怖がり伯爵令嬢は逃げも隠れもしますので構わないでください!

大鳳葵生

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閑話7話 デート・1 43話~44話 ギルベルト視点

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 夜会の翌日。

 俺はマリーと待ち合わせをし、特に会いたくもないあの人をい探すことになった。

 一応貴族だとばれない様にシンプルな庶民の服に袖を通し、指定した英雄の銅像の前に向かう。

 ここを待ち合わせ場所にしたのは、銅像のモデルとなった英雄がそれぞれあの人に縁のある人物だからだ。

 運が良ければあの人を探すのは最初の待ち合わせ場所で終わるかもしれないと思ったが、そう甘くはなかった。

 しばらく待つと可愛い緑と白のワンピースを着た女性が、俺目掛けて駆け寄ってきた。

 急に走り出したせいか前方に転倒しそうになる。それは俺のすぐ目の前のできごとで、俺はとっさに彼女を支えた。

「大丈夫か?」

「すみません、ギルを待たせてしまったと気付いたら、走らなければと思いまして」

「そうあわてるな。お前が怪我をする方が問題だ。いくぞ」

「はい!!」

 とにかくあの人は城下町ならどこにでも顔を出す。なんなら昔暇だという理由で連れまわされた経験もある。

 あの人と一日一緒にいると、その気がなくても大公に睨まれるからなんとかして欲しいものだ。

 とりあえず、どこから回ろうか。いっそのこと片っ端から目に付いた建物に出入りするだけでも情報が入りそうだ。

 俺は目に付いた工房に向かって歩くと、マリーはせっせと俺についてこようと歩き始めた。

 その様子が何だか愛おしくて、つい歩くペースを速めたり今度は逆に遅らせたりと、してしまった。

 一回むーって頬を膨らませたから、ここで彼女が歩きやすいペースに合わせる。少しだけ満足そうだが、もっと怒っても良かったんだぞ?

「ここは?」

「ガラス細工工房だ。あの人は工房見学も好きだ」

「な、なるほど」

 工房に入り、親方に事情を話す。

「ルアちゃんかい? ああ、今日は来てないね」

「ありがとうございます」

 あの人、常連だったのか。適当に入ったんだが、いきなり当たるとは思わなかった。

「なんだ兄ちゃん? 妹か?」

 いや、俺の妹だったらこんなに可愛くなるだろうか。いや、ならない。

「いえ、彼女は私の恋人です」

「…………!?」

「おう、そうかそうか! だったら嬢ちゃんにプレゼントしてやったらどうだ? 年頃の娘が喜ぶようなもんもたくさんあるぞ。見てくだろ?」

「ありがとうございます、行くぞマリー」

 そういえば、ちゃんとしたプレゼントの一つもあげたことがなかったな。ガラス細工工房か。何か良いものがあるかもしれないな。

 俺は少し浮かれながら日用品として使えるグラスや。インテリアとなる小物が並んでいる棚に目を移す。

 一つの小物に目が止まり、それを見てなんとなく彼女に似合うと思った。俺はそれを手に取ると、マリーの手のひらにひょいと乗せた。

「マリー、これなんてどうだ?」

「え? あっ」

 彼女の手には、ちょこんと小さなうさぎのガラス細工。

 それをぼーっと眺める彼女の口角は、わかりやすいほど上がり、そんな彼女の素直な喜び方に、自分の心も分かりやすいくらい惹かれていた。

 俺がマリーを見つめていることに気付いた彼女は、何かを疑問に思ったのか俺に質問する。

「ギルも見ますか?」

「え? あ、いや、そういう訳じゃないんだけどな」

 支払いを済ませて振り向くと、マリーは、うさぎのガラス細工をハンカチにくるみ、そのくるんだガラス細工をどこにしまおうか必死に考えているようだった。

「すまない、しまう場所がなかったか」

「あ、そのあまり大きなカバンを持っていた訳ではなかったのでぽろっと落ちたらどうしようかと」

「俺が持っておこう。帰りに渡す」

 そう言って俺は、腰にくくりつけてある鞄にそれをしまい込む。

「ごめんなさい」

「気にするな、工房の親方にのせられて考えなしに購入したのは俺の方だ」

 ガラス工房を出て、昼食時。俺についていくるように歩くマリー。しばらくしてがやがやとした食堂に、彼女を案内した。

「ここは?」

「昔、ルアさんに連れてこられたことのある食堂だ」

 食堂の中では、カウンター席もテーブル席も大混雑。どうにか空いているカウンター席に俺たちが座り、一息つく。

 カウンター席の向こう側から、水色の髪に
緑色の瞳の女性。俺の幼馴染であるイザベラ・ロムニエイだ。

 彼女は実兄の国家反逆罪により、公爵家が爵位剥奪。一族郎党平民落ちしてしまった。

 その事件にあの人が関わっており、何の罪もないイザベラのことを気にかけ、あの人は頻繁にここに出入りしている。

「いらしゃぁー……げぇ、ギルベルト。お前何しにきやがった」

「食事だ。気にするな」

「ほー? お前が女をここに連れてくるとはな。おい嬢ちゃん、こいつ貴族様だぞ? もっとたかっとけ?」

 どうやらイザベラはマリーのことを何も知らない平民だと思い込んだ様子だ。しかし、一応お忍びという設定なのだから軽々しく貴族だとか言わないでもらいたいものだ。

 マリーにしか聞こえないように言っているだけ良しとしよう。

 食事が出てきてマリーと会話し、イザベラがあの人の通称を聞いてつっかかってきたりとあったが、問題なし。

 全て食べ終え、食堂を出ていくと、俺は少しだけ笑っていたようで、マリーはその様子に少しだけ驚いていた。

「何がおかしいのですか?」

「おかしい訳じゃない。それでも昔は親しかった奴だ。元気そうで安心した。さて、次に探しに行く前に少しはあの人のことを気にせず遊ばないか?」

「へ? は、はい」

 今日は一日中あの人のことを探すことになりそうだ。本当はすぐに見つけて後はマリーと過ごせたらと思っていたが、上手くいかないものだ。明るいうちに気兼ねなく二人で何かしたいものだ。

「あの! あっあっ……でしたら…………私もギルにプレゼントを買いたいです」

「…………」

「…………」

 俺たちは互いに沈黙を作ってしまった。マリーの顔は紅いが、俺の顔もきっと負けていないだろう。
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