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5話 元悪役令嬢がこっちを見ている
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大賢者であるレイモン捜しは一向に上手く行きませんでした。そんなことより近頃、不穏な視線を感じます。
そう、視線の正体は私の母である元悪役令嬢エリザベート・ジョルジュ・クレメンティエフではなく、今はエリザベート・ジョルジュ・フォレスティエ王妃。
綺麗な金髪に長く腰まで伸び、深紅の瞳は男女問わず魅了する美しさ。見た目は一目で美しいとわかる女性だが、元悪役令嬢だ。
そんな母も時期にアラサー一歩手前である。…………転生前の私もアラサー目前だったけど、こんなに美しくなかったし結婚もしてなかったし当然子供もいないし王妃でもない。圧倒的敗北感しかない。
私のことはどうでもいいか。それよりも今はエリザベートだ。何が目的か知らないけどたまに私の様子をちらちら見てくるのよね。
私は子供、無邪気な子供。だからいっそぶつかってやろうじゃない。
「あっ! お母様ぁ!」
私は母、エリザベートに、たった今気付いたふりをして駆け足で彼女の所に向かっていった。
エリザベートは普段一向に懐かなった私に目を丸くして驚いている。だが、彼女はすぐにいつもの冷徹な表情に戻り、私ではなく私のメイド達が睨まれる。
「この子をこんなお転婆に育てろなんて、私言ったかしら?」
「申し訳御座いません王妃殿下」
エリザベートはぎゅっと私の体を抱き上げ、セシルたちがエリザベートに向けてペコペコと頭を下げる。
まるでお母さんみたいねエリザベート。赤子の頃から意識があるけど、初めてこの人に抱きしめられた気がする。
ああ、頭では悪役令嬢と分かっていても、体ではこの人を母親と理解しているんだろうな。セシルに抱きしめられる時と全然違う。この人が母親で、ジェラールが父親。
前世と違って美人に育てるかな。
「貴女も貴女よ。クリスティーン。姫なのですから走るなんてみっともない真似。二度としてはいけません」
「ごめんなさい」
とにかく形式だけでも謝ろう。悪役令嬢エリザベートは、冷徹ではあるが、残酷な人間ではなかった。そりゃあ作中では大嫌いだったし、傲慢で高飛車。自分こそ王妃に相応しいと妨害してくるようなキャラクターだ。
しかし乙女ゲーム内の彼女は、ジェラールルートハッピーエンドにて、最終的には祝福してくれるくらいの良識のあるキャラクターだ。
むしろ滅ぼされる分、バッドエンドの方が可哀そうな目に合うまである。
全然関係ないけど、ジェラールルート以外のエリザベートはなぜか確定で殺されるため、彼女が生きてここにいることはジェラールルートである証拠でもある。
エリザベートは私を抱きかかえたまま、彼女はどこかに向かおうとしていた。もしかしてこれが噂の連れ去り。いや、違うこの人母親だ。産まれて五年、ほとんど触れ合ったのがセシルだから、頭の中の彼女は悪役令嬢で他ならない。
ではどこへ連れていこうというのだろうか。彼女は私に何をさせようとしているのだろうか。わからない。
彼女の表情は読み取れるだろうか。眼は澄んでいて、真っすぐ正面を見ている。口角はさほどあがっていない。
上機嫌として見るには、そういう訳でもなさそうだ。今思えば、私はゲームで知った気になっていたエリザベートのことを何も知らない。今では母親であるというのに、何も知らない。
この国を救うなら、長い付き合いになる人に違いはない。であれば、少しくらい歩み寄るべきなのだろうか。
そして彼女が私を連れて何をしようとしているか、確かめてみるのも悪くはない。どうせ私が魔法学園に卒業するまでの間に六つのワンダーオーブを手にいれてしまえばいいのだから。相手はたった一個だけど王国を滅ぼすほどの力をつけてくるはず。だから私も一個や二個で妥協はできないけど、せめて四つ位欲しいわよね。
