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88話 浄化魔法・慈悲
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講堂に集められた平民生徒たちを一つの強固な結界に閉じ込められていた。これは守護魔法の応用系で、逆に相手を結界で囲う魔法ね。
講堂には私とスザンヌ、それからジョアサンに来てもらいました。ウィルフリードは起爆装置の魔力源として捕縛されていたことで消耗していましたので、少しの間だけオリバー達に見て貰おうことにしました。
すぐ近くには、緑色の髪をしたガタイの良い騎士。ミゲルの父親にして騎士団長のガエル・エル・ラピーズだ。彼は私に気付きはするも、結界の維持の為その場から動きませんでした。
その代わりに近くにいた黒髪に三十超えても綺麗な顔立ちをしている黒服の男が私に気付いて近寄ってくる。
「姫殿下、ご要望通り、暴動を計画していた生徒たちとそれから一部の協力者たちも講堂に捕縛しました」
協力者ね。リストを見て生徒だけにしては明らかに多いなって思っていましたが、どうやら一部の貴族や、その従者。教員たちも参加していたようです。ですが、ガエルやレイモン先生の前では無力だったみたいですね。
「ありがとうございますレイモン先生」
私やアレクシス、ミゲル、ビルジニの魔法の師匠にしてリビオの父親、レイモン・デ・ベルニエ先生。彼も状態魔法、麻痺で複数人の生徒を捕縛しているようです。
「それで集めた彼らをどうするのですか?」
「レイモン先生。ガエル騎士団長。これから私が使う魔道具についてはどうかご内密にお願いします。ジョアサン、来て」
私はスザンヌに持たせていた私の荷物から、私とブランクにしか見えない小瓶を取り出すと、その中から【藍】のワンダーオーブを取り出しました。
ガエルもレイモン先生も突然手元に現れた【藍】のワンダーオーブを見て驚いていますが、そんなことを考えている余裕はありません。
【藍】のワンダーオーブを使うことで使える浄化魔法は憤怒の浄化。さてと、確かゲームではこれを使う時は二人で同時に握って……こうなんか自分に寄った中二病が考えそうな文章書かれていたのは全部流し読みしていたから、詠唱できない!
どうする? とにかく握って…………あれ? 何か頭に言葉が。
不意に視線をジョアサンに向けると、彼も何かを感じ取ったのか、私の方を見ていました。お互いに何かを察して頷く。
「「杖の英雄が体現せし、万物を癒す光。女神ヨランドの名の元に憤怒で汚れた魂を、浄化の光で撃ち滅ぼす。浄化魔法。慈悲」」
その瞬間でした。講堂内部を藍色の優しい光が包み込みます。その光を浴びているだけなのに、どうしてここまで温かな気持ちになれるのでしょう。どうやら憤怒の感情に支配されていた訳でもない私達にもその光が効力を発揮するようです。
しかし、それもつかの間。藍色の光はすべて【藍】のワンダーオーブが吸収し、今度はワンダーオーブから私とジョアサンの二人に浄化した憤怒の感情が流れ込んできました。
これが感情のフィードバック!? でも、二人で受けていることと、女神ヨランドに認められたジョアサンのおかげで私達は何とか憤怒に取り込まれることなく、フィードバックが終わりました。
なるほどね、浄化魔法をもし一人で使ってしまったら、私はきっとここにいる全員の憤怒の感情を請け負っていたのでしょう。なんとか自制できる程度でとどまって良かったわ。
ワンダーオーブを一人で使えば、フィードバックによって感情が逆流する?
それじゃあ、今たった一人しかいないあの子は…………あそこまで良識のあったあの子が、あんなにも狂った未来を歩もうとしているのは、【赤】のワンダーオーブのフィードバックを受けていたからっていうの?
彼女なら力を蓄えるのに十数年もいらない。でも、彼女が完全に悪に染まるには十数年で充分だったとしたら。私がこれから戦おうと思っていた相手は、善意で人々を浄化して、その負の感情をすべて引き受けたヒロイン?
それは本当に、私が許せない人?
