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序
第四話 呼び出し
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「──で、俺に何を聞きたいっていうんです、刑事さん」
錆殻光臣は、警察署の取り調べしつ──ではなく、警察署からほど近い場所にある小さな喫茶店にいた。全面禁煙のチェーン店の一角。長い足を投げ出して椅子に腰掛け、横柄な態度で尋ねる光臣を刑事・小燕向葵がうんざりとした様子で見下ろす。銀縁の丸眼鏡をかけた私服刑事とは、昨日今日の仲ではない。
「コーヒーでいいですね?」
「別に何でも。……ああ、ブラックで」
「なんでも良くないじゃないか」
「煙草も吸えない。こんな店に長居したくない」
「それに関しては、自分も同感です」
プラスチック製のトレーの上にブレンドコーヒーが入ったコーヒーカップをふたつ乗せた格好のまま、小燕は溜め息を吐く。
「さっさとその……パソコンを片付けてください、錆殻光臣さん」
「こう見えて忙しくてね」
「テレビに映画にドラマにYouTubeか。手広くやっていらっしゃる」
「そこまでご存知なら俺の拘束時間が安くないってこともご承知の上ですよね? 急に呼び出してきて、何の用事です?」
ノートパソコンを鞄に仕舞い、トレーを受け取る錆殻光臣の後頭部を見詰めながら、小燕向葵は言った。
「政岡涼子が首を吊り、秋元慎也が浴室で腹を掻っ捌いて死にました」
「……聞いたような名前だな」
「あんた。お祓いをきちんとやらなかったのか?」
座席の腰掛けるなり詰め寄ってくる小燕を片手で制しながら、
「お祓い? ……ああ、ああ、そういえばそんな依頼も……」
「忘れてた。あんたはお祓いができないんだったな。代わりに、本物である甥っ子が──」
「ちょっと黙ってくれ刑事さん。俺が本物だとか、偽物だとか、そういう話はこういう公共の場でされちゃあ困る。商売に差し障りが出る」
と、光臣はブレンドコーヒーを口に含み、
「しかしたしかに、依頼は受けた。甥ではなく、菅原にやらせた」
「菅原? ……ああ、秘書の方か」
「化け物の方だ」
「化け物ね」
うんざりと嘆息する小燕が、丸テーブルの下に放り出していた鞄から白い封筒を取り出す。
「見ろ。検死結果だ。写真もある」
「見たくない。グロテスクなのは苦手なんだ」
「どの口が……とにかく確認しろ。異常だぞ」
「異常? 刑事のあんたが一介のタレントでしかない俺に検死結果を押し付けようとしている今のこの状況よりも異常だっていうのか?」
「口ばっかり達者だな!」
苛立ったように犬歯を剥き出しにした小燕が、封筒を引きちぎるようにして開け、中に入っていた書類と写真を光臣の前に突き付けた。
「見ろ!」
「だから、嫌だって……ああ?」
年齢に合わせて染め上げたシルバーグレーの髪を後ろに撫で付け、オーバル型の眼鏡を身に付けた光臣はいかにも嫌そうに顔を歪め──
「誰だよ、こいつら」
「政岡涼子と秋元慎也だ。言っただろう」
「違う」
映像映えのする整った顔に虚を突かれたような表情を浮かべ、光臣は呟いた。
「俺のところに来た政岡涼子と秋元慎也とは、顔が違う」
「……じゃあ、こいつらはいったい誰なんだ」
「それを調べるのが警察官のお仕事なんじゃねえのかよ?」
煙草が吸いたい、と言い捨てて席を立つ光臣を、「自分の飲んだものぐらい片付けてから行け」と唸りながら小燕が追いかける。
店の外では、気の早い桜の花が散り始めている。
錆殻光臣は、警察署の取り調べしつ──ではなく、警察署からほど近い場所にある小さな喫茶店にいた。全面禁煙のチェーン店の一角。長い足を投げ出して椅子に腰掛け、横柄な態度で尋ねる光臣を刑事・小燕向葵がうんざりとした様子で見下ろす。銀縁の丸眼鏡をかけた私服刑事とは、昨日今日の仲ではない。
「コーヒーでいいですね?」
「別に何でも。……ああ、ブラックで」
「なんでも良くないじゃないか」
「煙草も吸えない。こんな店に長居したくない」
「それに関しては、自分も同感です」
プラスチック製のトレーの上にブレンドコーヒーが入ったコーヒーカップをふたつ乗せた格好のまま、小燕は溜め息を吐く。
「さっさとその……パソコンを片付けてください、錆殻光臣さん」
「こう見えて忙しくてね」
「テレビに映画にドラマにYouTubeか。手広くやっていらっしゃる」
「そこまでご存知なら俺の拘束時間が安くないってこともご承知の上ですよね? 急に呼び出してきて、何の用事です?」
ノートパソコンを鞄に仕舞い、トレーを受け取る錆殻光臣の後頭部を見詰めながら、小燕向葵は言った。
「政岡涼子が首を吊り、秋元慎也が浴室で腹を掻っ捌いて死にました」
「……聞いたような名前だな」
「あんた。お祓いをきちんとやらなかったのか?」
座席の腰掛けるなり詰め寄ってくる小燕を片手で制しながら、
「お祓い? ……ああ、ああ、そういえばそんな依頼も……」
「忘れてた。あんたはお祓いができないんだったな。代わりに、本物である甥っ子が──」
「ちょっと黙ってくれ刑事さん。俺が本物だとか、偽物だとか、そういう話はこういう公共の場でされちゃあ困る。商売に差し障りが出る」
と、光臣はブレンドコーヒーを口に含み、
「しかしたしかに、依頼は受けた。甥ではなく、菅原にやらせた」
「菅原? ……ああ、秘書の方か」
「化け物の方だ」
「化け物ね」
うんざりと嘆息する小燕が、丸テーブルの下に放り出していた鞄から白い封筒を取り出す。
「見ろ。検死結果だ。写真もある」
「見たくない。グロテスクなのは苦手なんだ」
「どの口が……とにかく確認しろ。異常だぞ」
「異常? 刑事のあんたが一介のタレントでしかない俺に検死結果を押し付けようとしている今のこの状況よりも異常だっていうのか?」
「口ばっかり達者だな!」
苛立ったように犬歯を剥き出しにした小燕が、封筒を引きちぎるようにして開け、中に入っていた書類と写真を光臣の前に突き付けた。
「見ろ!」
「だから、嫌だって……ああ?」
年齢に合わせて染め上げたシルバーグレーの髪を後ろに撫で付け、オーバル型の眼鏡を身に付けた光臣はいかにも嫌そうに顔を歪め──
「誰だよ、こいつら」
「政岡涼子と秋元慎也だ。言っただろう」
「違う」
映像映えのする整った顔に虚を突かれたような表情を浮かべ、光臣は呟いた。
「俺のところに来た政岡涼子と秋元慎也とは、顔が違う」
「……じゃあ、こいつらはいったい誰なんだ」
「それを調べるのが警察官のお仕事なんじゃねえのかよ?」
煙草が吸いたい、と言い捨てて席を立つ光臣を、「自分の飲んだものぐらい片付けてから行け」と唸りながら小燕が追いかける。
店の外では、気の早い桜の花が散り始めている。
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