BAD END STORY ~父はメインヒーローで母は悪役令嬢。そしてヒロインは最悪の魔女!?~

大鳳葵生

文字の大きさ
104 / 228

番外編・エリザベート二十四歳 クリムゾン・アイ

しおりを挟む
「お母様!」

 幼い子供の声で私は振り返る。振り向いて少し目線を下げると、金髪でふわふわした髪の少女が、覗き込んだら沈んでしまいそうな紺碧の瞳で私を見つめていた。可愛い。

 私は彼女に歩み寄ることなく、その場に立ち止まる。彼女は止まることなく私の足元までやってきた。可愛すぎる。

「お母様! 今日も遊んでください!」

 彼女の名前はクリスティーン・ディ・フォレスティエ。まだ六歳の少女だ。まだまだ遊びたい年頃なのはわかりますが、最近やっと産後から動き回れるようになったため、毎日のようにやってくる娘と何をして遊んであげようか悩ましいところでした。可愛すぎますので。

 少々疲れやすい体調ではありますが、それでも娘を放置するという選択はなく、私は彼女を抱きかかえて産まれて数か月の息子、ジルベール・アルベルト・フォレスティエのところに向かうことにしました。可愛いクリスティーンを連れて。

 私が手を伸ばすと、いつものようにクリスティーンは私の両手の間に身体を預け、少しだけ腰に力を入れて彼女を抱き上げます。うっ……ちょっと辛い。こんなに可愛いのに。

 しかし、笑顔のクリスティーンを見て、私はほんの少しだけ頑張ろうと少しだけふらつきながらジルの部屋に向かいました。可愛い娘が喜ぶなら、このくらい平気です。

 ジルの部屋はクリスティーンの宮殿の一つ隣にある宮殿にあり、私達が今いるのはそこから少し離れた位置にある庭園。六歳になった娘を抱きかかえながら、バランスを保って歩くだけでもへとへとになりそうでしたが、それをクリスティーンに悟らせる訳にはいかない。こんな可愛い子を傷つける訳には行きません。

「お母様、ジルの所に行くのですか?」

「あら? 貴女もジルのこと好きでしょ?」

 私がそう尋ねると、クリスティーンはにやりと笑う。それはどういうリアクションなのでしょう。そんな風に疑問に思いましたが、その疑問は次の可愛いクリスティーンの発言で解消しました。

「貴女もってことは、お母様もジルが大好きなんですね?」

「え? あっ…………ジェラールよ。ジェラールがジルのこと大好きでしょ? ジェラールと貴女の話。私は普通に接しています。そんなに大好きに見えることなんてあるはずありません」

 確かにジェラールもジルのことが大好きだと思いますが、クリスティーンは、気付かなくていいとこばかり鋭い子に育ってしまったわ。可愛くて聡明ね。将来が楽しみだわ。

 それにその、私みたいな女が子供を可愛がるなんて似合うはずもない。ただでさえ我慢しているが、本当はこの子をもっといっぱい可愛がってあげたいし、たくさん遊んであげたい。一緒にいる時間も増やせるだろうに、クリスティーンの提案以上に一緒にいる時間を増やして良いものかと迷ってしまう。

 今抱きしめている彼女が、どこまで私のことが大好きでどこまで構うと嫌ってしまうのかが、私にはわからなくて怖いと思う時がある。

「お母様苦しい」

「え!? ごめんなさいクリスティーン。その落とすと悪いからしっかり抱きしめていたのよ」

 やってしまった。苦しめるつもりなんて微塵もありませんでしたが、彼女のことを考えていたら、いつの間にか抱きしめる力が強まっていた。

「もう平気だよ! お母様ってば心配症だなぁ」

 私の腕の中で朗らかに笑う彼女を見て、私も安堵する。この様子なら大丈夫でしょう。次はあんな風に抱きしめない様にしなければいけませんね。

「別に心配性だなんてことはないわ。貴女、少しお転婆だから」

「えー! そんなことないよ!」

「…………そうね」

 そうかしら? 仮にも一国の姫であるにも関わらず、五歳で魔法を自在に操り、騎士団の訓練を楽しんで見学しに行って、そこら中走り回るのは十分お転婆だと思いますし、一度ジェラールと真剣にアレは誰に似たのかとお互いの幼少時代の話をし始めましたが、クリスティーンのような行動力は、夫婦互いに持ち合わせていませんでした。

 ジルの部屋にたどり着くと、数名のメイド達に囲まれたゆりかごに私たちはゆっくりと向かいます。

「王妃様、姫様。ジルベール王子は今眠っていらっしゃいマシて」

「きゃっきゃ!」

 一人のメイドが私達に気付いてジルの様子を報告している最中に、眠っていたはずのジルの笑い声が響く。どうやら起こしてしまったようですね。

 私はクリスティーンを抱きかかえたまま、ジルのゆりかごの前に向かうと、私達に気付いたジルが大喜びで手足をバタバタと動かし始めた。

 ジルの瞳は私と同じ深紅の瞳。深紅の瞳には意味がある。私は紺碧の瞳の娘を一度見てからもう一度ジルの瞳を見つめた。

「ジルはお母様と同じ紅い瞳ですね」

「ええ…………そうね」

 本当なら喜ばしいことなのでしょう。それでも私は、その深紅の瞳を素直に喜ぶことはできませんでした。産まれてきて数か月のこの子には、自分の瞳の色も、意味もわからない。

 いいえ、きっと無意識に自覚している。私の…………私たちの瞳は、今日も見えすぎる。それが他人と違うと気付くのは五歳か十歳か、その先か。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

処理中です...