Ωにレイプされたαの未来は……

第二章

3ー岡田

秋葉智則の新入生代表の挨拶は堂々としていて、多くの人間を魅了した。
耳に柔らかくはいってくるテノールにみな聞き入っているのが分かる。

唐澤は、入学式を端の席で見ながらずっと爪を噛んでいた。イライラしているのが伝わってくる。

「なんで、なんで、深澤の守護が付いていないんだ」

…深澤？
ああ、秋葉智則の幼馴染か。
しかし…ソイツのは許すんだ？

壇上を降りて行った秋葉にさっそくαと思しき男が声をかけていた。
唐澤の機嫌がさらに悪くなる。
男がさりげなく秋葉の肩に手をまわした。早々にマーキングしているな。α同士ならば、同じレベルならば早い者勝ちという暗黙のルールがある。だから、さっき再会した時にマーキングしときゃよかったのに。唐澤にマーキングされている者に手を出す命知らずなんていない。
とっさに出た唐澤の威嚇フェロモンに周囲がうずくまる。いくら唐澤とはいえ、あんな遠くまで威嚇が届くわけないのに。誤爆が過ぎる
「唐澤！」
小声で注意をすると、我に返り周りに謝罪していた。とんだ流れ弾だが、謝られた方も焦る。唐澤のような上位αに謝罪されると逆に身の置き場がないのだ。

「…岡田、頼みがある。。。。」
唐澤に頼む、なんて言われたのは初だな。
「あとで、呼んでくるか」
「目立たせたくない」
「…新入生代表の時点で目立っているだろ。むしろ、オリエンテーション会場に行って話しかけろよ。周囲への牽制になるだろ」
「そ、それは…」
目が泳いでいる。
最上位α様も執着相手にはヨワヨワだ。深入りしないように自制しようとしているのはわかる。わかるが…できてない。また、威嚇フェロモンをぶっ飛ばしている。
さっきのαより上位の奴が秋葉に上書きをしているのだ。…モテモテだな、Ωでもないのにどこがいいんだか。理解できん。いや、できなくていいのか。理解できていたら今頃唐澤の制裁をうけている。
とりあえず、初回の威嚇フェロモンの時点で周囲から人を追っ払っておいたので、被害者は俺のみ。

「悪い…」
「いいよ。とりあえず、オリエンテーション会場で捕まえるぞ。入口に移動しておくぞ」
上書きされるたびに不機嫌になられちゃやってられん。
この後、キャンパスツアーというなのナンパ会もあるしサークルの勧誘もある。秋葉の魅力は分からんがモテモテなのは分かったから早めに動くが勝ち。

入口で待っていると、秋葉が取り巻きを連れてやってきた。
この短時間によくもまぁ…………。
ただ、下位ばかりだな。一人上位種が混じっているけど、マーキングしてないから興味本位か？

「あ！由希にぃ！」
満面の笑みを浮かべて近寄ってきた。
唐澤がふぐっと変な音をもらして座りこんだ。

「…………秋葉君、これでも首席なんで由希先輩とかね。」

「い、いや、いい。由希にぃでいいよ、智則」

「あ、え～と……由希先輩、体調悪いの？」

唐澤にジロリと睨まれた。いやいや、由希にぃって呼ばれただけでフル勃起してんだから、先輩の方が良いだろ！恨みがましそうに見んな。

ただ……
秋葉はやっぱりβなんだな。
唐澤が発情フェロモンをこんなに出してしまったのに無反応。Ωだであればつられてヒートになってそれにつられて唐澤もラットになって……なのにな。

秋葉に纏わりついていたαどもは色々察して去っていった。遠巻きに秋葉を見ていた一人を除いて。唐澤程ではないが、それなりに上位種だ。アイツは要注意人物だな。

「医務室、行く？」
いや、そんなんで来られても医務室も困るし。数分もすれば落ち着くだろ
「俺が連れていくから、秋葉君はオリエンテーションに出て。終わったら俺に連絡ちょうだい？」

スマホを取り出すと素直に連絡先を教えてくれた。危機感ねぇな、コイツ。それとも唐澤が心配なのか。


数分たって、唐澤が立ち上がった。
「落ち着いたか」
「ああ、居てくれて助かったよ。」
「…………」
「俺さ。がんばったんだよ。俺の狂気が智則に向かわないように。」
唐澤がポツリという。
「…………そうだな」
特徴の似たヤツを食い散らかし、あんなΩの罠に嵌り、それでも番契約という一縷の望みにかけて結婚までして。

「でも、一瞬で今までの努力が無意味になった。………怖いよ…………」

残酷だよな。
唐澤の心は今恐怖に震えているのに、αとして今までとは比較にならない程の覇気というか、ボス感が出ている。
上位種になるほど、獣の本性が強くなる。守りたいと思う心と喰らい尽くしたい本能。

ため息が出た。