とにかく今は、少しだけ寄り道をしよう。この母親が今もなお悪役令嬢のままなのか。それとも…………何か変わっているのか。今はそれを確かめたい。
そう、視線の正体は私の母である元悪役令嬢エリザベート・ジョルジュ・クレメンティエフではなく、今はエリザベート・ジョルジュ・フォレスティエ王妃。
綺麗な金髪に長く腰まで伸び、深紅の瞳は男女問わず魅了する美しさ。見た目は一目で美しいとわかる女性だが、元悪役令嬢だ。
そんな母も時期にアラサー一歩手前である。…………転生前の私もアラサー目前だったけど、こんなに美しくなかったし結婚もしてなかったし当然子供もいないし王妃でもない。圧倒的敗北感しかない。
私のことはどうでもいいか。それよりも今はエリザベートだ。何が目的か知らないけどたまに私の様子をちらちら見てくるのよね。
私は子供、無邪気な子供。だからいっそぶつかってやろうじゃない。
「あっ! お母様ぁ!」
私は母、エリザベートに、たった今気付いたふりをして駆け足で彼女の所に向かっていった。
エリザベートは普段一向に懐かなった私に目を丸くして驚いている。だが、彼女はすぐにいつもの冷徹な表情に戻り、私ではなく私のメイド達が睨まれる。
「この子をこんなお転婆に育てろなんて、私言ったかしら?」
「申し訳御座いません王妃殿下」
エリザベートはぎゅっと私の体を抱き上げ、セシルたちがエリザベートに向けてペコペコと頭を下げる。
まるでお母さんみたいねエリザベート。赤子の頃から意識があるけど、初めてこの人に抱きしめられた気がする。
ああ、頭では悪役令嬢と分かっていても、体ではこの人を母親と理解しているんだろうな。セシルに抱きしめられる時と全然違う。この人が母親で、ジェラールが父親。
前世と違って美人に育てるかな。
「貴女も貴女よ。クリスティーン。姫なのですから走るなんてみっともない真似。二度としてはいけません」
「ごめんなさい」
とにかく形式だけでも謝ろう。悪役令嬢エリザベートは、冷徹ではあるが、残酷な人間ではなかった。そりゃあ作中では大嫌いだったし、傲慢で高飛車。自分こそ王妃に相応しいと妨害してくるようなキャラクターだ。
しかし乙女ゲーム内の彼女は、ジェラールルートハッピーエンドにて、最終的には祝福してくれるくらいの良識のあるキャラクターだ。
むしろ滅ぼされる分、バッドエンドの方が可哀そうな目に合うまである。
全然関係ないけど、ジェラールルート以外のエリザベートはなぜか確定で殺されるため、彼女が生きてここにいることはジェラールルートである証拠でもある。
エリザベートは私を抱きかかえたまま、彼女はどこかに向かおうとしていた。もしかしてこれが噂の連れ去り。いや、違うこの人母親だ。産まれて五年、ほとんど触れ合ったのがセシルだから、頭の中の彼女は悪役令嬢で他ならない。
ではどこへ連れていこうというのだろうか。彼女は私に何をさせようとしているのだろうか。わからない。
彼女の表情は読み取れるだろうか。眼は澄んでいて、真っすぐ正面を見ている。口角はさほどあがっていない。
上機嫌として見るには、そういう訳でもなさそうだ。今思えば、私はゲームで知った気になっていたエリザベートのことを何も知らない。今では母親であるというのに、何も知らない。
この国を救うなら、長い付き合いになる人に違いはない。であれば、少しくらい歩み寄るべきなのだろうか。
そして彼女が私を連れて何をしようとしているか、確かめてみるのも悪くはない。どうせ私が魔法学園に卒業するまでの間に六つのワンダーオーブを手にいれてしまえばいいのだから。相手はたった一個だけど王国を滅ぼすほどの力をつけてくるはず。だから私も一個や二個で妥協はできないけど、せめて四つ位欲しいわよね。
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