忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「は、は、はい」
 太蔵が妙なことをいうものだから、小平次の声はおかしいほどに甲高くなってしまった。それで豊の注意を引くことになり、よけいに緊張が高まる。太蔵め――手のひらの汗をかきながら、小平次は声に出さずに太蔵に恨みごとをのべた。

 午下がりには小平次たちは塩飽島に渡り、勤番所を訪れている。そこは江戸の奉行所を随分と小さくしたような場所だ。前回、勝利を祝った酒宴の席の翌日のような態度で、瀬兵衛を中心に島民たちは小平次たちを迎えた。恩人が帰ってきたぞ、という声に我も我もと住民が集まってきたが、
「大事な話があるため、できれば人払いをしてほしい」
 と告げたところ、瀬兵衛たち島年寄の「恩人の願いだ、みんな聞き入れろ」という言葉にまたたく間に彼らは姿を消す。
 改めて、自分たちの果たした役割の大きさを小平次は実感した。
「それで、こたびはどんな用向きで参られた?」「実は」
 島年寄のうち年配の者が口火を切る。ところどころ、承諾の言葉を得るまでは伏せなければならない部分をぼかしながら小平次は事情を語った。
「なるほど、それで俺たちの船と島の者(もん)の協力が欲しいってことか」
 話を聞き終え、瀬兵衛がひとつ大きくうなずく。
「なんで、俺たちに頼もうと思った?」
「他に心当たりもありませんし、なにより荒れた海を無事に渡った水軍衆の業前を求めてのことです」
「うれしいことをいってくれるな」
 小平次の返答に瀬兵衛が得意げな顔になる。他の島年寄も同様の顔つきとなった。が、一番年配の島年寄だけは違う。渋面で口を開いた。
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