまって。」

そういうと彼はすぐに立ち上がり触るのに慣れていないものでとくちにした。
わずかに唇を震わせ無理やり作ったであろう笑顔で。









なれていないわけではないのだろう。おそらく触られるということに対して恐怖を抱いているのだろうと思ったがいま聞くのはよくないと、心の中にとどめておいた。


「それならいいのだが。」
「すみませんでした。ディフェウスさん、なにかお探しだったのですか?」


そこで自分は騎士団の件で来ていたのだと思い出す。



「いや、宝石を買いに来たわけではないのだ。」
「では……どういった…」







「ニクス、騎士団で働く気はないか?」

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