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185話 実家に帰らせて頂きます
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狼車に乗る為、私三人はウィルフリードの預けられている倉庫に向かいます。
しかし、そこには数名の兵士が監視している状況でした。私達は三人で顔を見合わせて話し合います。
「ひとまずウィルフリードと遊ぶために来たということにしておきましょう」
「だったら私達は、クリスティーンの従者のフリをして後ろを歩きます。いいよねスザンヌ」
「そうですね。今はあくまで城から脱出すると言うことを悟られてはいけません。であれば私と姉さんの言動に違和感は不要」
「貴女はちっとも変っていないわよ」
私がそういうと、スザンヌは「そうですか。まあ、私の素は元々こうだったということですね」と返事をしました。そんなスザンヌを見てセシルがほっぺを左右に引っ張ります。
「おら笑え妹!」
「貴女は変わりすぎではなくて!?」
私が驚いているにも関わらず、ケラケラ笑うセシル。本来のセシルがこんな感じだったなんて微塵も思いませんでした。
姉のセシルがこんな感じですから、もしかしたらスザンヌも王宮で育てられなければ、もっと伸び伸びとした性格をしていたのかしら。
私がスザンヌの方をじっと見つめていると、何かを察したスザンヌが私に向かって言葉を発します。
「何を考えているか知りませんが、私にもちゃんと自我はあります。さあ行きましょうか。私達の故郷に」
スザンヌに言われ私達は今まで通りに私を先頭に、一歩下がったところでセシルとスザンヌが並んで歩きながら、ウィルフリードのいる倉庫に向かって歩いていきます。
何人かいた兵士のほとんどが私達をスルー。あくまで魔狼のいる倉庫だから警備が多いと言うことでしょうか。
しかし、倉庫の手前にいた兵士が私に声をかける。
「クリスティーン様。何用で御座いましょうか?」
低く野太い声の男性。どうやら彼がここの隊長なのでしょう。他の兵士と違い、魔力の質が違う。
「自分のペットと遊びに来ただけよ。通してくださりますか?」
私はあくまでこの城にいる時の外面の自分で兵士に声をかける。ここでウィルフリードに乗せて貰い、狼車に乗って脱出…………いえ、これだけ兵がいるなら狼車になんて乗っていられないわ。直接背中に乗って脱出しましょうか。
考えなんてない。強行突破一択。そんな風に考えていたら、倉庫の入り口にいた兵士が難しい表情をしました。
「いえね? 申し訳ありませんが数日間は魔獣の前にお通しすることができないのですよ。なんでも皇子直々に命令されてしまいまして、どうかお引き取り願います」
「それはいつからかしら」
「十日ほど前ですね」
つまり、十日前にはもう戦いが始まっていたと言うことでしょうか。
これは決定的だわ。私は間違いなくアリゼとの戦いを知らせないためにログルアット城に閉じ込められているんだ。
「どうしてもかまってあげたいのよ? 内緒にしてくれないかしら?」
「それは難しいですよ。皇子は人の嘘を見抜きます。クビが飛ぶのは御免です」
ダメか。こうなればここから強行突破で行くしかないわね。どうせ遅かれ早かれバレるのですから、いっそ大胆不敵に行きましょう。
「セシル、スザンヌ。行くわよ」
「では私がやりましょう」
私が仕掛けようと魔法を行使しようとする前に私の前に既にセシルが構えている。
腰を低く、両端を広げ、右腕を引いた。兵士も瞬きしている間に移動したとしか思えない速度で目の前に現れた茶髪のメイドに異様な空気を感じ身構える。
「どういうつもりですかクリスティーン様!」
「ちょっと実家に帰らせて頂きます」
私がにっこりと笑うと同時に、セシルがその拳を兵士の胸当て目掛けて突き出した。
目の前で起きたことを理解する前に兵士が突き飛ばされる。守護魔法を詠唱する余裕なんて与えない。
セシルもまた、スザンヌ同様に無詠唱で魔法を扱える高位の魔術師でした。
