私の可愛い悪役令嬢様

雨野

文字の大きさ
7 / 164
幼少期

07

しおりを挟む


 悪役令嬢リリーナラリス。私が彼女を嫌いになれない理由は侯爵家にある。

 これはトゥルーエンドで語られる事だが…リリーと家族は仲がよろしくない。
 というより、他の家族・使用人が一方的に彼女を嫌悪しているのだ。もう嫌い通り越して無関心。リリーが善い事しようが悪い事しようがどうでもいい。


 その原因はリリーの母にある。

 リリーナラリスの母、レイチェル。故人である。
 彼女は周囲から愛されていた。政略結婚であった夫とも深く愛し合っていたし、我が子達も使用人達も皆夫人が大好きだった。
 美しく聡明、天真爛漫で慈愛に溢れる女性。ゲームの世界とはいえ、こんな完璧超人いるわっきゃねー。いたけど。
 いや、絶対腹黒だとか究極の運動音痴とか、どちゃくそイビキかいてたとかマイナス面はあった筈だ!今となっては知る術もないが。

 
 そしてありきたりだが…彼女は娘のリリーナラリスを産んだ後、産後の肥立ちが悪くて儚くなってしまったのだ。レイチェルを犠牲に生まれた娘。リリーナラリスはそんな理由で嫌われている。


 …うん、リリーに非はまっっったくないね!リリーの父兄兄姉使用人は大好きなレイチェルを殺した(語弊があるぞ)リリーを恨んだ。
 こんな娘のせいでレイチェルは死んだ、死ぬのならリリーナラリスが死ねばよかった!いや、生まれて来なければよかったのに!!

 小さい頃からこんな事言われ続けりゃ病みますわな。しかし健気にもリリーは、家族を愛して自分の事も愛してほしがった。
 使用人も皆リリーには厳しい。最低限の世話、会話のみで誰もリリーに近寄らない。
 普通なら令嬢にそんな態度許されないが、当主が見て見ぬ振りどころが「いいぞもっとやれ」と言わんばかりの言動。リリーの味方は侯爵家にはいなかった。


 そして今リリーは、なんとか家族に自分を見てもらおうと頑張っている段階だろう。その為の慈善活動。「おお、お前はなんて優しい子なんだ」とか言ってもらいたいんだろう。きっとマナーも勉強も頑張ってるんだろうな。
 でも彼女は家族に見てもらいたいだけで、私らに興味はないんだよね。だから寄付だけで終わり。しかし彼女が自由に使える金あんの…?(後に知る事だが、当主は慈善活動自体は貴族としてプラスになるから自由にさせていたらしい。ただし功績は全て自分のモノにしていた)


 そして次の段階。悪い事をして叱ってもらおうとした。好きな子をいじめちゃう男子小学生の発想である。
 だがスルー。リリーがいくら問題を起こそうとお構いなし。むしろあんな我が儘娘に手を焼く、気苦労の多い家として同情を集めていた。
 貴族のくせに娘の教育も出来ない無能、という評価がなぜ無い?はいはい、ゲームのご都合展開ですねわかります。
 とまあふざけてみたが、実際はレイチェルの評判が社交界に知れ渡っていたからだ。
 完璧な侯爵夫人レイチェル。命懸けで産んだ娘は欠陥品。それに心を痛めている家族。けっ。


 そうして最終的にリリーナラリスは、やさぐれた。自分より立場の低い者を虐げる、平民に至ってはもはやゴキブリ扱い。目に入ったら即座に潰す、ああ怖い。



 彼女の境遇には同情するが…だからといって他者を虐げていい訳では無い。だが気持ちはわかる…

 私の唯一の肉親だった母。もしもお母さんに「お前なんて産むんじゃなかった」なんて言われてたら、きっと絶望していた。

 前にも言ったが、とても美しい母だった。レイチェルとか目じゃないわ。顔知らんけど。
 母子家庭のうちはとても貧しかった。だけど2人なら、どれだけひもじくても幸せだった。お金で買えないものがある、ってやつだね。金でしか買えないものも山ほどあるのが現実だが。
 
 だから…愛を知らないリリーが少し、可哀想とも思う。私なんかが烏滸がましいってのは分かってるけどさ。





 それともう1つ、憎めない理由。トゥルーエンドでのリリーナラリスだ。


 ちなみにノーマルエンドでは家を追い出され平民になり、当然厳しい生活を強いられる。
 だが主人公…ミーナが世界を救った後の旅の果てに、リリーナラリスと再会したのである。

 リリーナラリスは全てを失った後、もう誰にも関わりたくないと森で暮らす事を選んだそうな。
 まあ魔法に長けた彼女なら、知識さえあればサバイバル生活も苦になるまい。最初は毒キノコとか食って死にかけてたらしいけど。
 何十年と独りで過ごしていたら、なんだかあんなに家族に拘っていた自分がアホみたいに思えてきたという。
 そうして偶然にもミーナと再会し、その顔を見たら憎しみの情など一切湧かなかった(まあミーナはリリーナラリスをハナから憎んでなどいないが)。むしろ「互いに老けたわねえ」なんて言い合えるほどだったとか。
 そうして互いの立場も何も取っ払った状態で2人は語り合った。

「それでねえ…あら、リリーナラリス?何故涙を流しているのよ。もう、ここは笑う所なのに!」
「ああ、ごめんねえ。…貴女と語らうのはこんなにも楽しいものだったのね。
 あの時、若い頃…家族に囚われずもっと周りに目を向けていれば…また違った未来があったのかもしれないって、最近思うようになったのよ…
 もっと早く気付くべきだったのにね…」
「リリーナラリス…いえ、リリー。今からでも遅くはないわ。私と、お友達になりましょう?」
「…!ええ、ええ!どうしましょう、最初で最後のお友達が出来てしまったわ!」
「あら!何最後なんて決めつけてるの。まだまだ、人生これからよ!」
「ふふ、そうね!…ありがとう、ミーナ」


 という感動的なエンディングなのだ!美しきかな、女の友情。



 あとハッピーエンドだが。リリーナラリスは普通に死ぬ。裁かれて家を追い出され、失意の中その他大勢のモブと共に魔王に殺される。
 ぶっちゃけ特筆すべき事はない。哀しきかな、悪役の末路。





 そして重要、トゥルーエンドのリリーナラリス。
 もう1人の悪役…男主人公ランス版での悪役・アルバート殿下と共に語られる。
 そう、殿下なのだ。アルバート・ベイラー。このベイラー王国の第2王子である。

 この悪役コンビは偶然にも、魔王が人間の国に攻めてきた本当の理由を知ってしまう。


 魔王は…自分の意思で攻めてきた訳ではない。


 かつて魔族と人間が交わした和平条約。魔族側に、最後まで反発していた魔王の側近がいた。
 その名はリンベルド。彼は死ぬまで人間を憎み続け…怨念を残しこの世を去った。怨念といっても彼の魔力も合わさり、最早悪霊になって魔国を彷徨っていた。
 そして当代魔王に就任したリャクル。リャクルは本来穏やかで争いを好まない性質だった。だが彼は魔族にしては…優しすぎた。

 その優しさがリンベルドの怨念につけ込まれてしまい、身体を乗っ取られてしまうのだった。

しおりを挟む
感想 172

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

処理中です...