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私の一日。
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王宮での生活が始まってから、早2週間が経ちました。
今日は私の一日をお伝えしようと思います。
まず王宮で暮らし始めてからは毎朝金縛り状態で目が覚める。
いつの間にか潜り込んでくるディー様が、しっかり足まで絡めて全力で私を抱き込んで寝ているのだ。
初日はあまりにビックリしてつい叫んでしまったけど、私を助けようとしたモロが壁まで吹き飛ばされるし(モロは遊んでもらったと思っているのか楽しそうだった)、扉の前を守ってくれていた兵士さんが部屋に飛び込んでくるとディー様が『私の寝間着姿を見た』と訳の分からない理由でキレてしまい、死にそうな目に合わされてしまったのだ。それ以降、悲鳴は声にならなくなった。声を出すと(私以外が)危険な目に合うと刷り込まれたらしい。あとはディー様が扉と窓に結界を張って許可された時以外は誰も入ってこられないようにしてしまったので、万が一の場合も被害は最小限(※モロのみ)だろう。
それに私も最初は毎晩ディー様を部屋から追い出そうと頑張っていたけど、ふと目が覚めたら私のベッドで私を抱き枕にして寝ているので、もはや諦めた。以来、広いベッドをお借りしているはずなのに、前よりずっと小さくなって寝ている。
起きたら侍女さんたちが着替えを手伝ってくれるのだが、その日の私のコーディネートはディー様が決める。ドレスのみならず靴からリボンまで、全身コーデだ。そして自身は色やデザインが私とお揃いになるような服をあえて選ぶ。双子コーデに憧れてたのかな?
こちらも初日に一悶着あり、私の準備はすべて自分がするから手を出すなとディー様が侍女さんたちを部屋から追い出そうとした。困っているというよりドン引きした侍女さんたちから『おいおいどうなってんだ』という視線を向けられたが、私も全力で同意だった。何考えてるのこの人は。
結局は必死の抵抗と涙交じりの説得によって何とか着替えは侍女さんたちにお願いできることになったのだが、……ディー様ェ…、何のために侍女さんを私につけてくれようとしたのよ…。
午前中はディー様も私も授業がある。
私はマナーとか歴史とか刺繍とか。こちらの世界で令嬢として生きていくために覚えなくてはならないことが山ほどある。あと魔法も教えてもらえることになったのだ。結構忙しい。
対してディー様はまだ2歳だというのに剣も魔法も勉強もすでに教えることがないと講師に言わしめたらしく、私の講師をしている。……そう、ディー様は私の講師として授業があるのだ…。チートが過ぎる…。
ただ令嬢としてのマナーや刺繍はさすがに専門外なので、その時間はモロを鍛えているらしい。時々遠くからモロの楽しそうな鳴き声と兵士さん達の悲鳴が聞こえたり爆発音が聞こえることもあるが、王宮内ではすでに生活音と同じ扱いの様で、誰一人気にする人がいない。たまに憐れむように音のした方を見つめている人もいるけど。それでいいのか。
食事はディー様の希望で、3食ともディー様の部屋でとる。
両陛下…ディー様のご両親は食堂で食べているらしいが、しがない子爵家の娘が私的な場にお声掛かりもないのに同席させていただくなどあり得ない。私のことは気にせずディー様は行ってきてくださいと提案したが、しょんぼりした顔で「…陛下たちとは食事を共にしても会話もないんだ。だからアイルと2人で食べたい…」と言われてしまっては断れない。私はそこまで鬼じゃない。
が、心を鬼にして断ればよかった。
ディー様は食事中、自分の食事そっちのけで私の口にせっせと食事を運ぶことに余念がない。いくら自分で食べます!とナイフやフォークを持っても、一瞬で手の中から消されるのだ。さながら消失マジック。だが種明かしの時間がないので二度と戻ってこない。もはやただの消失。
食事中のディー様がとても楽しそうなので、機嫌を損ねるよりそっとしておこうという考えなのか、誰も現状にツッコんでくれない。生温かい視線でそっと見守られる居た堪れなさを誰か察してほしい。ハンストは主に私がつらいので決行には至っていないが、マナーを教わる意義を見失ってしまう前にもう一度食事権の自由を交渉しようと思っている。
午後は庭園か温室で、モロを枕にシエスタの時間。あとは私の実家に遊びに行ったり。結構な頻度で顔を出しているというのに、ディー様とアンリはなかなか仲良くならない。近付かれるのをアンリが泣いて嫌がるのだ。ディー様がアンリを真顔でじっと見つめるから恐いのかもってアドバイスしても、一向に改善してくれない。曰く、「譲れない戦いが男にはある」らしい。乳児と幼児の譲れない戦いって何だ。詳細を教えてくれないので、私は好きにアンリを可愛がったり、使用人のみんなのお手伝いをしたりすることにした。
最初はやっぱり家族とすぐ会えないのは寂しかったけど、家族と過ごしていた以上の時間を、ディー様がそばに……ゼロ距離でそばに居てくれたので、しんみりする暇もなく慣れました。それにモロもずっと一緒だしね。モロ可愛いよ。
左半身はディー様に、右半身はモロに、常にすり寄られているので歩きにくくて大変だけど、私以上に侍女さんや護衛の兵士さんが戸惑っているのを見ると私自身は冷静になる。2週間で悟りを開いたと言っても過言ではないと思う。
そんな私の、現在の一日。
「アイル、そろそろ寝ようか」
「あい、でぃーさま。おやしゅみなしゃい」
「おやすみ、アイル。いい夢を」
「もろも、おやしゅみ」
『おやすみ、あいるー』
でも、なにか大切なことを忘れているような気がするんだよね。
*この内容を普通に書こうとすると、またひらがな地獄が終わらないという絶望感から逃亡。説明回ですみません。
今日は私の一日をお伝えしようと思います。
まず王宮で暮らし始めてからは毎朝金縛り状態で目が覚める。
いつの間にか潜り込んでくるディー様が、しっかり足まで絡めて全力で私を抱き込んで寝ているのだ。
初日はあまりにビックリしてつい叫んでしまったけど、私を助けようとしたモロが壁まで吹き飛ばされるし(モロは遊んでもらったと思っているのか楽しそうだった)、扉の前を守ってくれていた兵士さんが部屋に飛び込んでくるとディー様が『私の寝間着姿を見た』と訳の分からない理由でキレてしまい、死にそうな目に合わされてしまったのだ。それ以降、悲鳴は声にならなくなった。声を出すと(私以外が)危険な目に合うと刷り込まれたらしい。あとはディー様が扉と窓に結界を張って許可された時以外は誰も入ってこられないようにしてしまったので、万が一の場合も被害は最小限(※モロのみ)だろう。
それに私も最初は毎晩ディー様を部屋から追い出そうと頑張っていたけど、ふと目が覚めたら私のベッドで私を抱き枕にして寝ているので、もはや諦めた。以来、広いベッドをお借りしているはずなのに、前よりずっと小さくなって寝ている。
起きたら侍女さんたちが着替えを手伝ってくれるのだが、その日の私のコーディネートはディー様が決める。ドレスのみならず靴からリボンまで、全身コーデだ。そして自身は色やデザインが私とお揃いになるような服をあえて選ぶ。双子コーデに憧れてたのかな?
