犬を舐めるな従えよ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「ああ、まあな」
「どこでだ、いつ?」
「場所はあ、どこぞの賭場だったかな。つい最近だった気がする」
「そうか」
 光脩はそれでも何度か質問を重ねたがそれ以上の情報は得られなかった。
 行商人に次の相手を紹介してもらってはなれると、
『あの者の証言、信憑性が高いぞ。かすかにだが、あの者から信長殿の匂いが漂ってきた』
「そうか」
 犬家康の言葉に光脩はむずかしい顔をした。面倒事の気配を感じる一方で、さっさとほかの英傑犬を探し出したほうがあとあと楽なのではないかと思えたのだ。それはともかく、まずは聞き込みを済ませるのが先決だった。次に接触した相手は、大きなもっこを背負った灰買いだ。
「お勝(かつ)の婆さんの紹介じゃあ邪険にはできねえなあ」「世話になる」
 光脩もいつも横柄ではない、丁寧な口調で頼んだ。
「実は妙な模様が背中にある犬を捜している」「妙な模様のある犬ねえ」
 もっこを地面に置いた灰買いは腕を組んで眉間にしわを刻んだ。
「悪い、憶えがねえ」伝法な口調だが誠意のこもった口調で彼は謝る。
「見てないものはしょうがねえな」光脩は肩をすくめた。
「にしても、最近は失(う)せたものを探すのが流行ってんのかねえ」
 は? と光脩は灰買いの発言に怪訝な顔をする。
「いやな、失踪した兄を探してるって娘にこの間、会ってな。それで、ふとそんなことを思ったのよ」
 この瞬間までは光脩は他人事として聞いていたが、「今住んでるのは」と告げられた長屋の名前ができ過ぎた偶然で自分が住まいにしている長屋と同じだったことで暢気にしていられなくなった。
「それじゃ、おれは行くよ」と灰買いがもっこをかついで光脩とすれ違って去っていく。それを見送り、光脩は犬家康を見ないようにしながら歩き出した。一歩ごとに強烈な視線を感じる。
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