35 / 73
閑話*オーディン視点
しおりを挟む
*オーディン視点のお話です。しばらく続きます。
庭園に横たわり、探索魔法により生み出された青い蝶に向かってそっと手を伸ばす、まだ小さく無邪気な少女。
「ちょーちょさん、わたしのはじめてのおともだちに、なってくれましゅ?」
まるで鈴の音のような至上の響き。
その声を聴き、この世界に転生して初めて、自分の頬が緩んだのがわかった。
ああ、やっとだ。
「アイルの初めての友達には、僕が立候補したいな」
この日を、ずっと待っていた。
アイルと共にこの世界に転生し、1年。
ここは天界に居た頃と変わらず、むしろアイルを見守ることすらできなくなり、僕にとっては無味乾燥な日々でしかなかった。
色のない世界。
ノイズのような雑音ばかりの世界。
欲望に醜く歪んだ、気持ちの悪い仮面を付けた存在しかいない世界。
アイルと一緒ならどんなに楽しいだろうと、あれ程期待していたのにね。
退屈で、不愉快。それだけの世界。
このままでは僕は、イラっとしてついこの世界を壊すかもしれないな。
転生の際に人間の枠に収まるよう枷をつけ抑えた力でも何とかなってしまいそうだから、このままではマズイかも。
一刻も早く、僕の『あの子』を探しに行かなきゃ。
僕の可愛いあの子が……僕の大事なアイルが、幸せであるかすぐに確かめなきゃ。
そして今度こそ離れず傍にいないと。守らないと。
そうじゃないと、僕がダメになる。
「父上」
「珍しいな、オーディン。どうしたのだ?」
父上……皇帝陛下の執務室。珍しいことに母上も居る。伝えに行く手間が省けてちょうどいい。僕が自分から会いに行くことは滅多にないので、少し驚いた様子で迎え入れられた。
長居する気はない。一応報告しにきただけだ。
「これから僕の大事な子を迎えに行ってきます。そのまま僕の部屋の隣で暮らしてもらうので、侍女を数名専属でつけます。一応お伝えしておこうかと」
「「………………は?」」
並んだぽかんとした顔は滑稽だ。それを見ても、別に面白くもなんともないけど。
……あぁ、そういえば転生してから笑っていないな。表情が動かない。
アイルと話をした時は、些細なやり取りすら尊く、あんなに自然と気持ちも表情も動かされたというのにね。
前世のアイルも表情が動くことは少なかったけれど、今の僕はそれ以上だろう。アイルは表情が豊かじゃないだけで、瞳が雄弁だったから。
「それでは」
「…はっ!ま、待て、オーディン。だ、大事な子…とは、誰のことだ⁉」
「僕の大事な子です」
教えるのももったいない。僕の宝物だから、僕が大事にする。烏合の衆に晒す気はない。
「全く詳細がわからん!相手はいくつなのだ?男か、女か⁉貴族なのか⁉」
「今日で1歳になる女の子ですよ。一応貴族子女です」
父上は興奮した様子で次々と質問を投げつけてくる。
だが、アイルの詳細を教える気はない。最低限だけ伝え、ドアに手をかける。
転移魔法で迎えに……いや、アレに乗って迎えに行けば、驚いて、喜んでくれるかな。
「お待ちなさい、オーディン」
「………チッ。………なんでしょう、母上」
「舌打ちはお止めなさい。…相手はまだ1歳の少女なのですね?」
「そう言っております」
せっかくアイルが驚いている様子を想像して、少し楽しい気持ちになっていたのに。
邪魔されてつい舌打ちすると、無の表情の母がしつこく確認してきた。こういう時に、人間の若者は「うるせぇババア!」と言いたくなるんだろうな、と天界から見ていた若者たちのことを思い出した。口汚いな、と思っていたが、成程。同意だ。
「ならば、先に部屋を整えなさい」
「は?」
すぐに行き来できるように、僕の隣の部屋をアイルの部屋にすると決めている。天界の僕の趣味部屋を『汚部屋』と言っていたアイルの為、物は少なくスッキリとした部屋。整えなくてはならないような所はない。
「貴族の子女であれば、多少は精神発達も早いでしょうが、それでも1歳。親元から引き離す気でいるのであれば、寂しさを紛らわすような気遣いをしなければなりません。少女の喜ぶような内装。ぬいぐるみや人形。まずはそちらの準備が先です」
「……一理ありますね」
隣室は、今は殺風景な部屋だ。
雑然とした部屋はアイルの好みではないだろうが、それでもカーテンの色を替えたりドレッサーを用意したり……アイルの為の部屋を用意するのは楽しそうだ。
「自分の為を考え用意された自分好みの部屋。少女はきっと私の為に⁉と感動し、あなたを意識することでしょうね」
「彼女をすぐに迎えに行くのは一旦保留にして、部屋を整えます。母上の御用達の商会を呼んでも?」
「かまいませんよ」
「ありがとうございます。急用ができましたので、失礼します」
母上の言葉に何だか惹かれるものがあり、アイルにはもう少し待っていてもらって、先に部屋をアイル仕様に整えることにした。
そうと決まれば、やることは多々ある。こんなところで無駄にする時間などない。
即退室を告げて執務室を後にする。
「……あの子、案外単純だったのですね」
「……そうだな……」
アイルの好みを考えるのに夢中だった僕には、両親の言葉は耳に入らなかった。
庭園に横たわり、探索魔法により生み出された青い蝶に向かってそっと手を伸ばす、まだ小さく無邪気な少女。
「ちょーちょさん、わたしのはじめてのおともだちに、なってくれましゅ?」
まるで鈴の音のような至上の響き。
その声を聴き、この世界に転生して初めて、自分の頬が緩んだのがわかった。
ああ、やっとだ。
「アイルの初めての友達には、僕が立候補したいな」
この日を、ずっと待っていた。
アイルと共にこの世界に転生し、1年。
ここは天界に居た頃と変わらず、むしろアイルを見守ることすらできなくなり、僕にとっては無味乾燥な日々でしかなかった。
色のない世界。
ノイズのような雑音ばかりの世界。
欲望に醜く歪んだ、気持ちの悪い仮面を付けた存在しかいない世界。
アイルと一緒ならどんなに楽しいだろうと、あれ程期待していたのにね。
退屈で、不愉快。それだけの世界。
このままでは僕は、イラっとしてついこの世界を壊すかもしれないな。
転生の際に人間の枠に収まるよう枷をつけ抑えた力でも何とかなってしまいそうだから、このままではマズイかも。
一刻も早く、僕の『あの子』を探しに行かなきゃ。
僕の可愛いあの子が……僕の大事なアイルが、幸せであるかすぐに確かめなきゃ。
そして今度こそ離れず傍にいないと。守らないと。
そうじゃないと、僕がダメになる。
「父上」
「珍しいな、オーディン。どうしたのだ?」
父上……皇帝陛下の執務室。珍しいことに母上も居る。伝えに行く手間が省けてちょうどいい。僕が自分から会いに行くことは滅多にないので、少し驚いた様子で迎え入れられた。
長居する気はない。一応報告しにきただけだ。
「これから僕の大事な子を迎えに行ってきます。そのまま僕の部屋の隣で暮らしてもらうので、侍女を数名専属でつけます。一応お伝えしておこうかと」
「「………………は?」」
並んだぽかんとした顔は滑稽だ。それを見ても、別に面白くもなんともないけど。
……あぁ、そういえば転生してから笑っていないな。表情が動かない。
アイルと話をした時は、些細なやり取りすら尊く、あんなに自然と気持ちも表情も動かされたというのにね。
前世のアイルも表情が動くことは少なかったけれど、今の僕はそれ以上だろう。アイルは表情が豊かじゃないだけで、瞳が雄弁だったから。
「それでは」
「…はっ!ま、待て、オーディン。だ、大事な子…とは、誰のことだ⁉」
「僕の大事な子です」
教えるのももったいない。僕の宝物だから、僕が大事にする。烏合の衆に晒す気はない。
「全く詳細がわからん!相手はいくつなのだ?男か、女か⁉貴族なのか⁉」
「今日で1歳になる女の子ですよ。一応貴族子女です」
父上は興奮した様子で次々と質問を投げつけてくる。
だが、アイルの詳細を教える気はない。最低限だけ伝え、ドアに手をかける。
転移魔法で迎えに……いや、アレに乗って迎えに行けば、驚いて、喜んでくれるかな。
「お待ちなさい、オーディン」
