勇者の子孫だがもうツラい。最強の血飛沫魔法と共に不マジメンに生きてやる。

満部凸張(まんぶ凸ぱ)(谷瓜丸

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メンズレンズ

このバカみたいな世界でフマジメを

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 魔王軍が一掃された剣と魔法の大陸。
大陸は平穏に包まれ、つかの間の平穏な日々を楽しく暮らしていた大陸の住人達であったが……。
その裏では刻一刻と【聖マジメ帝都学園】による人類規律計画が進められていた。

「この村は我ら1年C組の支配下にある。黙って人類規律計画に従うのだ」(メンズレンズ)

【人類規律計画】は規則に縛られた支配による独裁の統治である。
ありとあらゆる娯楽・休養を排除し、聖マジメ帝都学園のもと管理・支配されるのだ。

「読みかけの漫画がーー」
「川辺に落ちてた写真集がーー」
「昨日買ったグッズがーー」

村人たちの訴えも生徒たちには届かない。
生徒たちは村人の家の中にまで入っていき、娯楽を没収。
そしてキャンプファイアの中に娯楽品を投げ入れるのだ。
村人たちの目の前でそれぞれの私物が燃やされていく。
その光景を目の当たりにして涙する村人たち。
村人たちの悲しそうな表情を嬉しそうに見る生徒たち。

「見ろよあの村人どもの顔。ウシッシシシ」
「人の不幸はうまいな~ウケケケケ」
「なぁ、今週の1ダース見た?」
「ああ見た見た。あの展開は神だよな?」

このままでは、この村は完全に聖マジメ帝都学園の植民地にされてしまう。
だが、村人たちには聖マジメ帝都学園を相手に闘う力もない。
強大な聖マジメ帝都学園と対立するのは命を無駄にする行為であるからだ。
しかし、村人たちの中にいた1人の少年が立ち上がった。



 悲しみにくれる村人たちの中から1人の少年が立ち上がり声をあげる。

「もう我慢できない。みんな、なんで黙ってやられているままなんだよ!!」

「……!?(全員)」

「娯楽を楽しむ自由を奪われてるんだ!!
僕らの自由を奪われてるんだぞ!!」

しかし、誰も少年の意見に賛同する者はいなかった。
数では村人たちの方が多い。けれど、聖マジメ帝都学園には関わりたくないと彼らは思っているのである。
「(黙れ)」という村人から少年に向けられる敵意。この場に少年のような勇気を持つものはいない。

「なっ!?」

「ハハハハハハ!!
村人たちにも見捨てられてるじゃんか笑。
さてさて、ずいぶんと聖マジメ帝都学園の事をなめているようだね。
私は聖マジメ帝都学園1年C組生徒のメンズレンズだ。貴様は?」(メンズレンズ)

「僕は『エメラル』」

「エメラル……?
ああ、思い出したよ。そんな1年もいたな。
入学して数日で聖マジメ帝都学園から逃げ出した腰抜け野郎か。
噂になってたなぁ。1年A組の腰抜けエメラル」(メンズレンズ)

「逃げ出したんじゃない。あの場所は狂ってる。普通じゃない!!」(エメラル)

「おいおいおい、言っていいことと悪いことの区別くらいつくだろ?
我らが聖マジメ帝都学園を侮辱することは許さんぞ腰抜け」(エメラル)

メンズレンズが片手をあげる。すると周囲にいた生徒たちが一斉にエメラルに飛びかかり、エメラルの両手足を縛ってしまった。

「やめ……離せッ!?」(エメラル)

さらにメンズレンズは両手足を縛られたエメラルの顔を蹴り飛ばす。
そして横たわったエメラルの顔をその足で踏みつけながら彼は宣言した。

「ちょうどいい。いい見せしめだ。
この村人に教えてやろう。“マジメの裁き”の恐ろしさをな」(メンズレンズ)

マジメの裁き。それは選ばれた生徒だけが持つ特殊能力……魔法による刑罰。
かけられた者に苦しみを与えると言われている。
そんな恐ろしい魔法がエメラルに放たれようとしていた……。



 だが、その時。

「すみません。郵便です」(カンガルー)

郵便物を手に持ったカンガルーがメンズレンズ達の目の前に現れたのである。
一瞬のイレギュラーな存在の乱入により、みんなの意識がカンガルーに向けられる。

「なぁ、今大事な所なんだけどさ。誰宛なの?」(生徒A)

「文化財推進連合からメンズレンズ様宛です。お邪魔になるかと思いましたが急用の荷物らしく……」(カンガルー)

「チッ、運が良かったなエメラル。裁きの時間は後だ。
せいぜいつかの間の幸せを味わっているがいいさ。
───すいません。受け取りは印鑑で大丈夫ですか?」(メンズレンズ)

「はい。大丈夫ですよ」(カンガルー)

「あちゃー。印鑑はあるのですが、朱肉を忘れてしまいました。持ってませんかね?」(メンズレンズ)

