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幼少期
23 アシュレイ視点
しおりを挟む「隊長、こいつなんですけど…」
「お、おう…」
オレの目の前には、隊長とかいう髭のおっちゃん。めっちゃオレの事睨んでないか!?このおっちゃんに殴られたらオレマジで死ぬ!!!
「えーっと、おい坊主…」
「!!!!」
「「え!?」」
オレは咄嗟にしゃがみ込み、頭を抱えた。いつもの癖で、大人達の前だとこうなる。特にガタイのいいおっちゃんは、あの傭兵達を連想させるから余計怖かった。
「…どうします、隊長」
「…とりあえず、ライル呼んでこい」
暫くしてオレの目の前に現れたのは、おっちゃんではなくまだ若い男。
これは後になって知る事だが、ライルさんは成人したての15歳で、警備隊の中でも一番線が細くて背も低い(オレから見りゃそれでもデカかったが)。
オレに配慮した結果らしい。いや本当に、ライルさんが来てくれて助かった…
その後、このにいちゃんとだけは、なんとか会話する事ができた。
そこでオレがスラムから来た事、捕まりそうになって仲間と逃げた事、でもオレ1人になってしまった事…。少しずつ話した。
途中で出してもらったご飯は、あったかくてうまくて、勢いよく食べた。その後全部戻したが…
おっちゃん達もすげえ焦ってた。今にして思えば申し訳ない…ごめんな。でもあの飯…みんなで食べたかったな…
そしてその数日後。おっちゃん達と少しだけ会話ができるようになった頃。
「おーい、坊主。お前さんの住むとこ決まったぜ」
「え…オレ、売られる…?」
「ちげーよ!」
「ひ…!」
「「隊長!!!」」
まだ大声は怖い。でも隊長は、副隊長とラウルさんに揃ってシバかれてた。
「おう…すまん。あの、アレだ。お前さんを売るような奴この街にいねえから。
お前が行くのは、孤児院っつー親のいない子供が集団で暮らす家だ。同じ年頃の子供もいるし、優しいシスター達もいる。それに殺人タックラーの嬢ちゃんもいるから安心しろ!」
「殺人、タックラー?」
どこに安心要素あるんだ?すっげえ物騒なんだけど??
「ああ、あの女の子ですね。あんなにちっさいのに、すごい強いらしいですね~」
「あの子がいるなら安心だな。坊主の事も守ってくれるし、坊主が暴走しても止めてくれるだろ」
「今度はラリアットとか飛んできそうですね~!」
「「確かに!」」
あっはっは じゃねえよ!!そのタックラーって本当に安心出来るのか!?
オレは不安に思いながらも他に行くアテもないし、大人しく迎えを待った。
そして暫くして。
「おーい、お迎えきたぞ。タックラーの嬢ちゃんも」
「うん…」
恐る恐るついていくと、そこにいたのは優しそうなおばちゃんと、オレと同じくらいの女。長い髪の毛で顔の半分が見えない上に、殺人タックラーのイメージが強すぎて超怖い。
だがそんな風にびびってるオレに対して、優しい声で(多分)笑いながら今日から家族だ、と言ってくれた。
そのおかげで一気に緊張が吹き飛び、目の前の子にびびってた事が急に恥ずかしくなった。だから思わず
「うるせえ、タックルゴリラ」
なんて言ってしまったんだ…
まさかタックルでもラリアットでもなく、アイアンクローを喰らうハメになるとは思わなかった…。オレ、足浮いてたよ…
そんでもって、オレはなんとその小さい肩に担がれて大通りを運ばれた。羞恥で死ぬってこの事か…。最初は抵抗していたが、その方が目立つと気付き大人しくすることにした。
だがこの件は、この街で長く笑い話として語り継がれる事になるのであった。それこそ、末長く。
そして孤児院、もとい教会に着いたと思ったら、ゴリラ…アシュリィの顔を見て驚いた。
よく姉ちゃんが、オレの事を可愛いって言ってた。よく分からなかったが、多分こういうヤツを可愛いって言うんだろうな。
長い髪を上げてみれば、白い肌に真っ赤で大きな目。やや垂れ目だが眉がキリッとしてるせいか、なんだか凛々しい印象だ。
