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それからしばらくして大口の客、常連の大店の店主がおとずれた。日本橋で紅と白粉を商う人物だ。細い目がゆるやかな曲線を描く人の善さげな人物だ。事実、外見だけではなく金払いもいい。
「もちろん、よろこんで」
光脩が卜占を済ませると、長谷川屋主人にしたがっていた丁稚が茶巾袋から二両を取り出し光脩に渡す。これは大工の月収に相当する額だった。
だが、光脩は心のどこかで虚しさをおぼえた。陰陽師としてではなく辻占いとして多額の金を受け取ったことが大金を手にしたことへのよろこびを感じさせる一方でそれをよしとしない心が胸にうちにはあった。
まあ、とにかく長谷川屋の主のおかげで随分と懐が暖かくなったのは事実だ。光脩は無理やりに思考を中断し早々に仕事を止めした。
裏長屋の一室の前で「権左(ごんざ)さん」と光脩は声をあげる。呼びかけに応じて住人が表に姿を現した。顔のやつれた浪人で月代の手入れ行き届いておらず、着る物もツギハギだらけだ。これが、戦国乱世で刀槍をふるい武功をあげてきた者たちの子孫かと思うと侘しいものがある。
公家が気づけばその地位を武家に渡してきたように、江戸では武家は商家に威勢で負けていた。千石の家禄があっても大店の手代あたりに豊かさで負けるのが当世の武士の現実だった。
「権左さん、また飯を食べていなかったのか」
「風邪をひいてな、居合い抜きの仕事もできず銭が入ってこなんだ」
浪人の身で、頼れる者などそうそういないだろうに。
「同じ長屋に住んでいるんだから、銭なり米なりを借りに来ればよかっただろうに」
「武士としてさようなことはできぬ」
権左衛門の頑なな考えに光脩はため息をついた。
「もちろん、よろこんで」
光脩が卜占を済ませると、長谷川屋主人にしたがっていた丁稚が茶巾袋から二両を取り出し光脩に渡す。これは大工の月収に相当する額だった。
だが、光脩は心のどこかで虚しさをおぼえた。陰陽師としてではなく辻占いとして多額の金を受け取ったことが大金を手にしたことへのよろこびを感じさせる一方でそれをよしとしない心が胸にうちにはあった。
まあ、とにかく長谷川屋の主のおかげで随分と懐が暖かくなったのは事実だ。光脩は無理やりに思考を中断し早々に仕事を止めした。
裏長屋の一室の前で「権左(ごんざ)さん」と光脩は声をあげる。呼びかけに応じて住人が表に姿を現した。顔のやつれた浪人で月代の手入れ行き届いておらず、着る物もツギハギだらけだ。これが、戦国乱世で刀槍をふるい武功をあげてきた者たちの子孫かと思うと侘しいものがある。
公家が気づけばその地位を武家に渡してきたように、江戸では武家は商家に威勢で負けていた。千石の家禄があっても大店の手代あたりに豊かさで負けるのが当世の武士の現実だった。
「権左さん、また飯を食べていなかったのか」
「風邪をひいてな、居合い抜きの仕事もできず銭が入ってこなんだ」
浪人の身で、頼れる者などそうそういないだろうに。
「同じ長屋に住んでいるんだから、銭なり米なりを借りに来ればよかっただろうに」
「武士としてさようなことはできぬ」
権左衛門の頑なな考えに光脩はため息をついた。
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