8 / 164
幼少期
08
しおりを挟むまあ要するにだね、諸君。
このゲームの最大の被害者は、魔王リャクルなんだわ。
彼は人間を嫌うどころか、むしろもっと仲良くしたいな~とか考えていた。
だというのに。トゥルー以外のエンディングではリンベルド共々殺される。いと哀れ。
そんな哀れなリャクルを救うのは…悪役コンビ、アルバート&リリーナラリスなのだ!
リリーナラリスは家族の愛を求めた挙句に悪堕ちした。一方アルバートは、優秀な兄と弟に劣等感を抱き悪堕ちする。
まあこんな簡単な説明では言い表せないが、彼にも苦悩、葛藤があったのだ。
ともかく。悪役コンビはこのルートでのみ手を組み、主人公を陥れようとする。
話は変わるが。ゲームのタイトルでもある「月光の雫」とは、昔の魔王が遺したアイテムの名前だ。
いつの世か魔族が人間を滅ぼそうとしたら起動するようにセットしていた、魔族殺しの剣。
ちなみに人間が魔国に攻め入る事は気にしていなかったのだろう。なんも対策遺してないみたいだし。うーん、さすが魔王。
そんで月光の雫には意思があり、自分で自分の使い手である人間を選ぶらしい。
当然選ばれるのが、主人公である。
そしてこの悪役コンビだが…真相ルートでしか魔王と対峙しないのだ。
悪巧みのために人気の無い場所で会合をする2人。しかしある時、ばったり魔王と出会してしまう。
なんやかんやでそれなりに強い2人、協力してなんとか逃げる事に成功。だがその際、怨念の欠片が2人に触れた。悪堕ちしてるコンビだから、親和性が高かったのかもしれない。
そして知ってしまった。
魔王が人間を傷つけたくない事。泣き叫んでいる事。自分を止めて欲しい、殺して欲しいと訴えている事。
最初は気にも留めていなかった2人だが、ストーリーが進むにつれ他人事とは思えなくなってしまった。
自分達も最初は、誰かに止めて欲しかった。
リリーナラリスは家族に怒って欲しかった。
アルバートも家族に構って欲しかった。
今まで散々悪い事をしてきた。
罪のない人を殺したりもした。
権力を使って多くの家を潰した。
沢山の人を不幸にしてきた。
今更、気付いてしまった…
まだ──間に合うだろうか?
「なあリリーナラリス嬢?提案があるのだが」
「まあ、奇遇ですわね殿下。私もですの」
魔族殺しの剣とはいえ、実体の無いものは斬れない。その為魔王ごと斬るしかない。
ならば話は簡単だ。怨念を自分達に移せばいい。
たかが人間では怨念を受け止める器として足りず、無駄死にするだけ。
だから、2人で受け入れる。
今まで悪行を重ねてきたけれど…最期に。心優しい魔王様の命だけでも救いたい。罪滅ぼしにも、ならないだろうけど。
早く、早く!主人公が魔王を殺してしまう前に!
そして禁術でもある、魂の分離魔法を応用し怨念を引き剥がす事に成功・自分達に移した。
ほんとにもう、才能も根性もあるのに使い所を間違えてまくるコンビだわ(ちなみに引き剥がす間、魔王は逆さ吊りにされていた)。
てか怨念に支配されつつも、自分を見失わないこの2人。いくら魔王は単身だったとはいえ、実は主人公よりハイスペックじゃない?
