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第四章 視据える。
第四話 三日間
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緊急搬送からの一泊の入院を経て、すぐに幾つもの仕事を片付けたのは蛍神社の跡地に向かうためだった。一週間──は不可能だとしても、数日の休暇が必要だった。
「戻られるんですか? その……先生の、弟さんが亡くなった、場所に」
「別に戻るわけじゃない。行くんだ」
マネージャーの長田は全方位に向かって有能な女性である。光臣の望み通り山本一家から情報を得てきた上、『錆殻光臣には三日間の休養が必要』という医者の診断書を各取引先にばら撒いてくれた。
「自分で診断書をもらってきておいてこんなことを言うのもどうかと思うんですが、三日間……少なすぎませんか?」
「俺は三日以上あんな場所にいたくない。すぐ戻る。──そうだろ、刑事さん」
「ああ」
応じたのは、小燕向葵だ。蛍神社の跡地と干上がった蛍川には彼とふたりで向かうことになる。
「小燕さん……あなたも、私なんかこんなことを言われたくないと思いますが」
「ご安心を。私も休暇に入ったんです。ちょうど三日」
眉根を寄せた長田の問い掛けに、小燕はさらりと応じる。彼は嘘を吐いていない。曰く付きのマンションで発生したアベックの自殺事件を解決するために設置された捜査本部は解散した。所轄の警察官たちも、小燕のような警視庁から派遣された刑事たちも、皆それぞれの持ち場に戻った。捜査本部に詰めっぱなしだった小燕は、実際、上司から休暇を取るように命じられたのだという。そこで。
「それで……休暇を返上して先生と一緒に蛍神社に行っていたら、何の意味もないんじゃないですか」
「気にするな長田。この刑事さんが持ち込んだ案件だ。解決を見届けたいと思っても別に、おかしな話じゃないだろう?」
「解決……」
できるんですか、と長田の顔に大きく書かれているのが分かる。付き合いが長い長田のこういった態度に、いちいち腹を立てるほど暇ではない。光臣が本物ではないということを、長田は良く知っている。
「解決は──さあ、どうだろうな」
「菅原さんは同伴されるんですか?」
「いや。奴には甥の面倒を見るという大仕事があるからな」
「甥御さんは……」
「長期休暇でもないのにあんなところに連れて行けない」
そうでなくとも──光臣としては、甥と、そして菅原をあの土地に近付ける気がなかった。
禁足地。忌み地。光臣の弟が命を落とした土地。
「長田さん。錆殻さんに関しては……人間からは、私が守ります」
「刑事さん」
「怪異に関しては……」
「ああもう、時間がないぞ刑事さん。長田、俺の留守中に甥に何かあったら頼む」
「う……」
自家用車の運転席の窓を開けて声を張り上げる光臣に、長田が困り果てた顔を向ける。
「狐の方々にお繋ぎすれば良いんですよね……?」
「ああ。名刺があるよな? 例の弁護士だ。狐が断るならそうだな、中華街の季節の名前にでも繋いでくれ」
「わ、分かりました。先生、どうか」
ご無事で、という長田の言葉を最後まで聞かず、アクセルを踏み込んだ。いいのか、と隣の席でシートベルトを締めながら小燕向葵が尋ねる。ハンドルを握る光臣は「いいんだ」と即答する。
「長田は有能な女だ。俺がいなくなった場合の対処方法を、十や二十は頭の中に置いている」
「いなくなった場合、か。物騒だな」
「物騒かね? 俺みたいな商売の人間はいつ姿を消してもおかしくない。本物でも偽物でも、条件は同じだ」
黙って煙草を取り出す小燕を横目で見、「さて行くか」と光臣は殊更明るい声を上げる。
「俺たちが生まれて、そして滅びた土地に」
「戻られるんですか? その……先生の、弟さんが亡くなった、場所に」
「別に戻るわけじゃない。行くんだ」
マネージャーの長田は全方位に向かって有能な女性である。光臣の望み通り山本一家から情報を得てきた上、『錆殻光臣には三日間の休養が必要』という医者の診断書を各取引先にばら撒いてくれた。
「自分で診断書をもらってきておいてこんなことを言うのもどうかと思うんですが、三日間……少なすぎませんか?」
「俺は三日以上あんな場所にいたくない。すぐ戻る。──そうだろ、刑事さん」
「ああ」
応じたのは、小燕向葵だ。蛍神社の跡地と干上がった蛍川には彼とふたりで向かうことになる。
「小燕さん……あなたも、私なんかこんなことを言われたくないと思いますが」
「ご安心を。私も休暇に入ったんです。ちょうど三日」
眉根を寄せた長田の問い掛けに、小燕はさらりと応じる。彼は嘘を吐いていない。曰く付きのマンションで発生したアベックの自殺事件を解決するために設置された捜査本部は解散した。所轄の警察官たちも、小燕のような警視庁から派遣された刑事たちも、皆それぞれの持ち場に戻った。捜査本部に詰めっぱなしだった小燕は、実際、上司から休暇を取るように命じられたのだという。そこで。
「それで……休暇を返上して先生と一緒に蛍神社に行っていたら、何の意味もないんじゃないですか」
「気にするな長田。この刑事さんが持ち込んだ案件だ。解決を見届けたいと思っても別に、おかしな話じゃないだろう?」
「解決……」
できるんですか、と長田の顔に大きく書かれているのが分かる。付き合いが長い長田のこういった態度に、いちいち腹を立てるほど暇ではない。光臣が本物ではないということを、長田は良く知っている。
「解決は──さあ、どうだろうな」
「菅原さんは同伴されるんですか?」
「いや。奴には甥の面倒を見るという大仕事があるからな」
「甥御さんは……」
「長期休暇でもないのにあんなところに連れて行けない」
そうでなくとも──光臣としては、甥と、そして菅原をあの土地に近付ける気がなかった。
禁足地。忌み地。光臣の弟が命を落とした土地。
「長田さん。錆殻さんに関しては……人間からは、私が守ります」
「刑事さん」
「怪異に関しては……」
「ああもう、時間がないぞ刑事さん。長田、俺の留守中に甥に何かあったら頼む」
「う……」
自家用車の運転席の窓を開けて声を張り上げる光臣に、長田が困り果てた顔を向ける。
「狐の方々にお繋ぎすれば良いんですよね……?」
「ああ。名刺があるよな? 例の弁護士だ。狐が断るならそうだな、中華街の季節の名前にでも繋いでくれ」
「わ、分かりました。先生、どうか」
ご無事で、という長田の言葉を最後まで聞かず、アクセルを踏み込んだ。いいのか、と隣の席でシートベルトを締めながら小燕向葵が尋ねる。ハンドルを握る光臣は「いいんだ」と即答する。
「長田は有能な女だ。俺がいなくなった場合の対処方法を、十や二十は頭の中に置いている」
「いなくなった場合、か。物騒だな」
「物騒かね? 俺みたいな商売の人間はいつ姿を消してもおかしくない。本物でも偽物でも、条件は同じだ」
黙って煙草を取り出す小燕を横目で見、「さて行くか」と光臣は殊更明るい声を上げる。
「俺たちが生まれて、そして滅びた土地に」
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