6 / 164
幼少期
06
しおりを挟むその日もリリーはいつも通りのルーチンを終え、帰ろうとしていた。いつも子供達が数人ずつ交代でお見送りするのだが、その日は私とベラちゃん、私より年下の男の子・カルマだった。
「「「アミエル侯爵家に神の御加護があらんことを…」」」
お決まりのセリフを言って胸の前で手を組む。恒例行事だ。あとはリリーが馬車に乗り込み、見えなくなるまで笑顔で送るだけ。その時。
「あっ!危ない!!」
「!!?きゃああっ!!」
「っお嬢様!」
突然馬車の脇から、薄汚い格好をした男が現れ、リリーに向かってナイフを突き立てようとした。
護衛何やってんの!?反応おっそい!!
私は咄嗟に叫び男にタックルした。素早さばんざい!男は壁に叩きつけられ血を吐いて痙攣した。内臓ヤっちゃったかな?慈悲はない。
「…お嬢様、お怪我は」
そして棒立ちしていた護衛が仕方なさそうにリリーに近寄る。こいつ…
私は立場上アミエル侯爵令嬢に話しかけるのは躊躇われる。でもまあ、護衛ならいいよねえ?
「おじさん!!ごえーなんだからお嬢様をちゃんとまもってよ!!」
ちょっと舌ったらずに言ってみた。ベラちゃん、カルマ、シスター。ドン引きしないでよ、泣くよ?
「なっ…!貴様のようなガキに何が分かる!!」
あーらら。顔真っ赤にしちゃって、情けなー。
仕事にプライド持ってんなら、まずリリーに自分の情けなさを詫びろや!!
お?今更腰の剣抜くんか。お飾りかと思ってたわー。全然怖くないぞ?おおん?
「ああ、騎士様申し訳ございません!ご覧の通り、まだ幼い娘でして…!」
「ならん!私を侮辱するという事は、延いては侯爵家に対する不敬!到底赦されるものではない!!」
おめーは侯爵家の一員じゃねーだろーがー!!…前から思ってたけど私、口悪いな?前世で一体どういう人間だったんだ?
じゃなくて!だったら先にそこで死にかけてるおっさんをどうにかしろや!どっからどう見ても侯爵令嬢に対する殺害未遂で、一族郎党斬首刑でもおかしくねーよ!?
シスターもそれは理解しているだろうが、今はなんとか私を庇おうと必死になっている。ごめんね、シスター。
護衛騎士が私に剣を向けたその時。
「おやめなさい」
リリーが私の前に立った。
「お嬢様!!その娘は侯爵家を侮辱したのですよ!?」
「ならばお前は私を守れなかった責を負うべきね。
この娘が動かなければ、私は今頃その男のようになっていた事でしょう」
「なっ…!」
おうおう騎士様よ。反論できませんよね~え?流石に「私の方が早く動けた!」とは言えんよな~。実際私よりはっるっかっにっ遅かったんですし~?
お嬢様という盾を得た私は調子に乗っていた。だが口には出していないので許してほしい。
「人殺しの分際で…っ!」
騎士は荒々しく剣を納めた。そのまま自分の手を斬ってりゃ面白かったのに。
しかし人殺しねえ…随分な物言いじゃない?シスター達には聞こえないほどの小声だったが、私とリリーにはばっちり聞こえていた。
その証拠に、リリーの顔が強張っている。
その後通報を受けた警備隊がやってきて、男を連行した。既に瀕死だったが、鞭打ち10回の罰を受けた後本当に死んだらしい。
どうやらギャンブルにハマり財産を使い切り、税が払えなくなり泣く泣く娘を娼館に売ったらしい。
そんで嫁は逃げるわ、娘を売った金はそのまんまギャンブルに注ぎ込み結局税を払えずじまい。
最終的にこのクズ親父は完全なる逆恨みで、侯爵家に牙を剥いたらしい。一番の被害者娘さんじゃない??
という情報を近所のおばちゃん達の噂話からゲットしたのだった。いつの時代、どこの世界でも井戸端会議ってあるよねー。
だが気になるのはリリーだ。あの日は結局「礼は改めてする」と言い残し帰っていった。
シスターもみんなも何事もなくてよかった、もう無茶してはだめだよ?と私に言った。そいつは約束できませんね!
しっかしこのまんまじゃリリーは着実に悪役令嬢リリーナラリスへと成長していくわな。
そもそも悪堕ちしたきっかけは、幼い頃に領民に襲われて大怪我をして、傷が一生残ると言われた挙句に家族も誰も心配してくれなくて絶望したから…だし…あら?
あれ?もしかして…あの襲撃事件がそうだったの!?
7
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる