忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「いかがでございましょう、お豊様」
 豊はしばし考えるそぶりを見せ、
「仕事のためとあれば致し方ありません、同道いたします」
 と応じた。致し方ない、という言葉にすこし引っかかりをおぼえながらも、ありがとうございます、小平次は礼をのべる。
 そして、今に至っているのだ。現在、塩飽島に向かうために舟を都合している最中だ。商家の娘ということもあり、豊がこれに当たりその供として重左エ門がついていた。
 することもなく、小平次は浜辺にたたずみ海を眺めている。と、隣に太蔵がやって来た。
「いやあ、お豊はよい娘御でありますなあ。器量はいいし、甲斐甲斐しく働く」
「太蔵、くれぐれも手出しは厳禁ですよ」
 女癖の悪い太蔵を小平次はいさめる。この旅程の間ですら先々の女郎屋にしけ込んでいることを把握しているがゆえのせりふだ。が、話は思ってもみなかった方向に転がる。
「なにをおっしゃってるんです、お頭の存念はどうだって話でしょうこれは?」
 言われたとたん、以前塩飽に向かう途中で浜辺で豊とふたりきりになったときのことを思い出した。
「お、なにかもう出来いたしたんで?」「な、なにもありません」
 太蔵が目敏く気づく。否定する小平次に対し太蔵が言葉をかさねようとしたところで、
「舟の都合がつきました」
 と、豊が重左エ門と吉足とともに現れて報告する。
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