こちらも初日に一悶着あり、私の準備はすべて自分がするから手を出すなとディー様が侍女さんたちを部屋から追い出そうとした。困っているというよりドン引きした侍女さんたちから『おいおいどうなってんだ』という視線を向けられたが、私も全力で同意だった。何考えてるのこの人は。
結局は必死の抵抗と涙交じりの説得によって何とか着替えは侍女さんたちにお願いできることになったのだが、……ディー様ェ…、何のために侍女さんを私につけてくれようとしたのよ…。
午前中はディー様も私も授業がある。
私はマナーとか歴史とか刺繍とか。こちらの世界で令嬢として生きていくために覚えなくてはならないことが山ほどある。あと魔法も教えてもらえることになったのだ。結構忙しい。
対してディー様はまだ2歳だというのに剣も魔法も勉強もすでに教えることがないと講師に言わしめたらしく、私の講師をしている。……そう、ディー様は私の講師として授業があるのだ…。チートが過ぎる…。
ただ令嬢としてのマナーや刺繍はさすがに専門外なので、その時間はモロを鍛えているらしい。時々遠くからモロの楽しそうな鳴き声と兵士さん達の悲鳴が聞こえたり爆発音が聞こえることもあるが、王宮内ではすでに生活音と同じ扱いの様で、誰一人気にする人がいない。たまに憐れむように音のした方を見つめている人もいるけど。それでいいのか。
食事はディー様の希望で、3食ともディー様の部屋でとる。
両陛下…ディー様のご両親は食堂で食べているらしいが、しがない子爵家の娘が私的な場にお声掛かりもないのに同席させていただくなどあり得ない。私のことは気にせずディー様は行ってきてくださいと提案したが、しょんぼりした顔で「…陛下たちとは食事を共にしても会話もないんだ。だからアイルと2人で食べたい…」と言われてしまっては断れない。私はそこまで鬼じゃない。
が、心を鬼にして断ればよかった。
ディー様は食事中、自分の食事そっちのけで私の口にせっせと食事を運ぶことに余念がない。いくら自分で食べます!とナイフやフォークを持っても、一瞬で手の中から消されるのだ。さながら消失マジック。だが種明かしの時間がないので二度と戻ってこない。もはやただの消失。
食事中のディー様がとても楽しそうなので、機嫌を損ねるよりそっとしておこうという考えなのか、誰も現状にツッコんでくれない。生温かい視線でそっと見守られる居た堪れなさを誰か察してほしい。ハンストは主に私がつらいので決行には至っていないが、マナーを教わる意義を見失ってしまう前にもう一度食事権の自由を交渉しようと思っている。
午後は庭園か温室で、モロを枕にシエスタの時間。あとは私の実家に遊びに行ったり。結構な頻度で顔を出しているというのに、ディー様とアンリはなかなか仲良くならない。近付かれるのをアンリが泣いて嫌がるのだ。ディー様がアンリを真顔でじっと見つめるから恐いのかもってアドバイスしても、一向に改善してくれない。曰く、「譲れない戦いが男にはある」らしい。乳児と幼児の譲れない戦いって何だ。詳細を教えてくれないので、私は好きにアンリを可愛がったり、使用人のみんなのお手伝いをしたりすることにした。
最初はやっぱり家族とすぐ会えないのは寂しかったけど、家族と過ごしていた以上の時間を、ディー様がそばに……ゼロ距離でそばに居てくれたので、しんみりする暇もなく慣れました。それにモロもずっと一緒だしね。モロ可愛いよ。
左半身はディー様に、右半身はモロに、常にすり寄られているので歩きにくくて大変だけど、私以上に侍女さんや護衛の兵士さんが戸惑っているのを見ると私自身は冷静になる。2週間で悟りを開いたと言っても過言ではないと思う。
そんな私の、現在の一日。
「アイル、そろそろ寝ようか」
「あい、でぃーさま。おやしゅみなしゃい」
「おやすみ、アイル。いい夢を」
「もろも、おやしゅみ」
『おやすみ、あいるー』
でも、なにか大切なことを忘れているような気がするんだよね。
*この内容を普通に書こうとすると、またひらがな地獄が終わらないという絶望感から逃亡。説明回ですみません。
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