渡世人飛脚旅(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走

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「なんだその目は、おいらを殺すつもりか?」
 その肚づもりなら、とうにそうしているさ――孫を凄絶な目で睨む祖母を前に、平太はそんな思いを抱いた。
 そして、準備を終えて板の間から土間に下りる。賭場に行ってさぼったが、まだ畜生が畑を荒らす刻限は終わっていない、すこしの間でも番をしようと思っての行動だ。というのは言い訳で、延々祖母に説教を垂れられるのを避けるためだった。幼いころに比べれば理不尽にぶたれなくなったぶんだけましだが、罵声を聞きつづけて気分がいい人間などいるはずがない。
「なんだ、おめえも家族を捨てて出て行くつもりか」
 勘違いした祖母が一層顔を険しくして怒鳴る。
 近所迷惑をかえりみないそんな祖母の行動も村人に平太が嫌煙される一因となっていることに当人はみじんも気づいていない。

 朝の静けさが祖母の罵声がこびりついて離れない平太の耳には心地よかった。どうしたことか、今朝は蝉のかまびすしい鳴き声も聞こえてこない。だが、体のうちには粘度の高い感情が渦巻いて心を不快なものにしている。
 畦に腰をおろした平太は野山の緑を漠然と眺めながら呼吸を淡々とくり返した。口を地面に寄せているように、土と草の匂いが鼻腔に満ちている。ただ、そういったものが体内を満たしても空虚な感覚は去らない。
 物心ついたときから、一年中四六時中付きまとう感覚、たやすく離れるはずがなかった。そんな感情に付きまとわれていると、思考は物思いに沈む。
 浪人を殺した夜、周太の親分は平太に言った。
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