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幼少期
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しおりを挟むシスターの話を要約するとこうだ。
今から約40年前。シスター・サラティナ伯爵令嬢とベンガルド伯爵家の料理人見習いの少年、オリバーは恋に落ちる。
家族には猛反対され…ることはなかった。ベンガルド家は、貴族には少数派の恋愛結婚至上主義だったので。
既に跡取りの長男も他の娘達も恋愛結婚してるので、サラティナも好いた相手と一緒にしてやりたかった。
相手が平民であるのは気にはなるが、2人が相思相愛なのは屋敷中全ての人が知っていた。
だ・が!反対されると思い込んでいたサラティナは、オリバーの「落ち着こう、一旦落ち着こう?旦那様と奥様にちゃんと報告してから…」という言葉をまるっと無視。なんとまあ駆け落ちしてしまった。オリバーを引き摺って。
伯爵家は大パニック!でもなかった。
オリバーは、こまめに現状を伯爵家に報告していた。
「シュタンの街に着きました」「食堂を開く予定です」「赤ちゃんが産まれます!」「息子達が食堂を手伝ってくれるので、大分ラクになりました。」「サラは、孤児院を併設している教会でシスターになるそうです」等々。
「それでねえ、私達の居場所がバレてるなんて、息子が生まれた時に知ったのよ~。急に現れて、「孫は何処だ?」なーんて、ねえ。
お父様達、実はこっそり食べに来てたんですって!確かに「あのお客さんお父様に似てるわ」なんて思ったりしてたけど、まさか本人とは思わないじゃない?
伯爵のくせに、庶民の食堂に来ちゃって、もーねえ。それで今は普通に実家と手紙のやりとりとかしてるから、相談してみるわよ?」
「お願いしますっ!!」
シスターの過去にびっくりしてる場合じゃないわ。千載一遇のチャンス!
「はい。アシュリィだけでいいのかしら?」
「オレも行く」
「え」
「アシュレイ…?」
リリーもびっくりしているが、私も相当驚いている。アシュレイはまだここに来て日が浅いので、他のみんなほどリリーに懐いていない。
まあそれなりに好意は抱いているようだが…そんな、自分の人生を賭けるほどとは思ってなかったよ!?
「アシュリィ、アシュレイ。よく考えてね?もしも侯爵家のお屋敷で働かせていただけることになったら…もうここには帰って来れません。
貴方達はまだ8歳です。14歳まではここでお手伝いをしながら、楽しく暮らす事も出来るんです。その生活を捨てる、という事ですよ?」
「「はい」」
「2人とも…なんでそこまで私の…」
リリーは…いや。彼女は悪役令嬢リリーナラリスじゃない。ゲームの登場人物じゃない。今ここで生きている、苦しんでいる女の子だ。
そして、私の友達で主人、リリー様だ!
「リリー様!あなたが嫌だと言っても、私はあなたに付いて行きますからね!
侯爵もご兄弟も全員ぶっ飛ばす…のはダメだから、トロくん以外の使用人ども全員ぶん殴る!!
殺人タックラーの異名を持つ私を敵に回した事、後悔させてやるわあっ!!」
「…バレないようにね。アシュレイ、あなたは?」
「オレは…まあ正直リリー様の事はよく知りませんね。でも目の前で苦しんでる人がいたら、出来る範囲で助けになりたいっつーか…
その…アシュリィを1人で行かせられねえですし…」
「「ほーん?」」
「な、なんだよ…!」
「「別にぃ?」」
「あらあら?」
ニヤニヤしてるリリー様にトロくん。あとニコニコのシスター。今の話、そんなに面白いとこあったかね?
しっかしアシュレイ、なんてお姉さん思いの子なんだ…!姉(自称)の私を1人にできないから付き合ってくれるって…!
前に警備隊のおっちゃんが言っていた、性根は悪いやつじゃないって。ほんまやでえ…!
そのまま伝えたら、全員ずっこけた。なんでよ?
それから手紙を送ってもらい、返事を待つ事数日。その間リリー様は教会に来ていない。子供達も寂しがっていたが、道中危険だから仕方ない。
トロくんも護衛を続けたいと侯爵に訴えたらしいが、あまり言うとクビにされそうな流れだったらしい。なので庭師として、リリー様についていてもらう事にした。
トロくん本人は業務の合間や、お休みの日に教会に来てくれる。なので手紙をリリー様に渡してもらっている。互いに現状報告ばっかだが。
「アシュリィ、伯爵家から手紙来たわよ」
ついに来たっ!!なになに…
「なんて書いてあるんだ?」
「アシュレイ、字の勉強サボってんね…?もう。
えーと。お願い聞いてくれるって!あまり時間をかけられないこっちの希望通り、1ヶ月で全部叩き込んでくれるってさ。
そんで合格貰えたら侯爵家に推薦状書いてくれるって!」
「おお!よく分からんがやったな!」
そこは分かっときなさいよ。だがここまでお膳立てしてもらった以上、結果を出せないってのは許されない。いや、私が許せん!!
リリー様への手紙を書き、トロくんが来たら渡してもらう。そして私達は荷造りをし、翌日。教会の皆に見送ってもらい、馬車で1日のベンガルド領へと旅立つのであった。
「トロ、ご機嫌よう」
「ああお嬢様。またいらしたんですね」
「ええ。もう私の憩いの場はここだけですもの…」
リリーナラリスは勉強等がない時は、トロのいる庭に入り浸るようになった。大体四阿で本を読みながらのんびりしてるだけなのだが、使用人達からは逢引だわなんて言われている。
本人達はまるで気にしていないのだが。周囲は蔑んでいるつもりなのだろう。
「はいお嬢様、アシュリィちゃんからの手紙です」
「ありがとう。…あら!まあまあ」
「なんて書いてあったんです?」
「ふふ。それがね…」
【拝啓、リリーナラリス様
聞いてください!ベンガルド伯爵家で侍女教育させてもらえる事になりました。
アシュレイは執事と思ったけど、ひとまず護衛も兼ねた従者を目指します。その後従僕、執事とランクアップさせます!!
と思ってたんですけど。ベンガルド伯爵によると、女性でも執事になれるそうですよ!?知ってました!?私は初めて知りました。ただ数は少なく、この国にはまだいないそうです。
私はこの国初の女執事になりますよ!!ついでにアシュレイも。ダブルアシュ執事がリリー様をお守りしますからね!!
なのでこの手紙を書いた翌日より1ヶ月、私達はベンガルド領に向かいます。この手紙がリリー様の手に渡る頃には、もう教育は始まってるかもしれませんね。
必ず紹介状をもぎ取り、リリー様の元へと参ります。次に会う時はお嬢様、ですね!
アシュリィとアシュレイの成長に、乞うご期待!です!
負けないで!リリー様。待っていてくださいね。
アシュリィ】
「ふふ。1ヶ月後の楽しみができましたわ」
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