BAD END STORY ~父はメインヒーローで母は悪役令嬢。そしてヒロインは最悪の魔女!?~

大鳳葵生

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219話 誰かの意志

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「誰だったかしら?」

 突然、目の前に現れた私とジャンヌ。しかし、その姿はもう六年の時を過ぎた姿であり、数日前に戦った人間と同一人物と理解するのは難しかったのだろう。

 しかし、アリゼはじーっと私の顔を見てにやりと笑った。

「あの人と同じ眼に、あの女の面影…………確か時空魔法が使えたわね。禁術を使用したのかしら?」

 どうやらアリゼは私がクリスティーンと同一人物であると理解したらしい。これでもかなり姿が変わったつもりでしたが、この紺碧の瞳にエリザベート似の顔ですぐにばれてしまうようですね。

「だとしたらどうなのかしら?」

「別に……禁術なら私も使ったわ。でも自ら老いるような真似はしなかったけどね!!」

 その結果あの正体不明の魔法を使い始めたというのね。アリゼは波動魔法でもそのほかの属性でもない不思議な魔法ばかりを使用する。彼女の魔法の解明できなくして彼女を突破するのは難しいでしょう。

 確かに私は六歳も老いた。それでも肉体年齢はまだまだ二十歳。気にする年齢ではないわ。

「一応教えて。貴女が復讐したいのは……お父様? それともお母様? それだけのためにこんなにも犠牲を出して…………貴女は何をしようと思っているの?」

 私の問いはそう難しくない。問題は彼女がそれを答えてくれるかどうか。それだけだと思っていた。ただそれだけ。しかし、彼女は何かを口にしようとしたところで彼女から黒い靄がぶわっと浮かび上がり、声を出すことを阻む。

 数秒してそれが落ち着き、彼女はにたりと笑ってこう言った。

「覚えていないわ。でも、すべてを潰す」

「覚えていない? でも貴女はさっき私をあの二人の面影に重ねて……忘れているはずないでしょう?」

「…………忘れたのよ。たった今。さっきまでは覚えていた気がするわ。きっと私がそれを覚えていたら都合が悪かったのだと思うわ」

「都合が悪い? 何よそれ…………だったら! 忘れたのなら!! もう復讐はやめましょう?」

 私が必死になって彼女を止めようとしても、彼女はうーんと悩んだあと、黒い靄が彼女の右腕にまとわりつき、彼女の右手は人差し指を私に向ける。それからしばらくしないうちに指先に多大な魔力が集中し始めた。

 まずい!?

 あれは間違いなく、アリゼの意志に反した魔法。その魔法は何かを貫く射撃となる。そう予測した私は、とっさに魔法を発動しようとしましたが、間に合いそうにありせんでした。

「波動魔法、光線剣レーザーブレード

 高出力の光の剣がアリゼのするどい射撃を阻む。ジャンヌの魔法はいたって単純。すべてが光の速度で操れる。そして彼女もこの六年で詠唱速度からコントロールまでどんどん精度を上げていったわ。

「助かったわジャンヌ」

「光の波動魔法…………彼女も禁術を使ったのね」

「その攻撃が私への答えってことでいいかしら?」

「そうね、そうだと思うわ」

 アリゼはまるで自分の意志ではないかのように話す。こないだあった時はもう少しくるっていたというのに、今日はやけに落ち着いているかのように見える。しかし、姿形は同じ。こないだの戦いの記憶もある。彼女がアリゼであるという証拠には十分だ。

「教えてあげるわ。ワンダーオーブの力」

 アリゼは服の下から赤い宝珠のついたネックレスを取り出した。あれは間違いなく【赤】のワンダーオーブ。そして今理解した。彼女は前回、ワンダーオーブの力を使っていなかったんだ。

 【赤】のワンダーオーブが深紅に輝くとき。強力なエネルギーが彼女の元に集まっていった。

「七つのワンダーオーブにはそれぞれ異なる力があるのはもう知っているわよね。【紫】は感知の力。【藍】は治癒の力。【青】は放出の力。【緑】は貯蔵の力。【黄】は保護の力。【橙】は集中の力。文献によって言葉は変わりますが、赤だけは特別」

 彼女がそれぞれ七つのワンダーオーブのうち、私が所持しているワンダーオーブの効力を口にした。確かに言われた通りの力に近い効果を持っている。だからこそわからない。【赤】のワンダーオーブにどのような力があるのかもう見当がつかない。

 しかし、私が思うに【赤】のワンダーオーブの力は、たいして重要ではない。なぜならば、黒い靄が一切邪魔してこようとしないからだ。

「【赤】の力は…………精神の力。持つ者の意志を過剰にしてしまう。そしてその持つ者に魔力を分け与えられた人間も同じ症状にしてしまう。心当たりはなかったかしら? 光の波動魔法使いさん?」

 ……ジャンヌ? ああ、そうか。馬上槍大会の時。ジャンヌがおかしかったのは、ワンダーオーブのことやアリゼのことをミユキ・ナカガキという人物から教えられていたからだ。

 そして…………ミユキ・ナカガキとアリゼは協力者。だとすれば、あの時ジャンヌが異常なまでに私を戦わせないことにこだわっていたのは、アリゼの魔力にあてられていたからなんだ。

「アリゼ…………貴女。戦わされているのね」

「…………どうかしら? そうじゃないと思いたいわ」

 私とアリゼは互いに利き手を相手に向けあった。そしてその言葉を紡ぐ。

「「波動魔法、波動ウェーブ」」

 私とアリゼ。互いの基本波動魔法がぶつかり合い、その威力は拮抗していた。基本魔法であるにも関わらず空気や大地は震え張り裂ける。あまりの轟音に兵士達が集まってきてしまった。

「何者だ!!!」「侵入者だ! 捕らえろ!!!」

 兵士たちはアリゼたちはおろか私達にまで向かってきてしまった。しかし、それも仕方ない。今の私は旅人の格好をした一人の女性。王女と似た容姿とはいえ、背格好が違いすぎる。

「ジャンヌ、わかっていると思うけど、呼び方は注意してよね」

「はい、…………クリス」

 さすがに王宮内で姫様と呼ばれるのはまずい。私たちは短い旅の間。私の名前を人前ではクリスと呼ぶようにとジャンヌにお願いしていた。

 王宮の兵士たちは次に次にアリゼに吹き飛ばされていく。これ以上はいけない。いくらこちらも捕らえられる側の人間と言っても、国の兵士。

「守護魔法、結界バリア

 私の結界に守られて兵士たちが私たちの方に視線を向ける。

「あなた方は一体…………」

「気にしている暇はないわ。それよりもあそこにいる魔女。あいつがこないだの戦争の黒幕よ」

「なんと!?」

 兵士たちが驚いている中、奥から聞きなれた男の声がした。

「その言葉は本当だろうな…………」

 私が振り返ると、そこには紺碧の瞳に綺麗な金髪の背の高い男。何度も見た顔。ブラン王国国王陛下ジェラールがそこにいた。

「…………紺碧の瞳の男?」

 彼を見てまた、アリゼも反応してしまった。しかし、本当に忘れてしまったのかジェラールの名前は出てこない。
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