スラムにいた姉ちゃんやほっぺ、今まで見てきた女の誰よりも可愛いと思う。
そうして無意識に見惚れてたオレだが、気付くとその整った顔がオレのすぐ目の前にあった。
「へえ、綺麗な紫色の瞳だね。キラキラしてる」
なんて抜かしやがった。キラキラしてるのはオマエだろ!?まあそんな事言えるハズもなく。
すると廊下の向こうから、雰囲気の違う女が近づいて来た。なんとなく分かる。オレが散々近づくな、見たら逃げろと言われていた貴族ってヤツだ。
思わずアシュリィの後ろに隠れる。この時ばっかりは、格好悪いとか恥ずかしいとか言ってられなかった。
まあ思い返してみれば、自分が逃げようとしてんのに女の子盾にすんのアウトじゃねえ?と気づくのだが…
アシュリィによれば、そんなに警戒しなくていいとの事だ。そんなすぐには信用出来ないが…疲れた。
アシュリィは口は悪いが、オレの事を気遣ってくれていた。なのに傷跡を見られたくなくて突き飛ばしてしまった時なんか、肉屋のおっさんみたいに怪我させちまったんじゃないかって怖くなった。
でもピンピンしてるどころか、逆に謝られた…オレ格好悪い…
その後も甲斐甲斐しく世話を焼かれ、もうどうすりゃいいのか分からなくて大人しくされるがままにしておいた。だが一緒に風呂に入ろうとすんのはやめてくれ…!
そして抵抗虚しく一緒に眠ることになったが、疲れてたオレはすぐに夢の世界に落ちた。
夢の中ではスラムのみんながいて、オレは胸が締めつけられたんだ。みんなオレをおいてどっかに行こうとするから、走って追いかけても全然届かない。
『置いてかないでよ!なんでオレは一緒にいちゃダメなの!?なあ、おいみんな!!』
でもみんなオレの方を見て微笑みばかりで何も言わない。なんで…なんでだよぅ…
…もう朝か。随分と陽が高い。1人になってからあまり眠れなかったが、昨日はよく眠れた。あったかいお陰かな。
…あったかい?
「!!!!」
なんとオレは、アシュリィを抱き締めていた。そりゃもう、ぎゅ~っと。アシュリィの方もオレの背中に手を回し、2人で抱き合う形になっていた。
「う、うわあああーああああぁぁぁ!!!!?」
この街におけるオレとアシュリィの伝説がまた増えた瞬間だった。
ついでに衝撃のおかげで、夢の内容も完全に吹っ飛んだ。
そうしてオレは「アシュレイ」という名前、誕生日をもらいこの教会に馴染む事が出来た。すぐにリリー様やトロとも打ち解けられた。
リリー様はオレらとは身分やら立場は違うけど、すっごく優しかった。これでも昔は冷たかったっていうんだから、人間って変わるもんだな~。
トロも結構鍛えてるんだけど(実は密かに憧れている)、2年前はヒョロヒョロだったらしい。好きな女が出来て変わったんだと。そんな理由でも変わるんだな~。
そういやオレ、アシュリィに「アシュレイの青い髪綺麗だね~」と言われてから、伸ばすようになった。
…いや違うから!オレが伸ばしたい気分なの!!
ともかく!オレ達は元気のないリリー様の力になるべく、ベンガルド伯爵家っつー所で修行する事になる。
シスターも、よく考えるようにと言っていた。
でもな、オレにとってはあのスラムで暮らしていた日々を考えれば、今の生活は天国だ。だから、大変でも全然大丈夫。
むしろ今の生活が平和すぎて…辛い。それにアシュリィは、オレに執事を目指せと言っていた。執事になれば、貴族との繋がりが出来るかもしれない、とも(本人は侯爵家よりも上の貴族との繋がりをゲットして、リリー様を助ける!と息巻いていた)。
そしたら…スラムのみんなを探す事が出来る様になるかもしれない。すぐには無理でも、いつかチャンスが来るかも…!
最初はアシュリィを1人で行かせられない、と思って決めたのだが、そっちの方がメインになってきている気がする。
だからアシュリィ、リリー様、トロ。オレ…お前らが思ってるようないい奴じゃないよ。
自分の目的の為にみんなを利用してるだけなんだよ…
ごめんな。
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