BAD END STORY ~父はメインヒーローで母は悪役令嬢。そしてヒロインは最悪の魔女!?~

大鳳葵生

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7話 騎士団長の息子ミゲル・エル・ラピーズ

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 私がいつものようにセシルが作ってくれた焼き菓子を口いっぱいに頬り込んでいると、執事の方がやってきた。

「クリスティーン姫。ガエル騎士団長がご子息を連れていらっしゃいました。どうされますか?」

「はい! 今すぐ!」

 私は頬張っていた焼き菓子を一気に飲み込み、紅茶で流し込んでから二人を部屋に呼ぶようにと執事に声をかけ、執事はすぐに退室して彼らを呼びに行きました。

 そしてさほど待つことなく、執事が二人を連れて戻ってきます。ガエルに連れられた男の子は、ガエルよりずっと暗い緑色の髪をした少しだけ私より小さい内気そうな男の子でした。

「姫様。約束を果たしに来ました、息子のミゲル・エル・ラピーズです」

 うそでしょ。騎士団長の息子さん。弱そうにもほどがある。まさかの母親似?

 想定外の期待外れでけど、ここで顔に出すのは悪い気がする。それに同年代の友達を作ること自体は悪いことではない。

 今回は宛が外れたと思って別の方を探しましょうか。彼が勇敢な少年に育ってくれるならそれに越したことはありませんが、勇気を示して大怪我をさせる訳にも行きませんしね。ちょうどいい。友人として仲良くするのも悪くないわよね。

「ミゲルです。よろしく」

 挨拶も短く簡素。あまり礼儀正しくないと感じましたが、それはこないだあった従兄のアレクシスと比較してしまうからであり、さほど気になることではない。年相応ととらえよう。

 簡素な挨拶をしたミゲルを見たガエルがしかりつける。そしてミゲルの頭を後ろから強引に押し倒し、頭を下げさせた。

「いえ、気にしなくてもいいですよ?」

「…………? 姫様? こないだ訓練場に来た時はもう少し子供っぽかったと思いますが?」

 ガエルが、急に喋り方が綺麗になった私を見て、目を丸くしていた。そういえば、母に淑女らしくと言われてから、この喋り方が定着気味になってきていた。確かに騎士団に遊びに行っていた私とは全然違う。

 実際、子供っぽい喋り方の演技は、想像以上に窮屈だったのである。今みたいに礼儀正しくの方が楽に感じた。

「えと、母に注意されてしまい、少しずつ学んでおります」

「ああ、エリザベート王妃様にね。実は俺、王妃様とは学生時代同級生だったんですよ」

 すっごく知っているわ。なんなら、周回プレイまでしたから、ある程度の会話なら思い出せるほどです。と言っても、エリザベートとガエルが絡むのはガエルルートのみ。この世界の歴史とは異なるものだ。

 ガエルルートのエリザベート。確か騎士団総出動時に学園が襲われて教室事火あぶりに…………考えるのはやめましょう。

 どちらにせよ、あの母が昔のガエルも今のガエルも仲良くするとは思えない。精々、顔見知り程度だろう。

「それでは俺は他の者たちに稽古をつけてやるので、終わったらミゲルの迎えに来ます」

「え? あ、はい!!」

 どうしましょう。あまり喋るのが得意なタイプの子に見えませんが、ミゲルとは何を話せばいいのでしょうか。

 そんなことを考えていたら、ミゲルがテーブルの上に置いてある焼き菓子をガン見していたことに気付きます。

「宜しければどうぞ。うちのメイドの焼き菓子は絶品ですよ」

 最初は困っていたミゲルも、ゆっくりと焼き菓子に手を伸ばす。そしてそれを一つ口に入れると、目をキラキラさせて一気に平らげてしまった。

 私の分の焼き菓子が、まあ私はいつでも食べられるからいいか。

「美味しいでしょう?」

「…………うん」

 とりあえずコミュニケーションは完璧ね。少しずつ慣れていきましょうか。

「ミゲル様は、将来どのような方になりたいのですか?」

 せっかくですし、他のワンダーオーブを手に入れるきっかけになるかもしれません。彼なりのなりたいもののお話でも聞きましょうか。

 私が尋ねると、ミゲルは黙り込んでしまう。おいおい、何もないの?

 …………いや、違う。これは多分言い出すのが恥ずかしいんだ。

「大丈夫ですよ。なりたいものは自由です。ドラゴンとか言われてしまうと、さすがに冗談かと思いますが」

 私がそう声をかけると、ミゲルは小さな声でぼそぼそと言い出した。全く聞こえない。全く聞こえないよミゲル少年。

 だが、私は元アラサー。ここは私が大人になれ。何喋っているか聞き取れない目上の人と話す様に!

「へえ、良いじゃないですか。頑張ってください。私で良ければ応援しています」

 違う。ここは聞こえたふりをするところじゃない。てゆうか、これじゃあ聞き返せないよ。相手は酔っ払いと違って話したかどうか記憶があやふやになる訳じゃないのよ。

 私が頭を抱えている時、まさかミゲル君が私を見つめていたなんて知る由もなかった。

「姫様は?」

「ん?」

 ミゲルが私に話しかけている。そう思い、やっと顔を上げると、内気そうで自信なさげなミゲルはさきほどと様子が違い、私の将来の夢を聞きだそうとしている。

 もしかして将来の夢の話が好きなのかしら?

「姫様がなりたいものは何ですか?」

「私は…………」

 私がなりたいもの。なんだろう。そうだな。しいて言うなら、あれだ。前世の私になかったもの。

「結婚したいです」

「え? そんなこと?」

「え? そんなことですか?」

 うそでしょ。結婚は女の夢で鉄板よね? 何か変なことを言ったのかしら。

「だって姫様だったら絶対に結婚できるでしょ?」

「あっ…………それもそうですね。でしたら恋がしたいです。これは義務ではありませんので」

 あと、ファザコンを卒業したい。推しが父親とかキツイよ本当に。

「恋…………恋ですか。頑張ります!」

「ん? ええ、頑張りましょう」

 ミゲルが急に自身の夢への決意表明をしましたの、ちょっとびっくりしましたが私はそれに笑顔で返事をしました。
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