ともかく準備は、整った。
主人公と悪役コンビが相対する場面。
魔王を追って来た主人公が目にしたのは、魔王に剣を突き立てようとするアルバートの姿。
「やっと来たか、ミーナ!(もしくはランス)」
「ふふ、ほんとに愚図で鈍間ですわねえ。勇者が聞いて呆れますわ」
「殿下、アミエル様…!どういう事ですか!?」
「見ての通りだ。説明しないと分からないのかい?」
「仕方ありませんわ、殿下。上に立つ者の責務として、説明して差し上げましょうよ」
「ふむ、リリーナラリス嬢は優しいのだな。簡単な事さ。
僕達は魔王を使い、この国を滅ぼそうとしたのだよ。僕達を敬わないこの国も、他の国も気に食わないからね」
「でもこの魔王、役に立たないんですのよ。せっかく魔族と人間を派手に戦わせて、その隙に国を乗っ取ろうと思いましたのに」
「僕達は魔族を意のままに操れる魔法を開発したのさ。なのにこの魔王ときたら…抵抗しやがって全く計画が進みやしない!」
「ですのでいい加減始末して、私達自ら貴女達も始末してあげようと思いましたの。丁度いい所で来てしまいましたわねえ」
「「(ちょっと言い訳が苦しいか…?)」」
「なんですって…!?確かにお2人は性格が悪く腹黒で陰湿ですけれど!いつも他人を使う事なく、正々堂々と嫌がらせをしてきたではありませんか!?」
主人公は少し、天然だった。
密かにダメージを受けているコンビだが、その程度で折れるはずもなく。最後の最期まで悪役を演じきった。
主人公は最終的に2人を斬り、リンベルドの怨念も完全に消滅する。
そうして脅威が去った後、月光の雫はまた眠りにつくのであった…
かつて、魔族と人間を争わせようとした2人の悪魔がいた。
心優しき魔王を操るも計画は失敗に終わり、2人は勇者に討ち倒された。
操られていた魔王も正気に戻り、その後人間達と良好な関係を築いた…というのが、世界に広まったお話。
だがその後、主人公には回復した魔王より事の真相が明かされる。アルバートとリリーナラリスは魔王を救い、延いては魔族と人間の関係を盤石なものにした。
だが今更真相を広める事は出来ない。
恐らく誰もが思うだろう。「優しい魔王と勇者だから、あの悪人どもにも情けをかけてるに違いない」と。
人間の国ではもう、あの2人は世界を滅ぼそうとした悪魔として語り継がれることだろう。
故に魔王は、魔国では真相を語り継ぐ事を主人公と約束する。
その後主人公は、悪魔を討った勇者と持て囃される事に耐えられず、魔国に渡る。
そしてその生を終えるまで、アルバート・ベイラーとリリーナラリス・アミエルを想い続けた──
というお話。めでたしめでた…めでたくねーよ!?!
もおおおおお!!!こんなコンビだからゲームのファンからの人気も高くて、もう1人の主人公なんて言われるんだよお!!ヒロインは魔王。
しかも魔王によって、最終局面で主人公が駆けつけるまでの間、約5時間も剣を突き立てる寸前のポーズをしていた事が明かされる。いつ主人公が来るか分からないから。
魔王は身体も動かせなかったようだが、辛うじて意識はあったらしい。
「まだかな?ちょっと僕、腕プルプルしてきたんだけど。一旦剣置いてもいい?」
「きっともうすぐですわ!私も魔法でお支えしますから、頑張ってくださいまし!」
「スパルタぁ…」
なんつー可愛らしいやりとりしてたらしいんだよ!!惚れるわ、バーーーカ!!!
あ、ちなみに主人公の恋愛相手コンビは真相ルートじゃ空気だよ。
そんなこんなで、私はリリーを嫌いになれない。もちろんアルバートも。
特に今、まだ悪さをしていないし…
「アシュリィ!アミエル様がいらしたわよ!」
とと、ゲームの内容思い出してる場合じゃなかった!ベラちゃんの声で我にかえる。
今日はリリーが久しぶりに来る。あの事件以降、実に3週間ぶりだ。
急いで出迎えに行く。玄関に着くと、リリーは既に馬車から降りてきていた。
そしていつも通り、初老のシスターが言葉を交わす。基本的にリリーと直接喋るのは彼女だけだ。
「アミエル様、お久しぶりですわ。子供達もみんな、アミエル様がいらっしゃるのを心待ちにしておりましたの」
正確には寄付されるお金や物資をですけどねー!
簡単に挨拶を交わした後、なんとリリーはこちらを向いた。勘違いかと思ったが、確かにあの目は私を映している。
その証拠に、さっきまで私の近くにいたベラちゃんもカルマもニックも遠く離れている。裏切り者どもがーーー!!
そしてそのまま私に近づいて来て、口を開く。
「…あなた。少々よろしいかしら?」
「っ!はい。もちろんです」
あ、お礼の話かな?
5
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる