忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 上手くすればいくらか懐に入れることも不可能ではない。彼は御庭番の仕事のなかで、たびたびそんなふうにして懐を温めていた。忠義なぞ糞くらえだからな――そのように考える性根の持ち主ゆえ、罪悪感はまったく抱いていない。むしろ、
 それで丸く収まり助かる者もおるのだから、これは人助けだ――。
 などと皮肉に考えている次第だ。
 それにしてもこの一件――家老と大目付が動くとなるといよいよ信憑性が高い。密談の形でまず報告がおこなわれたところが余計にそのことを裏付けているように思えた。

● ● ●

 家老と大目付の会談から数日後。
 これはほんとうにとんでもねえな――御庭番の男は胸のうちでつぶやいた。
 悪人の彼だが、さすがにこれまで目の当たりにした光景はおどろかざるをえない。
 家中の動向を探り、人買い商売に携わる者に当たりをつけ仲間とともにつけていたのだがまさしく狙いは的中していた。
 湊々に寄るたびに少人数ずつの人間、老若男女が乗り込まされるのを目撃したのだ。助けよう、などという気はみじんも起きていない。ただ、これは相当期待できるぜ、とどさくさで懐にしまい込む金子への期待が高まっていた。
 今も、船に向かって漕いでいく艀(はしけ)には漕ぎ手以外に破落戸(ごろつき)らしき男に見張られる形で若い女人が乗せられている。
 その光景を海岸の草叢のなかに身をひそめながら監視していた。
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