「クリスティーン! 加速!」
「時空魔法、加速」
セシルの指示に瞬時に応える。私達は一目散にウィルフリードの目の前にたどり着くと、セシルが一瞬でウィルフリードの拘束を解除します。自由になったウィルフリードが私に甘えてこようとしましたが、私はウィルフリードに叫ぶ。
「今すぐ王国に帰るわ! 連れてって!」
「ガウ!」
ウィルフリードは人語も理解できる魔狼。瞬時に私の意図を読み、背中に私達三人を乗せます。
もしオリバーに私を守る意思があったとしても、どうしてアリゼの襲撃のタイミングを読めたのか。それだけがどうしてもわからない。
偶然の可能性も捨てきれませんが、タイミングが良すぎます。まるで私がいなくなるタイミングでアリゼが襲撃をしたとしか思えない。
いえ、間違いなくそうだ。アリゼは私を邪魔だと思っているんだ。だってよく考えたらおかしいじゃない。
私がおかしいと思える連中。指名手配犯のロマンとイザベル。あの二人はいくら戦争がしたいにしろ奪いたいにしろ私に固執しすぎだ。
そもそも魔法遠征の時からおかしかった。だってあれはCクラス担任が元から学園に送り込まれていたとしても、魔法遠征という行事は今年から。
あの教師はいつの為に魔法学園に潜入していたというのでしょうか。
何者かが私を王国から追い出そうとしていたことに、オリバーは気付いたんだ。
気付いた上で万全の準備をして自分たちのタイミングで私を王国の外に出した。
そしたら…………いえ、まだ本当にアリゼが襲撃に来たとは限らないわ。
私達がログルアット城の城門にまでたどり着くと、多くの兵士たちが左右から現れて取り囲みます。
「クリスティーン様! どうかお下がりください」
「引けないわ。この目で真実を確かめるまで」
だが、この状況はマズイ。これだけの数の兵士。私達三人と一匹でどうにかできるのでしょうか。
そんな時でした。突然上空から聞こえる可愛らしい女の子の声。
「下がってください! 火傷しますからね!! 波動魔法、光線剣!!!」
上空から眩い光が薙ぎ払われ、周囲にいた兵士たちが凄まじい光で視界を奪われ、大地を焦がす熱量に襲われ始めます。
しかし、そこには数名の兵士が監視している状況でした。私達は三人で顔を見合わせて話し合います。
「ひとまずウィルフリードと遊ぶために来たということにしておきましょう」
「だったら私達は、クリスティーンの従者のフリをして後ろを歩きます。いいよねスザンヌ」
「そうですね。今はあくまで城から脱出すると言うことを悟られてはいけません。であれば私と姉さんの言動に違和感は不要」
「貴女はちっとも変っていないわよ」
私がそういうと、スザンヌは「そうですか。まあ、私の素は元々こうだったということですね」と返事をしました。そんなスザンヌを見てセシルがほっぺを左右に引っ張ります。
「おら笑え妹!」
「貴女は変わりすぎではなくて!?」
私が驚いているにも関わらず、ケラケラ笑うセシル。本来のセシルがこんな感じだったなんて微塵も思いませんでした。
姉のセシルがこんな感じですから、もしかしたらスザンヌも王宮で育てられなければ、もっと伸び伸びとした性格をしていたのかしら。
私がスザンヌの方をじっと見つめていると、何かを察したスザンヌが私に向かって言葉を発します。
「何を考えているか知りませんが、私にもちゃんと自我はあります。さあ行きましょうか。私達の故郷に」
スザンヌに言われ私達は今まで通りに私を先頭に、一歩下がったところでセシルとスザンヌが並んで歩きながら、ウィルフリードのいる倉庫に向かって歩いていきます。
何人かいた兵士のほとんどが私達をスルー。あくまで魔狼のいる倉庫だから警備が多いと言うことでしょうか。
しかし、倉庫の手前にいた兵士が私に声をかける。
「クリスティーン様。何用で御座いましょうか?」
低く野太い声の男性。どうやら彼がここの隊長なのでしょう。他の兵士と違い、魔力の質が違う。
「自分のペットと遊びに来ただけよ。通してくださりますか?」
私はあくまでこの城にいる時の外面の自分で兵士に声をかける。ここでウィルフリードに乗せて貰い、狼車に乗って脱出…………いえ、これだけ兵がいるなら狼車になんて乗っていられないわ。直接背中に乗って脱出しましょうか。
考えなんてない。強行突破一択。そんな風に考えていたら、倉庫の入り口にいた兵士が難しい表情をしました。
「いえね? 申し訳ありませんが数日間は魔獣の前にお通しすることができないのですよ。なんでも皇子直々に命令されてしまいまして、どうかお引き取り願います」
「それはいつからかしら」
「十日ほど前ですね」
つまり、十日前にはもう戦いが始まっていたと言うことでしょうか。
これは決定的だわ。私は間違いなくアリゼとの戦いを知らせないためにログルアット城に閉じ込められているんだ。
「どうしてもかまってあげたいのよ? 内緒にしてくれないかしら?」
「それは難しいですよ。皇子は人の嘘を見抜きます。クビが飛ぶのは御免です」
ダメか。こうなればここから強行突破で行くしかないわね。どうせ遅かれ早かれバレるのですから、いっそ大胆不敵に行きましょう。
「セシル、スザンヌ。行くわよ」
「では私がやりましょう」
私が仕掛けようと魔法を行使しようとする前に私の前に既にセシルが構えている。
腰を低く、両端を広げ、右腕を引いた。兵士も瞬きしている間に移動したとしか思えない速度で目の前に現れた茶髪のメイドに異様な空気を感じ身構える。
「どういうつもりですかクリスティーン様!」
「ちょっと実家に帰らせて頂きます」
私がにっこりと笑うと同時に、セシルがその拳を兵士の胸当て目掛けて突き出した。
目の前で起きたことを理解する前に兵士が突き飛ばされる。守護魔法を詠唱する余裕なんて与えない。
セシルもまた、スザンヌ同様に無詠唱で魔法を扱える高位の魔術師でした。
「クリスティーン! 加速!」
「時空魔法、加速」
セシルの指示に瞬時に応える。私達は一目散にウィルフリードの目の前にたどり着くと、セシルが一瞬でウィルフリードの拘束を解除します。自由になったウィルフリードが私に甘えてこようとしましたが、私はウィルフリードに叫ぶ。
「今すぐ王国に帰るわ! 連れてって!」
「ガウ!」
ウィルフリードは人語も理解できる魔狼。瞬時に私の意図を読み、背中に私達三人を乗せます。
もしオリバーに私を守る意思があったとしても、どうしてアリゼの襲撃のタイミングを読めたのか。それだけがどうしてもわからない。
偶然の可能性も捨てきれませんが、タイミングが良すぎます。まるで私がいなくなるタイミングでアリゼが襲撃をしたとしか思えない。
いえ、間違いなくそうだ。アリゼは私を邪魔だと思っているんだ。だってよく考えたらおかしいじゃない。
私がおかしいと思える連中。指名手配犯のロマンとイザベル。あの二人はいくら戦争がしたいにしろ奪いたいにしろ私に固執しすぎだ。
そもそも魔法遠征の時からおかしかった。だってあれはCクラス担任が元から学園に送り込まれていたとしても、魔法遠征という行事は今年から。
あの教師はいつの為に魔法学園に潜入していたというのでしょうか。
何者かが私を王国から追い出そうとしていたことに、オリバーは気付いたんだ。
気付いた上で万全の準備をして自分たちのタイミングで私を王国の外に出した。
そしたら…………いえ、まだ本当にアリゼが襲撃に来たとは限らないわ。
私達がログルアット城の城門にまでたどり着くと、多くの兵士たちが左右から現れて取り囲みます。
「クリスティーン様! どうかお下がりください」
「引けないわ。この目で真実を確かめるまで」
だが、この状況はマズイ。これだけの数の兵士。私達三人と一匹でどうにかできるのでしょうか。
そんな時でした。突然上空から聞こえる可愛らしい女の子の声。
「下がってください! 火傷しますからね!! 波動魔法、光線剣!!!」
上空から眩い光が薙ぎ払われ、周囲にいた兵士たちが凄まじい光で視界を奪われ、大地を焦がす熱量に襲われ始めます。
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