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両陛下にご挨拶。

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「こちらのお部屋でございます」

 時間となり部屋に迎えに来た兵士さんに案内されたのは、ディー様の部屋からそう離れていない…つまり王族の居住区にある、美しい薔薇の庭園に面した一室だった。

「あいがとうございましゅ」
「えっ⁉…いっ、いえ、お礼など…」

 案内してくれた兵士さん達に頭を下げてお礼を言うと、すごく戸惑われた。
 あれ、何か失敗したかな。

「アイル、これは彼らの仕事だから、頭を下げてお礼しなくてもいいんだよ」
「そうなんでしゅか?でも、おしごとだったとしても、おせわになったのでおれいをいうのはとうぜんじゃないでしゅか?」
「アイルは礼儀正しいし身分を気にしないからね。でもそうされると彼らは困ってしまうから、せめて頭は下げずお礼を言うだけにしようね」
「そうでしゅか…。こまらせてしまってすみましぇんでした」
「いえ、もったいないお言葉です」

 今度は頭を下げずに謝ると、兵士さんは苦笑しながら敬礼してくれた。
 やっぱりこの辺り、お辞儀文化の元日本人には難しいんだよね。



 部屋に入ると、大きな窓に面した日当たりのいい一画でテーブルに着く男女と、その後ろに控える侍女・侍従の方々。きっとあの方々がディー様のご両親で、この国の皇帝陛下と皇后陛下だ。

「父上、母上」
「オーディン。やっと会わせてくれる気になりましたのね」
「そんな気には微塵もなっていないのですが、アイルがお二人に挨拶をしなくてはと気にするので仕方なくです」
「事実だとしても、少しは歯に衣を着せられぬのか…」
「着せる必要性を感じません」

 …ディー様のところの家族仲は、なかなかドライなんだね…。
 でも決して仲が悪いわけではなさそうなので安心した。

 
「して、そちらのご令嬢が、オーディンが溺愛しているというウェヌス子爵家のアイル嬢か」
「ごあいさつがおそくなりもうしわけございましぇん。おはちゅにおめにかかりましゅ。あいる・うぇぬしゅともうしましゅ。おめにかかれてこうえいでしゅ」

 陛下がこちらに話を向けて下さったので、まだまだ拙いカーテシーで挨拶をする。
 今日は白から快晴の空のような青に変化するグラデーションが綺麗な、レースを重ねてふわふわしたシルエットのドレスをディー様がチョイスしてくれた。テーマは『風の妖精』だそうだ。完全にテーマ負けだ。そしてディー様は上は白いジャケット、下は青のスラックス。本日も完全に私と揃えにきていて、彼の方こそ『妖精界の王子様』と言われても納得の仕上がり。隣に並ぶと私がかすむどころか消えて見えないんじゃないかな。


「アイル嬢。我が息子が君を囲い込んでいたのはわかっているから気にしなくてよい。こちらこそやっと会えて嬉しいよ。儂はハリー・バルト・ディエバス。この子の父だ」
「可愛らしい子ね。わたくしはセレスティン・バルト・ディエバスです。この子の母親よ。今日はわたくしたち達だけの私的なお茶会だから、あまり緊張しなくても大丈夫よ」
「かんだいなおことば、あいがとうございましゅ、へいか、こうごうへいか」


 両陛下は滞在の挨拶が遅れたことは怒っていない様子だったので、心底ホッとした。とりあえず今すぐ首を切り落とされることは無さそう。


「アイル、こっちに座ろう。アイルが好きなショートケーキもあるから食べようか」
「え、あの」

 ディー様は挨拶が終わったとみるや、すぐに私の手を引いてテーブルに向かう。
 そしてマナーなど関係ないとばかりに、自分の膝の上に私を座らせた。


 両陛下はぽかんと呆気にとられた顔をしている。


 ちょっと、何してくれてんですかディー様ぁ⁉




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