62 / 141
62
しおりを挟む
「御隠居様、すこし黙っててくださいませんか」「うん、わかった」
もうひとりの覆面の言葉に、先ほど声を発したほうは老いを感じさせる声音で子どものごとき口調で承諾する。覆面はこのふたりだ。
「失礼、つづきを」「うぬら、我らを愚弄しておるのか」
制止の声を発したほうのせりふに、一拍の間を置いて与平が怒りの声をあげる。
「わあ、怖い」「御隠居」
椛がどうのと言ったほうを、もうひとりがふたたび注意した。
「おのれ、許さぬ」
が次の瞬間、与平が爆発する。振棒という鬼の金棒のごとき代物で鍛え上げた腕で真っ向からの斬撃をくり出す。
やはり応じた声は無邪気だ。「危ないなあ」
が、それに憤る余裕は与平には与えられない。みぞおちに巨漢の蹴撃を喰らったかのような衝撃が生じたのだ。
「与平殿」「うぬ」怒号とともに余の藩士が動く。正面打ち、足への一閃と銀光が殺到した。
だが、ことごとく斬撃は空を切った。攻撃を予見し、かつ絶妙な間で動いて敵は刃を躱したのだ。さらにすれ違いざまに手首やみぞおちに峰を返した一撃をくれている。
そのことに与平は脂汗を流しながらも気づいた。いくら待ってもやってこない灼熱の痛み、そこから鋒打(みねう)ちされたことを彼はほかの者に先んじていた悟っていた。
莫迦にしおって――与平は痛みをこらえながらなんとか立ち上がる。みぞおちを強打されたのだからこれだけでも立派なものだ。
最後の藩士に斬りかかろうとする敵の背中に与平は裂帛の一撃を送ろうとする。
刹那、
「あたいを忘れてもらっちゃ困るね」
声が聞こえた瞬間、肩口に猛烈な痛みが走っていた。
もうひとりの覆面の言葉に、先ほど声を発したほうは老いを感じさせる声音で子どものごとき口調で承諾する。覆面はこのふたりだ。
「失礼、つづきを」「うぬら、我らを愚弄しておるのか」
制止の声を発したほうのせりふに、一拍の間を置いて与平が怒りの声をあげる。
「わあ、怖い」「御隠居」
椛がどうのと言ったほうを、もうひとりがふたたび注意した。
「おのれ、許さぬ」
が次の瞬間、与平が爆発する。振棒という鬼の金棒のごとき代物で鍛え上げた腕で真っ向からの斬撃をくり出す。
やはり応じた声は無邪気だ。「危ないなあ」
が、それに憤る余裕は与平には与えられない。みぞおちに巨漢の蹴撃を喰らったかのような衝撃が生じたのだ。
「与平殿」「うぬ」怒号とともに余の藩士が動く。正面打ち、足への一閃と銀光が殺到した。
だが、ことごとく斬撃は空を切った。攻撃を予見し、かつ絶妙な間で動いて敵は刃を躱したのだ。さらにすれ違いざまに手首やみぞおちに峰を返した一撃をくれている。
そのことに与平は脂汗を流しながらも気づいた。いくら待ってもやってこない灼熱の痛み、そこから鋒打(みねう)ちされたことを彼はほかの者に先んじていた悟っていた。
莫迦にしおって――与平は痛みをこらえながらなんとか立ち上がる。みぞおちを強打されたのだからこれだけでも立派なものだ。
最後の藩士に斬りかかろうとする敵の背中に与平は裂帛の一撃を送ろうとする。
刹那、
「あたいを忘れてもらっちゃ困るね」
声が聞こえた瞬間、肩口に猛烈な痛みが走っていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜
かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。
徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。
堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる……
豊臣家に味方する者はいない。
西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。
しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。
全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。
アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)
三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。
佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。
幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。
ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。
又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。
海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。
一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。
事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。
果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。
シロの鼻が真実を追い詰める!
別サイトで発表した作品のR15版です。
大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる