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番外編・エリザベート二十四歳 クリムゾン・アイ
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「お母様!」
幼い子供の声で私は振り返る。振り向いて少し目線を下げると、金髪でふわふわした髪の少女が、覗き込んだら沈んでしまいそうな紺碧の瞳で私を見つめていた。可愛い。
私は彼女に歩み寄ることなく、その場に立ち止まる。彼女は止まることなく私の足元までやってきた。可愛すぎる。
「お母様! 今日も遊んでください!」
彼女の名前はクリスティーン・ディ・フォレスティエ。まだ六歳の少女だ。まだまだ遊びたい年頃なのはわかりますが、最近やっと産後から動き回れるようになったため、毎日のようにやってくる娘と何をして遊んであげようか悩ましいところでした。可愛すぎますので。
少々疲れやすい体調ではありますが、それでも娘を放置するという選択はなく、私は彼女を抱きかかえて産まれて数か月の息子、ジルベール・アルベルト・フォレスティエのところに向かうことにしました。可愛いクリスティーンを連れて。
私が手を伸ばすと、いつものようにクリスティーンは私の両手の間に身体を預け、少しだけ腰に力を入れて彼女を抱き上げます。うっ……ちょっと辛い。こんなに可愛いのに。
しかし、笑顔のクリスティーンを見て、私はほんの少しだけ頑張ろうと少しだけふらつきながらジルの部屋に向かいました。可愛い娘が喜ぶなら、このくらい平気です。
ジルの部屋はクリスティーンの宮殿の一つ隣にある宮殿にあり、私達が今いるのはそこから少し離れた位置にある庭園。六歳になった娘を抱きかかえながら、バランスを保って歩くだけでもへとへとになりそうでしたが、それをクリスティーンに悟らせる訳にはいかない。こんな可愛い子を傷つける訳には行きません。
「お母様、ジルの所に行くのですか?」
「あら? 貴女もジルのこと好きでしょ?」
私がそう尋ねると、クリスティーンはにやりと笑う。それはどういうリアクションなのでしょう。そんな風に疑問に思いましたが、その疑問は次の可愛いクリスティーンの発言で解消しました。
「貴女もってことは、お母様もジルが大好きなんですね?」
「え? あっ…………ジェラールよ。ジェラールがジルのこと大好きでしょ? ジェラールと貴女の話。私は普通に接しています。そんなに大好きに見えることなんてあるはずありません」
確かにジェラールもジルのことが大好きだと思いますが、クリスティーンは、気付かなくていいとこばかり鋭い子に育ってしまったわ。可愛くて聡明ね。将来が楽しみだわ。
それにその、私みたいな女が子供を可愛がるなんて似合うはずもない。ただでさえ我慢しているが、本当はこの子をもっといっぱい可愛がってあげたいし、たくさん遊んであげたい。一緒にいる時間も増やせるだろうに、クリスティーンの提案以上に一緒にいる時間を増やして良いものかと迷ってしまう。
今抱きしめている彼女が、どこまで私のことが大好きでどこまで構うと嫌ってしまうのかが、私にはわからなくて怖いと思う時がある。
「お母様苦しい」
「え!? ごめんなさいクリスティーン。その落とすと悪いからしっかり抱きしめていたのよ」
やってしまった。苦しめるつもりなんて微塵もありませんでしたが、彼女のことを考えていたら、いつの間にか抱きしめる力が強まっていた。
「もう平気だよ! お母様ってば心配症だなぁ」
私の腕の中で朗らかに笑う彼女を見て、私も安堵する。この様子なら大丈夫でしょう。次はあんな風に抱きしめない様にしなければいけませんね。
「別に心配性だなんてことはないわ。貴女、少しお転婆だから」
「えー! そんなことないよ!」
「…………そうね」
そうかしら? 仮にも一国の姫であるにも関わらず、五歳で魔法を自在に操り、騎士団の訓練を楽しんで見学しに行って、そこら中走り回るのは十分お転婆だと思いますし、一度ジェラールと真剣にアレは誰に似たのかとお互いの幼少時代の話をし始めましたが、クリスティーンのような行動力は、夫婦互いに持ち合わせていませんでした。
ジルの部屋にたどり着くと、数名のメイド達に囲まれたゆりかごに私たちはゆっくりと向かいます。
「王妃様、姫様。ジルベール王子は今眠っていらっしゃいマシて」
「きゃっきゃ!」
一人のメイドが私達に気付いてジルの様子を報告している最中に、眠っていたはずのジルの笑い声が響く。どうやら起こしてしまったようですね。
私はクリスティーンを抱きかかえたまま、ジルのゆりかごの前に向かうと、私達に気付いたジルが大喜びで手足をバタバタと動かし始めた。
ジルの瞳は私と同じ深紅の瞳。深紅の瞳には意味がある。私は紺碧の瞳の娘を一度見てからもう一度ジルの瞳を見つめた。
「ジルはお母様と同じ紅い瞳ですね」
「ええ…………そうね」
本当なら喜ばしいことなのでしょう。それでも私は、その深紅の瞳を素直に喜ぶことはできませんでした。産まれてきて数か月のこの子には、自分の瞳の色も、意味もわからない。
いいえ、きっと無意識に自覚している。私の…………私たちの瞳は、今日も見えすぎる。それが他人と違うと気付くのは五歳か十歳か、その先か。
幼い子供の声で私は振り返る。振り向いて少し目線を下げると、金髪でふわふわした髪の少女が、覗き込んだら沈んでしまいそうな紺碧の瞳で私を見つめていた。可愛い。
私は彼女に歩み寄ることなく、その場に立ち止まる。彼女は止まることなく私の足元までやってきた。可愛すぎる。
「お母様! 今日も遊んでください!」
彼女の名前はクリスティーン・ディ・フォレスティエ。まだ六歳の少女だ。まだまだ遊びたい年頃なのはわかりますが、最近やっと産後から動き回れるようになったため、毎日のようにやってくる娘と何をして遊んであげようか悩ましいところでした。可愛すぎますので。
少々疲れやすい体調ではありますが、それでも娘を放置するという選択はなく、私は彼女を抱きかかえて産まれて数か月の息子、ジルベール・アルベルト・フォレスティエのところに向かうことにしました。可愛いクリスティーンを連れて。
私が手を伸ばすと、いつものようにクリスティーンは私の両手の間に身体を預け、少しだけ腰に力を入れて彼女を抱き上げます。うっ……ちょっと辛い。こんなに可愛いのに。
しかし、笑顔のクリスティーンを見て、私はほんの少しだけ頑張ろうと少しだけふらつきながらジルの部屋に向かいました。可愛い娘が喜ぶなら、このくらい平気です。
ジルの部屋はクリスティーンの宮殿の一つ隣にある宮殿にあり、私達が今いるのはそこから少し離れた位置にある庭園。六歳になった娘を抱きかかえながら、バランスを保って歩くだけでもへとへとになりそうでしたが、それをクリスティーンに悟らせる訳にはいかない。こんな可愛い子を傷つける訳には行きません。
「お母様、ジルの所に行くのですか?」
「あら? 貴女もジルのこと好きでしょ?」
私がそう尋ねると、クリスティーンはにやりと笑う。それはどういうリアクションなのでしょう。そんな風に疑問に思いましたが、その疑問は次の可愛いクリスティーンの発言で解消しました。
「貴女もってことは、お母様もジルが大好きなんですね?」
「え? あっ…………ジェラールよ。ジェラールがジルのこと大好きでしょ? ジェラールと貴女の話。私は普通に接しています。そんなに大好きに見えることなんてあるはずありません」
確かにジェラールもジルのことが大好きだと思いますが、クリスティーンは、気付かなくていいとこばかり鋭い子に育ってしまったわ。可愛くて聡明ね。将来が楽しみだわ。
それにその、私みたいな女が子供を可愛がるなんて似合うはずもない。ただでさえ我慢しているが、本当はこの子をもっといっぱい可愛がってあげたいし、たくさん遊んであげたい。一緒にいる時間も増やせるだろうに、クリスティーンの提案以上に一緒にいる時間を増やして良いものかと迷ってしまう。
今抱きしめている彼女が、どこまで私のことが大好きでどこまで構うと嫌ってしまうのかが、私にはわからなくて怖いと思う時がある。
「お母様苦しい」
「え!? ごめんなさいクリスティーン。その落とすと悪いからしっかり抱きしめていたのよ」
やってしまった。苦しめるつもりなんて微塵もありませんでしたが、彼女のことを考えていたら、いつの間にか抱きしめる力が強まっていた。
「もう平気だよ! お母様ってば心配症だなぁ」
私の腕の中で朗らかに笑う彼女を見て、私も安堵する。この様子なら大丈夫でしょう。次はあんな風に抱きしめない様にしなければいけませんね。
「別に心配性だなんてことはないわ。貴女、少しお転婆だから」
「えー! そんなことないよ!」
「…………そうね」
そうかしら? 仮にも一国の姫であるにも関わらず、五歳で魔法を自在に操り、騎士団の訓練を楽しんで見学しに行って、そこら中走り回るのは十分お転婆だと思いますし、一度ジェラールと真剣にアレは誰に似たのかとお互いの幼少時代の話をし始めましたが、クリスティーンのような行動力は、夫婦互いに持ち合わせていませんでした。
ジルの部屋にたどり着くと、数名のメイド達に囲まれたゆりかごに私たちはゆっくりと向かいます。
「王妃様、姫様。ジルベール王子は今眠っていらっしゃいマシて」
「きゃっきゃ!」
一人のメイドが私達に気付いてジルの様子を報告している最中に、眠っていたはずのジルの笑い声が響く。どうやら起こしてしまったようですね。
私はクリスティーンを抱きかかえたまま、ジルのゆりかごの前に向かうと、私達に気付いたジルが大喜びで手足をバタバタと動かし始めた。
ジルの瞳は私と同じ深紅の瞳。深紅の瞳には意味がある。私は紺碧の瞳の娘を一度見てからもう一度ジルの瞳を見つめた。
「ジルはお母様と同じ紅い瞳ですね」
「ええ…………そうね」
本当なら喜ばしいことなのでしょう。それでも私は、その深紅の瞳を素直に喜ぶことはできませんでした。産まれてきて数か月のこの子には、自分の瞳の色も、意味もわからない。
いいえ、きっと無意識に自覚している。私の…………私たちの瞳は、今日も見えすぎる。それが他人と違うと気付くのは五歳か十歳か、その先か。
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