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岩室の殿とは、久留島家二代通春の遺命により弟の通貞に玖珠郡内岩室村が分知されたことに始まる分家の当主のことだ。石高は千。久留島家の家老の知行が四百石と三百石と考えると森藩にとっては決して小さな勢力ではない。
「海賊衆の裔ともうすに、山へと押し込められた恨み、船を使った人買いの商いで晴らす、それが言い分だとか」
「たわけたことをもうすな。それでは単なる無法者の所業であろうが」
怒りに顔を朱に染める惣内を前に、鉄太はかすかに首をすくめる。
自分に怒られても困るとは思うが、それを口にすればさらに激怒するのは目に見えていた。それに大目付の職分をまっとうできなかったと指弾されれば反論の言葉はない。
「いかがいたしましょうや?」
「いかがも糞もあるか、内々に片を付けるのだ。さもなくば、久留島家家中殿もろともは身の破滅ぞ」
随分と面白い仕儀になってやがる――そのやり取り屋根裏で聞いていた人物、御庭番のひとりは口角を大きく吊り上げた。
同輩の報告で手を貸すように求められ、最初は気乗りしなかった。
たかが小名、取り潰しに成功したところでたいして気持ちよくはない。そう思ったのだ。
だが、退屈するよりはましと引き受けてみれば、
人買いは金子が動く――。
「海賊衆の裔ともうすに、山へと押し込められた恨み、船を使った人買いの商いで晴らす、それが言い分だとか」
「たわけたことをもうすな。それでは単なる無法者の所業であろうが」
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自分に怒られても困るとは思うが、それを口にすればさらに激怒するのは目に見えていた。それに大目付の職分をまっとうできなかったと指弾されれば反論の言葉はない。
「いかがいたしましょうや?」
「いかがも糞もあるか、内々に片を付けるのだ。さもなくば、久留島家家中殿もろともは身の破滅ぞ」
随分と面白い仕儀になってやがる――そのやり取り屋根裏で聞いていた人物、御庭番のひとりは口角を大きく吊り上げた。
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