周囲の生徒たちは浄化魔法の光により、浄化された憤怒の感情が消え去り、今はスヤスヤと眠っています。ガエルやレイモン先生、スザンヌまで眠ってしまっていました。
大なり小なり、みな負の感情は持っていると言うことでしょうか。それとも使用者以外が光を浴びた結果? まあ、いいわ。
私は、これから自分が戦うべき相手。乙女ゲームのヒロインが、どれだけ壮絶な人生を歩んできたのかと考えながら、皆が起きるのを静かに待ちました。
私、闇に染まった彼女を前にしても、大切な人たちを護る為に戦うしかないのよね。
講堂には私とスザンヌ、それからジョアサンに来てもらいました。ウィルフリードは起爆装置の魔力源として捕縛されていたことで消耗していましたので、少しの間だけオリバー達に見て貰おうことにしました。
すぐ近くには、緑色の髪をしたガタイの良い騎士。ミゲルの父親にして騎士団長のガエル・エル・ラピーズだ。彼は私に気付きはするも、結界の維持の為その場から動きませんでした。
その代わりに近くにいた黒髪に三十超えても綺麗な顔立ちをしている黒服の男が私に気付いて近寄ってくる。
「姫殿下、ご要望通り、暴動を計画していた生徒たちとそれから一部の協力者たちも講堂に捕縛しました」
協力者ね。リストを見て生徒だけにしては明らかに多いなって思っていましたが、どうやら一部の貴族や、その従者。教員たちも参加していたようです。ですが、ガエルやレイモン先生の前では無力だったみたいですね。
「ありがとうございますレイモン先生」
私やアレクシス、ミゲル、ビルジニの魔法の師匠にしてリビオの父親、レイモン・デ・ベルニエ先生。彼も状態魔法、麻痺で複数人の生徒を捕縛しているようです。
「それで集めた彼らをどうするのですか?」
「レイモン先生。ガエル騎士団長。これから私が使う魔道具についてはどうかご内密にお願いします。ジョアサン、来て」
私はスザンヌに持たせていた私の荷物から、私とブランクにしか見えない小瓶を取り出すと、その中から【藍】のワンダーオーブを取り出しました。
ガエルもレイモン先生も突然手元に現れた【藍】のワンダーオーブを見て驚いていますが、そんなことを考えている余裕はありません。
【藍】のワンダーオーブを使うことで使える浄化魔法は憤怒の浄化。さてと、確かゲームではこれを使う時は二人で同時に握って……こうなんか自分に寄った中二病が考えそうな文章書かれていたのは全部流し読みしていたから、詠唱できない!
どうする? とにかく握って…………あれ? 何か頭に言葉が。
不意に視線をジョアサンに向けると、彼も何かを感じ取ったのか、私の方を見ていました。お互いに何かを察して頷く。
「「杖の英雄が体現せし、万物を癒す光。女神ヨランドの名の元に憤怒で汚れた魂を、浄化の光で撃ち滅ぼす。浄化魔法。慈悲」」
その瞬間でした。講堂内部を藍色の優しい光が包み込みます。その光を浴びているだけなのに、どうしてここまで温かな気持ちになれるのでしょう。どうやら憤怒の感情に支配されていた訳でもない私達にもその光が効力を発揮するようです。
しかし、それもつかの間。藍色の光はすべて【藍】のワンダーオーブが吸収し、今度はワンダーオーブから私とジョアサンの二人に浄化した憤怒の感情が流れ込んできました。
これが感情のフィードバック!? でも、二人で受けていることと、女神ヨランドに認められたジョアサンのおかげで私達は何とか憤怒に取り込まれることなく、フィードバックが終わりました。
なるほどね、浄化魔法をもし一人で使ってしまったら、私はきっとここにいる全員の憤怒の感情を請け負っていたのでしょう。なんとか自制できる程度でとどまって良かったわ。
ワンダーオーブを一人で使えば、フィードバックによって感情が逆流する?
それじゃあ、今たった一人しかいないあの子は…………あそこまで良識のあったあの子が、あんなにも狂った未来を歩もうとしているのは、【赤】のワンダーオーブのフィードバックを受けていたからっていうの?
彼女なら力を蓄えるのに十数年もいらない。でも、彼女が完全に悪に染まるには十数年で充分だったとしたら。私がこれから戦おうと思っていた相手は、善意で人々を浄化して、その負の感情をすべて引き受けたヒロイン?
それは本当に、私が許せない人?
周囲の生徒たちは浄化魔法の光により、浄化された憤怒の感情が消え去り、今はスヤスヤと眠っています。ガエルやレイモン先生、スザンヌまで眠ってしまっていました。
大なり小なり、みな負の感情は持っていると言うことでしょうか。それとも使用者以外が光を浴びた結果? まあ、いいわ。
私は、これから自分が戦うべき相手。乙女ゲームのヒロインが、どれだけ壮絶な人生を歩んできたのかと考えながら、皆が起きるのを静かに待ちました。
私、闇に染まった彼女を前にしても、大切な人たちを護る為に戦うしかないのよね。
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