BAD END STORY ~父はメインヒーローで母は悪役令嬢。そしてヒロインは最悪の魔女!?~

大鳳葵生

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89話 不安と決意

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 暴動を止めたその夜。私は夢の中で誰に向けられたかわからない怒りをぐるぐると抱えながら、ベッドの中でもがくように苦しみ始めた。

 身体の芯から溶けていくように熱い。考える余裕こそありませんが、顔や手足を這う様に流れる雫が、気持ち悪いことだけはわかる。

「ハァ…………ハァ…………。きつい。何よこれ。ジョアサンは平気かしら?」

 やっと落ち着いたところで、私は上体を起こしました。ワンダーオーブは、二人で使えば感情のフィードバックはもっと少ないものだと思っていましたが、そんなことはないみたいね。もはや後遺症か何かじゃない。

 汗まみれの身体が気持ち悪く、私は軽く身体を拭き、もう一度ベッドに潜り込む。

 ここまで身体に影響が出るのでしたら、ワンダーオーブの使用は最低限に控えましょう。

 乙女ゲームでは、間違いなく使用者に負担がかかる描写なんてありませんでした。それはおそらくワンダーオーブを使っても負担がないスペックで設計されたヒロインとヒーローが使用していたからでしょう。

 私みたいにヒーローと悪役令嬢の娘とか、ジョアサンのような遺伝子の半分がヒーローでは、劣化版ということなのでしょう。つまり、今後もワンダーオーブを使えば私は今日みたいなことになるのね。

「それよりも明日は…………レポートの提出日」

 カトレーヌさんとのレポート勝負はどうなるかしら。

 最後の仕上げをジャンヌさんにお任せしてしまいましたが、彼女は魔法はともかく座学は優秀で真面目な生徒なのできっと大丈夫でしょう。ですが相手はカトリーヌさん。入学してから彼女を見ていますが、間違いなく優秀。座学も魔法も高得点のハイスペックさ。

 あの子のスペックは、まるでゲームの登場人物ね。顔つきからいっても私と遠縁とは思えませんしね。

 一応私も全種類の魔法が使えるという異例ではありますが、レイモン先生からの評価は、同年代の中では間違いなく実力者であることに違いないが、魔力の才能は五歳児から修練したと言われれば、納得できるレベルでとどまっている。って言われましたのよね。

 魔力量は多いみたいですけど、それはあくまで多いだけ。

 そういえば浄化魔法を使った後に、レイモン先生やガエルに口止めをしようと思いましたが、あの後眠りから覚めた彼らは…………何も覚えていなかったのよね。

 覚えていたのは暴動のことまで。ご都合主義な気がしますが、思い返せばゲームでもワンダーオーブで浄化されたことを忘れたという描写こそありませんが、あんな魔道具があるのに、使用後に誰一人話題に出していないということは、これはゲームの世界のつじつま合わせね。

 私は棚の上に置かれた小瓶に入る藍色の珠を見つめる。ワンダーオーブは残り五つ。最強のヒロインを殺さずに止めるには、やはりこちらがもっと圧倒的な力を手に入れるしかない。…………よね。

 もし彼女が【赤】のワンダーオーブのフィードバックを受けているのなら、私が【赤】のワンダーオーブを奪って彼女を浄化する。

 大丈夫よ、ミカエルの息子のジョアサンが資格を貰えたように、ジェラールの娘の私が資格をもぎ取ってやる。

 私は目を閉じてとにかく考えることをやめる。黒い海の中に沈むイメージが続き、やがて眠りについた。



 翌朝、あまりよく眠れなかった私は、スザンヌに叩き起こされることで目が覚めます。

「ぐえぇふっ!?」

「おはようございます姫様」

「貴女、今何を?」

「付与魔法で掛け布団を十倍の重さにしました」

「…………今後は別の起こし方でお願いするわ」

「毎回同じことを言いますね」

「毎回言わせるほうがおかしいって気付いて」

 私は変わらないやり取りができているという事実に安堵しつつ、些細なきっかけでまた怒りの感情に支配されるのではないかと、どこか怯えてしまう。

「姫様? 調子が悪いのですか?」

「…………気のせいよ」

 やだこの子鋭い。でも今日は学園に行かないと。レポートの仕上げの最終確認をして提出。あとはもうアンヌ先生の採点次第ってところね。

「朝ご飯の時間までどれくらい?」

「走れば間に合います」

「…………泣きそう」

 彼女は優秀で私のことをよく理解していて、私をからかうのが一番上手。
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