「それなら心配ありません。全然問題ないですよ」(カンガルー)

「????」(メンズレンズ)

カンガルーは胸のポケットの中に手を入れて何かを探し始める。
朱肉を探しているのだろうか?
メンズレンズはそう思っていたのだが、何か違和感を感じていた。
朱肉にしては引っ張ろうとする力が強すぎるし、それ以上にカンガルーが郵便屋さんなのはおかしいからだ。
そして、その予想は当たることとなる。
カンガルーの胸のポケットから何者かが飛び出してきたからだ。

「朱肉…………それは貴様の血だ!!」

その女性、肩まで伸びきった淡藤色の髪を持ち、白い透き通ったようなお肌と小顔、その瞳は青く輝いている。腰に聖剣のような剣を装備し、甲冑と動きやすそうな白い和服といった洋風な剣に似合わない和風な格好。

「HEY、オモテなししてやるよ!!」

そんな女性がカンガルーのポケットから剣を振り回しながら飛び出してきたのである。



 突然カンガルーのポケットから飛び出してきた女性は嵐のような速業で次々と生徒たちを打ち倒す。

「『血飛沫魔法    舌噛みスラッシュ』!!」

そして、静かになった頃にはメンズレンズ以外に生徒は1人も立っていなかった。

「誰だ貴様は!?」(メンズレンズ)

「名乗るほどの者ではない。貴様らに引導を送る者だ」(???)

「引導だぁ?  残念だが部下を倒してもこの俺を倒せるかな?」(メンズレンズ)

「フッ、血飛沫魔法の恐ろしさをその身で味わうが良い!!
いくぞ!!」(???)

そう言うと???は構えを取る。

「ダァァーーーー」

「メェェーーーー」

「ダァァーーーー」

「メェェーーーー」

「まさか私をその構えは!?
エネルギーを一気に放出させて倒すアレ系のやつか!?
やめろおおおおおお!!!」(メンズレンズ)

思わず恐怖で目を瞑ってしまうメンズレンズ。メンズレンズの脳内には今走馬燈が見えていた。

「メエエエエーーーーーー!!!!」

ポフッ

「あれ……?」(メンズレンズ)

不発なのだろうか。何も起きない。

「おお、おめでとう大凶だったな!!」(???)

「知らねぇよ。いらねぇよ。嬉しくもねぇよ。
なんだよ貴様は!!」(メンズレンズ)




 ???はようやく自分の正体について明かし始めた。

「大陸動物愛護委員会副会長補欠面接官『ブラストン』様よ!!」

「なっ、なんだってーー!?

(そこって私が行きたい第一志望の就職先じゃない。
えっ? 待って。じゃあこの人は面接官だったの?
面接前に就活生の様子を見に来たって言うの。あー、私のバカバカ)」(メンズレンズ)

「ちなみにブラジャーのブラにストンッと落ちる首の意味のブラストンだぜ」(ブラストン)

まさか目の前の女性が面接官だったということを知らなかったメンズレンズは自身のミスを悔やむ。
しかし、ブラストンの答えはメンズレンズの予想と反するものであった。

「…………ブラボー、メンズレンズ君。君は素晴らしいと思うよ」(ブラストン)

「えっ……社長?
それじゃあ私は御社に!?」(メンズレンズ)

「…………メンズレンズ君。私は君のような有能な若者が来るのを待っていたのだ」(ブラストン)

「嬉しい……
(やったわ~。私合格したのね。就職活動に勝利したのね~。これで私も社会人の仲間入りだわ~)」(メンズレンズ)

「メンズレンズ君。ここで言わせてもらうよ。君に後日通知をすることもなく、すぐに言っておきたいのだ……。君の結果をさ。
他社に取られるわけにもいかないからね」(ブラストン)

ブラストンは存在していなかった椅子から立ち上がり、メンズレンズのもとへと歩いていく。
その手には半分に折られた紙。そこにメンズレンズの結果が載っているのである。

「ワクワク、ワクワク」(メンズレンズ)

色々と問題は起こったがブラストンからの評価もバッチリ。ブラストンにも誉められて気に入られた。これでメンズレンズはこの会社で就職を……。

『不合格♥️』

「は…………はァァァァァァ???
おい、ブラストン。いったいどうい  」(メンズレンズ)

「『舌噛みスラッシュ』!!」(ブラストン)

「ギャアアアア!?!?!?」(メンズレンズ)

バタンッ。
ブラストンに斬られて地面に倒れるメンズレンズ。
その横たわったメンズレンズにブラストンは吸い終わったタバコを投げつけて、彼にこう言い放った。

「暴力反対!!」(ブラストン)

こうして、この村での聖マジメ帝都学園の植民地化は1人の女侍によって阻止されたのである。


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面白そうだと思ったり、引いたり、面白そうなんて思っていただけましたら評価などをいただけたらうれしいです。<m(__)m>
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