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第二章
一
「遂に手塚に組みしかれ最期をとげしぞ是非もなき」
了斎の力強い声、琵琶の物悲しい音が村の長者の広間にひびいた。
一瞬の静寂、そして拍手とはやし立てる声が生じる。
全身で感動を表現する彼らを前に了斎もほおをゆるませた。
ここのところ了斎はこの一帯、尼子の支配が及んでいる土地で琵琶の腕前を披露して歩いていた。
いっそ、琵琶法師として生きられればの――そんな思いを抱く。
陽光が影を際立たせるように、かえって自分の“立場”を了斎は意識させられた。
無理だ。考えるまでもなくわかっている。ほかにどんな生き様があるというのか。これまで散々、人間の命を奪ってきた自分が。
このころでも、後世の人間に近い考えを抱く者もいる。
武士のなかにも子孫に対し、「命を失う危ういものだ」として侍なぞなるものでないと遺言を残した者もいた。そういった人間のごとく了斎もまた、殺し殺されが当たり前の時代において透波という己の生業に対して倦み果てている。
そんな彼に懊悩する時すらも与えないというように、ひとりの武士が話しかけてきた。屋敷の者に案内された姿を現した彼は、こちらの業前を確認するように部屋の一隅で凝っと耳をすましていたのだ。得心がいったらしく、満足げな顔つきをしている。
「殿が噂の琵琶法師を召したい、ともうされておる」
そのせりふは、まさに了斎が欲していたものだ。
いや、本来は望んでいたものだが、“琵琶法師”としていま少し過ごしたかった彼にしてみればうとましい言葉でもある。
しかし機会が巡ってきた以上、それに飛びつかないわけにはいかない。
恐悦至極でございます、と告げて了斎は侍とともに近隣の国人領主の城へと向かった。
一
「遂に手塚に組みしかれ最期をとげしぞ是非もなき」
了斎の力強い声、琵琶の物悲しい音が村の長者の広間にひびいた。
一瞬の静寂、そして拍手とはやし立てる声が生じる。
全身で感動を表現する彼らを前に了斎もほおをゆるませた。
ここのところ了斎はこの一帯、尼子の支配が及んでいる土地で琵琶の腕前を披露して歩いていた。
いっそ、琵琶法師として生きられればの――そんな思いを抱く。
陽光が影を際立たせるように、かえって自分の“立場”を了斎は意識させられた。
無理だ。考えるまでもなくわかっている。ほかにどんな生き様があるというのか。これまで散々、人間の命を奪ってきた自分が。
このころでも、後世の人間に近い考えを抱く者もいる。
武士のなかにも子孫に対し、「命を失う危ういものだ」として侍なぞなるものでないと遺言を残した者もいた。そういった人間のごとく了斎もまた、殺し殺されが当たり前の時代において透波という己の生業に対して倦み果てている。
そんな彼に懊悩する時すらも与えないというように、ひとりの武士が話しかけてきた。屋敷の者に案内された姿を現した彼は、こちらの業前を確認するように部屋の一隅で凝っと耳をすましていたのだ。得心がいったらしく、満足げな顔つきをしている。
「殿が噂の琵琶法師を召したい、ともうされておる」
そのせりふは、まさに了斎が欲していたものだ。
いや、本来は望んでいたものだが、“琵琶法師”としていま少し過ごしたかった彼にしてみればうとましい言葉でもある。
しかし機会が巡ってきた以上、それに飛びつかないわけにはいかない。
恐悦至極でございます、と告げて了斎は侍とともに近隣の国人領主の城へと向かった。
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