忍び切支丹ロレンソ了斎――大友宗麟VS毛利元就(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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   四

 よいな、ゆめ命を粗末にいたすでない。
 了斎は側のれんと次郎丸に静かだが真剣な声で策戦開始の前に告げた。
 それに両者はしっかりとうなずく。れんは販女(ひさぎめ)の身なりをし、了斎と次郎丸は猿楽師の格好をしていた。
 誰が指示するでもなく彼らは一様に視線を森の木立の途切れる場所、その先へと向ける。
 そこには夕暮れの景色のなか、黒味を増しつつある無数の将士の影が蠢いていた。その数、一万余。その内訳は古強者たちだ。
 対する了斎たちは。考えるのも莫迦らしい。大友家の忍び十数人が合力するが、陣中に直接乗り込むのは彼らと了斎たち三人のみだ。
 あとは――了斎は脳裏に大内輝弘の姿をよみがえらせる。
 哀れ、の一言だ。毛利の軍勢せまるの報を受け、一揆軍はことごとく逃散してしまった。
 大内輝弘にごく近い者か、よほどの命知らずのたわけだけだ残ったのは。
 将士に逃げられた総大将、大内輝弘に呼ばれ了斎は広間へと向かい彼と対面した。
 大内輝弘は一目見るだけで胸が詰まるほど面やつれしている。
 しかし、それでもその瞳はどこか満足げだ。
「まさか、余が恨み言でももうすとは思っていまいな」
「さようなことはございませぬ」
 了斎は首を横にふった。事実、そう思っていた。なぜ呼ばれたかいぶかしくはあったが。
「おぬしを呼ばわったのはな、司祭(パードレ)殿を救い出す手立てに手を貸すことを申し出のためだ」
「まことでございますか」
「今さら嘘偽りなどもうしてどうなる」
 思わず聞き返した了斎に大内輝弘は快活に笑った。
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