「………チッ。………なんでしょう、母上」
「舌打ちはお止めなさい。…相手はまだ1歳の少女なのですね?」
「そう言っております」
せっかくアイルが驚いている様子を想像して、少し楽しい気持ちになっていたのに。
邪魔されてつい舌打ちすると、無の表情の母がしつこく確認してきた。こういう時に、人間の若者は「うるせぇババア!」と言いたくなるんだろうな、と天界から見ていた若者たちのことを思い出した。口汚いな、と思っていたが、成程。同意だ。
「ならば、先に部屋を整えなさい」
「は?」
すぐに行き来できるように、僕の隣の部屋をアイルの部屋にすると決めている。天界の僕の趣味部屋を『汚部屋』と言っていたアイルの為、物は少なくスッキリとした部屋。整えなくてはならないような所はない。
「貴族の子女であれば、多少は精神発達も早いでしょうが、それでも1歳。親元から引き離す気でいるのであれば、寂しさを紛らわすような気遣いをしなければなりません。少女の喜ぶような内装。ぬいぐるみや人形。まずはそちらの準備が先です」
「……一理ありますね」
隣室は、今は殺風景な部屋だ。
雑然とした部屋はアイルの好みではないだろうが、それでもカーテンの色を替えたりドレッサーを用意したり……アイルの為の部屋を用意するのは楽しそうだ。
「自分の為を考え用意された自分好みの部屋。少女はきっと私の為に⁉と感動し、あなたを意識することでしょうね」
「彼女をすぐに迎えに行くのは一旦保留にして、部屋を整えます。母上の御用達の商会を呼んでも?」
「かまいませんよ」
「ありがとうございます。急用ができましたので、失礼します」
母上の言葉に何だか惹かれるものがあり、アイルにはもう少し待っていてもらって、先に部屋をアイル仕様に整えることにした。
そうと決まれば、やることは多々ある。こんなところで無駄にする時間などない。
即退室を告げて執務室を後にする。
「……あの子、案外単純だったのですね」
「……そうだな……」
アイルの好みを考えるのに夢中だった僕には、両親の言葉は耳に入らなかった。
0
あなたにおすすめの小説
獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。
真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。
狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。
私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。
なんとか生きてる。
でも、この世界で、私は最低辺の弱者。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
転生メイドは貞操の危機!
早桃 氷魚(さもも ひお)
恋愛
クララは乙女ゲームの世界に転生した、モブのメイド。
最推しキャラの公爵令息、ロルフのメイドとして、不幸フラグを折りながら、天使のように愛らしい推しを守ってきた。
ロルフはクララに懐き、魔法学園に入学するときも、離ればなれになるのを嫌がるほど。
「帰ってきたら、ずっと一緒だからね?」
ロルフとそう約束してから三年後。
魔法学園を卒業したロルフが、ついに屋敷へ戻ってきた!
だが、クララの前に現れたのは、
かつての天使ではなく、超イケメンの男だった!
「クララ、愛している」
え!? あの天使はどこへ行ったの!?
そして推し!! いま何て言った!?
混乱するクララを、ロルフはベッドに押し倒してきて……!?
-----
Kindle配信のTL小説
『転生メイドは推しを甘やかしまくった結果、貞操の危機です!』
こちらは番外編です!
本編よりずっと前の、推しがまだ天使だった頃のお話です。
本編を知らなくても読めます。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる