忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「目明しにつなぎをとり、村の者は総出で下手人を捕えんといたしました。したが」
「それどころか、今度は組頭の家が襲われた」
「その翌日は百姓代の家だ」
 代表の言葉を余の名主が引き継いで語った。各々の目に怒りの火が燃える。その熱が身のうちからもれ出たように部屋の空気が息苦しいものに転じていた。
「我らを嘲笑うように凶行が思い出したようにくり返されたのでございます」
 おそらくは金が尽きると凶行に及んでいるのだろう、と小平次は話を聞きながら予測を立てた。
「なれど、単なる賊に我ら渡り忍びは大げさではありませんか?」
「滅相もない」
 吟の疑問に名主一同が首を横にふる。
「藁布団にもぐって難を逃れた数えで七つになる名主の倅が聞いたのでございます」
「『家中が改易に遭ってどうなることかと思ったが、我らが忍びの業を使えば押し込みなど思いのままだな』」
「『親父や兄はいいが、次男、三男ともなると無宿にでもなるしかないからな。さしずめ我らは無宿忍びといったところか』と」
 無宿忍び衆――小平次は緊張をおぼえると同時に苦いものを感じた。
 一歩間違えば自分だとて似たようなことに手を染めていたかもしれない。
運よく孫作さんを助けたことで渡り忍びの職を得たからよかったものの――いや、しかしそれは幸運だったのだろうか。
 仇ともいうべき小平次が豊と出会ったのは不運ではなかったか? そんな小平次の懊悩をよそに話はつづく。
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