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それから、小平次は仮眠をとることとなった。忍びとした鍛えられた者は超人的な体力を持つが、それでも飲まず食わず、あるいは眠れずという状況にあれば充分に働けるとはいえない。だから、可能であれば十二分な食事をとり睡眠をとることも必要だ。
その眠りのなかでこんな夢を見ることとなった。夜遅くに人の気配を感じる。幼い小平次は厠で用を済ませるために自室をあとにしたところだった。
濡れ縁に腰をおろした人影があった。
「父上」自然ともれた声に、父の反応はどこか緩慢だ。ゆっくりと首を巡らしこちらを見やった。酔眼、をしている。小平次がこれまで一度として見たことのない、酒に飲まれた父の姿がそこにあった。
外で飲んできたようだが、さらに徳利と茶碗を用意してひとりでやっているようだ。
「小平次か」こっちに来い、と父は手招きしてみせる。
なんだか怖いような気がして、小平次の足取りは躊躇いがちだった。
腕が届く距離に近づいたとたん、父の腕が電光の速度で動く。気づいたら、小平次は父に抱きしめられていた。
父上――今度は声に出せなかった。父の抱擁は単なるそれとは違って強すぎるほどに力のこもったものだ。溺れるものがすがるものを見つけたような、そんな連想が幼い小平次の脳裏に浮かんだ。すこし前に泳ぐ訓練をしていて、危うく溺れかけたばかりだから余計にそんなことを想像したのだろう。
父は一言も言葉を発しない。ただ、やや乱れた呼吸と酒精の匂いだけが小平次の感じるもののすべてだった。
だが、それでも父が抱く“何か”の冷たい感触は十二分につたわってくる。
次第次第に抱擁とは別の理由で息が苦しくなってきて、ついにまなじりから透明なしずくがこぼれた。
その眠りのなかでこんな夢を見ることとなった。夜遅くに人の気配を感じる。幼い小平次は厠で用を済ませるために自室をあとにしたところだった。
濡れ縁に腰をおろした人影があった。
「父上」自然ともれた声に、父の反応はどこか緩慢だ。ゆっくりと首を巡らしこちらを見やった。酔眼、をしている。小平次がこれまで一度として見たことのない、酒に飲まれた父の姿がそこにあった。
外で飲んできたようだが、さらに徳利と茶碗を用意してひとりでやっているようだ。
「小平次か」こっちに来い、と父は手招きしてみせる。
なんだか怖いような気がして、小平次の足取りは躊躇いがちだった。
腕が届く距離に近づいたとたん、父の腕が電光の速度で動く。気づいたら、小平次は父に抱きしめられていた。
父上――今度は声に出せなかった。父の抱擁は単なるそれとは違って強すぎるほどに力のこもったものだ。溺れるものがすがるものを見つけたような、そんな連想が幼い小平次の脳裏に浮かんだ。すこし前に泳ぐ訓練をしていて、危うく溺れかけたばかりだから余計にそんなことを想像したのだろう。
父は一言も言葉を発しない。ただ、やや乱れた呼吸と酒精の匂いだけが小平次の感じるもののすべてだった。
だが、それでも父が抱く“何か”の冷たい感触は十二分につたわってくる。
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