怖がり伯爵令嬢は逃げも隠れもしますので構わないでください!

大鳳葵生

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52話 別に今日じゃなくてもいいんだけどなぁ

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 くたくたの身体で迎えた放課後。足はふらつき、視界もぐらぐら。それでもいつものようにギルの所に向かいます。

 ギルとあってたくさん甘やかされたい。ほぼそれしか考えていませんでした。ギルの待つ部屋の扉を開くと、今にも倒れそうな私を目撃するギル。

 あまりにも疲れ切った私を見たギルは、真っ先に私の身体を支えてくれました。

「ひどく疲れているな。今日はもう帰るか?」

 彼が優しく私に声をかけてくれます。そんな彼に甘えることしかできない私。

 さきほど、バルツァー公爵夫人に不合格と言われたことを、ギルにお話すべきでしょうか。どうしましょう。

 私は、さきほど言われた言葉をギルに伝えるかどうか迷いながら、それでも彼に癒されたくてつい甘えようと、手を伸ばします。

「いえ、もう少しだけこうさせてください」

 私ががっしりとギルを掴むと、彼の手が私の背中に回されました。ぐったりと身体を、ベッドに沈ませるようにしてギルに押し付けます。

 こうして彼の心音が聞こえる距離まで行くと、嫌なことも忘れられそうな気がしてリラックスできます。このまま、時間が止まってしまっても私は後悔しません。

 しばらくそうしていると、いつの間にか二人して椅子に座っていました。

 それでも顔は彼の上半身にくっつけたままぐったりしていると、ゆっくりと髪を撫でられます。

 それが心地よくてもっとくっつこうとすると、今度はぎゅっと抱きしめられます。

 仕返しに私も彼の体に腕を回します。すると、そっと耳元で囁かれました。

「今日は随分甘えん坊だな。何かあったのか?」

「…………むしろ何もないと思いますか?」

「さてな、こんなに疲れ切ったマリーは初めてだからどうしようかと思ったが、君がそういう風に甘えてくるだけなら、毎日疲れてもいいんだぞ」

「…………鬼畜」

 そう呟いたら、もう一度彼は囁きます。今度はさっきの言葉とは違い、そっと優しく。

「お前のことならいつでも大歓迎だ。迷惑だと思ってこない方が迷惑だと思ってくれ」

「…………その……今日」

 話そう。バルツァー公爵夫人に言われてしまったこと。言わなければダメ。だって私の不安はたった今、ギルに言ったら迷惑になるのではと考えていたことだから。

 私は今日の出来事のことをギルにお話するとギルはそれでかと納得してくださりました。

「だからそんなに疲れていたのか」

「いえ、そちらもですけどその、ギルのお母さんに言われたことが」

 私が続きを言おうとすると、彼の抱きしめる力が少しだけ強くなります。それが暖かくて私は目を閉じて彼に身を委ねます。

「母さんはきっとマリーのことを受け入れてくれるよ」

「そんな訳! あの時はっきりと不合格と言われました!」

「私が決めていいのならと言ったのだろう?」

 確かにそう言われました。つまり、決定権は私にないから、他の人の決定に委ねてくださると?

 それはギルのお母さんに受け入れられたと言えるのでしょうか。そもそも何故私は不合格と言われてしまったのか全然わかりません。

「今日は高等部に母さんが来ていたんだな。となると、今夜は屋敷か。マリー、今夜はウチに来ないか?」

 えーっと。ギルに誘われて。でもギルの家にはさきほどのバルツァー公爵夫人がいらっしゃって。つまり、私はこれかれあバルツァー公爵夫人のいる家に誘われていて。

 それでいてギルからの誘いで。

 当然、何か考えがあってのこととなりますと、つまり断れないやつですね。

「えと、それはつまり?」

「二人で母さんと話そうと言っているんだ。問題ないな?」

 問題大ありですよギル。待ってください。逃げても良いですか?
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