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神様の趣味。
しおりを挟む「………天帝さん、こちらは……?」
「ここは僕の趣味の部屋だよ」
その部屋は、なんというかひと言でいうと。
「めっちゃ汚部屋」
「それな」
いや、それなじゃないわ。
「天帝っていろいろ仕事があって忙しくてね。片付ける暇もなく積み上げていたらこうなっちゃったんだ」
困ったな、と頬を指で掻きながら少し頬を染めて恥ずかしそうにしているのは大変美女然としていて周りに花でも飛んでるみたいではあるものの、そんなものでは私は騙されない。
いやちょっとだけ『トゥクン…』ってしたけど。気の迷い。私はきっと疲れてる。
「ゴミがあるとかじゃないですけど、物が多すぎです。積み上げすぎです。足の踏み場もないし崩れてきそうで怖いし見た目が汚いです」
「うん、ボロクソだね」
「何ですかこの山? ………マンガ…?」
「あ、その辺りはドラゴンボー〇だね」
山の一角からこぼれ落ちた1冊を手に取ると、なんだか見たことのあるマンガだった。
「…なんで??」
「だから、僕の趣味」
天帝さんはガチオタだった。
「マンガは何でも読むね。少年漫画も少女漫画も。アニメもチェックもする。でも最近はゲームをしてることの方が多いかな」
「…多趣味ですね」
天界では、娯楽といえば宴らしい。飲んだくればっかりとか不健全すぎる。
でも天帝さんは身分のこともあるし、他の神様たちと一緒だと気を遣われすぎて、あんまり楽しんで飲めない。
故に一人で楽しめるもの…マンガやゲーム、アニメがお気に召したよう。
でもそれはつまり…
「なるほど。ユーは友達が少ない、いわゆるボッチというやつですね?」
「別に嫌われてるわけじゃないよ、浅く広いドライな付き合いは向いてないだけだよ」
「じゃあ深く狭いディープな付き合いの方はいるんですか?」
「そんなに簡単に心からの親友は見つからないものだよ」
「なるほどつまりボッチということですね?」
「傷口に岩塩ねじ込まないでよ…」
やべ、天帝さん泣かせちゃった。
でも泣いてる天帝さんマジ美女。よき。
「まぁそんなことはどうでもいいです」
「………どうでもいい……」
遠くを見つめる天帝さんは心が瀕死の様ですが、こっちなんて瀕死どころか死にたてなんで、普段より荒ぶってるんです。
今はサラッと流させていただきます。
「もしかして神様の用件っていうのは、この部屋を片付けてほしいとか、そういうことですか?」
腐海の一角を指さしながら、天帝さんに確認を取る。
クセで首を傾げると、天帝さんも同じ方に首を傾けて笑顔になった。
ナルホド、他の神様に片付けを頼むにしても、相手はみんな腐っても神なんだから。さすがにマズいよね。
……目の前のこの人が一番偉いんだから、頼んだだけでパワハラになるのかな。
少なくとも神様に頼むよりは、人間に頼んだほうが問題なさそうなのは確かだよね。
でも私、そんなに片付け得意っていうほどじゃないんだけど…大丈夫なのかな。
今は物が多すぎてよくわからないが、おそらく20畳は軽くあるんじゃない?というくらいに広い。
全く部屋の端が見えない。床も見えない。物が多すぎるせいで見えない。
窓が見えない上に電気がついてるわけでもないのに暗くないのは不思議だ。原理は…まぁ知ったところで役に立つわけではないだろうし、気にしないことにする。
一体何日かかるのか…と気が遠くなっている私の指を、近づいた天帝さんが両手でそっと包みこんだ。
「愛瑠に頼みたいのは片付けではないよ」
「急に呼び捨てですか。コミュ障に対する距離の詰め方がエグイ。いやまぁいいですけど」
「……不快だった…?」
「いや、あの、……ダイジョウブデス、」
そんな捨てられそうなチワワみたいな目で見られると、なぜか罪悪感半端ない。だって私もボッチ仲間だし。
ちょっと激しくわかりやすく動揺しちゃうよ!顔だって真っ赤だよきっと!
どさくさの呼び捨てくらい許しちゃうってば!
「…よかった」
「あのもうほんとかんべんしてください!!!」
ほっとした顔で笑う美形とか、ただの犯罪でしかない。
それに握りこまれたままだった指を、ちょっと強めにきゅっとされるとか…
今度は私のほうが瀕死ですっ。
いやもう死んでるんだった!!
もはや顔どころか首まで真っ赤だと思うので、見られないようにしゃがみ込み、空いてる手で頭を抱えて隠した。
「どうしたの愛瑠?…怒った?」
「怒ってないです大丈夫です問題ないのでちょっと離れてむしろ部屋から出て行ってください!!ハウス!!」
引っ張ったのに離してもらえなかった手につられたのか、目の前に一緒にしゃがみ込んでこっちを窺う追撃とか、ほんとやめて!
叱られた柴犬みたいな顔とかほんと私のこと殺しにかかってるでしょボッチのくせに!
いやもう死んでるけど!!
ついでにさっきから『ボッチ』のブーメランで、こっちも地味にダメージ受けた心がブロークン!
応援ありがとうございます!
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